中学受験/高校受験/大学受験の模試間の偏差値変換モデル【全面改訂版】
ここ数回で、大学受験の早慶本命率や高校の難関大学進学率を分析してきました。これらの分析で、次の考察結果を得ています。
高校入試時点でみた大学入試の早慶のレベル(本命率からの算定)
=駿台中学生テストの確実圏偏差値で60.5の高校高校入試時点でみた大学入試の早慶のレベル(難関大学進学率からの算定)
=駿台中学生テストの確実圏偏差値で60.5の高校中学入試時点でみた大学入試の早慶のレベル(難関大学進学率からの算定)
=合格力判定サピックスオープンの80%偏差値で57.5の中学
ここまでデータが揃うと、中学受験/高校受験/大学受験の模試の間での偏差値を変換できそうです。そこで、今回はこれらの模試の間での偏差値変換モデルに挑戦してみます。
0. 結論
駿台全国模試(大学受験)、駿台中学生テスト(高校受験)、合格力判定サピックスオープン(中学受験)について、それぞれの偏差値45〜65あたりで3科目基準で比較すると、「駿台全国模試の偏差値ー3≒駿台中学生テストの偏差値≒合格力判定SAPIXオープンの偏差値+α(αは1程度)」となる。
1. 母集団が異なる模試の偏差値比較の考え方
この記事の初稿を書いた後に、改めて考察を行い、大学受験/高校受験/中学受験のように母集団が異なる模試の偏差値比較(変換)の考え方を記事にまとめています。
詳細は別記事をご覧いただければと思いますが、考え方のポイントは「大学受験と高校受験と中学受験で、学力レベルが同等とみなせる集団(それぞれの母集団の中の標本)を仮定すれば、その3つの集団のそれぞれの受験タイミングの模試の合格者平均偏差値(標本平均)は同等となる」というものです。
今回の分析では、異なる母集団の模試で学力レベルが同等とみなせる集団は、大学入試での早慶の一般入試合格者と同等の集団(標本)と定義します。高校・中学でいうと学年平均の生徒(中央値近辺)の進学先が早慶というレベルの学校が同等の学力レベルとみなしています。それぞれの集団(標本)の中では、上は東大レベルから下はMARCHレベルまで分布していても、標本平均値は早慶合格者の平均値と同等という想定です。
このような考え方のもと、「大学受験の早慶合格の平均学力=早慶進学が中央値付近の高校の平均学力=早慶進学が中央値付近の中学の平均学力」として扱います。なお、これは大学受験の早慶合格と高校・中学受験の早慶附属校合格を同等としているわけではないことに注意が必要です。
2. 大学受験の早慶の学力レベル
一般入試を対象として、駿台全国模試の偏差値を比較指標として採用ます。合格目標ライン偏差値(2024年10月調査)を基準としますが、私立はこれがB判定相当になるようなので、合格目標ライン+3でA判定偏差値を設定します。
ただし、大学・学部・学科で入試科目と文系・理系の母集団が異なるので、同一の比較には、これらの差異の補正が必要です。この補正については、過去の分析結果に基づいて、科目数ー1に対して偏差値+1を行い、さらに文系はー1、理系+1を行うことにします。今回は私立大学が比較基準になるため、4科目ではなく、文理混合3科目基準で計算します。
このような考え方で早稲田と慶應のそれぞれで、学部・学科ごとA判定偏差値(文理混合3科目基準)を計算して、そこに倍率と分布想定を加えて、模試判定モデルで合格者平均偏差値を推定してます。その上で、定員に基づく加重平均を計算すると、次の表になります。
計算の結果、早慶の大学入試の難易度は、駿台全国模試の偏差値(文理混合3科目基準)で合格者平均は59.2と推定されました。
2. 模試の母集団の学力レベルの考察
①大学受験
上記の通り、大学の一般受験での早慶の合格者平均偏差値は、駿台全国模試(3教科・文理差なし)の偏差値59.2でした。言い換えると、「大学受験における早慶合格者は、駿台全国模試(3教科)の平均偏差値59.2となる標本に相当する」と言えます。
②高校受験
過去2回の分析から、早慶本命率と難関大進学率のどちらで考えても、駿台中学生テストで確実圏偏差値60.5の高校が大学受験の早慶レベルと言えます。確実圏偏差値が60.5付近にある高校は、都立西・国立・浦和・旭丘・岡崎・天王寺などになるようです。そうした高校の集合が比較対象の標本となります。
次に、この駿台中学生テストの確実圏偏差値が60.5となる標本の合格者平均偏差値を推定します。駿台中学生テストの合格者平均については、過去に複数の高校の合否偏差値分布を掲載していたブログがありました(現在は掲載なし)。例えば、慶應義塾高校は確実圏64.6、可能圏59.2に対して、合格者平均は57.8(2022年)だったようです。
ブログに掲載されていた当時に、合格者平均と確実圏・可能圏との差を概算したところ、合格者平均は確実圏−6、可能圏−2でした。そのため、確実圏偏差値60.5の高校の合格者平均偏差値は、60.5-6=54.5とします。
ただし、この確実圏偏差値60.5を算定した母集団は5科目受験の学校が大半であり、今回の比較基準である3科目に補正が必要です。その場合、3科目基準の合格者平均偏差値は54.5+2=56.5となります。
これにより、「高校受験における大学受験の早慶合格レベルの標本は、駿台中学生テストの偏差値(3教科)で合格者平均56.5の高校に相当する」と言えます。
③中学入試
過去の分析では、SAPIXオープンの80%偏差値で57.5の中学が早慶レベルでした。SAPIXオープン80%偏差値が57.5付近の中学は、本郷・攻玉社・東京都市附属・市川・浅野などのようです。そのような中学の集合が比較対象となる標本です。
次に、この標本の平均偏差値を推定します。80%偏差値から合格者平均偏差値を推定します。このデータがインターネット上ではなかなか見つけられなかったのですが、なんとか見つけられたのが以下になります。
合格力判定サピックスオープンのホームページのサンプル(東邦大学附属東邦中)では、80%判定偏差値と合格者平均偏差値はほぼ一致
https://www.sapientica.com/application/mockexam/04/サピックスでなく四谷大塚だが、ブログに掲載されていた開成と桜蔭の分布グラフでは、合格者平均偏差値=80%判定偏差値−2
中学受験でも合格者平均偏差値と80%判定偏差値の間には、倍率に起因する差が生じるのだと考えられます。ただ、それがどれくらいなのか推定しきれない中、一旦は−2という値を採用することにします。この場合、標本の平均偏差値も−2で、57.5−2=55.5となります。
最後に科目数の補正です。これらの中学校は4科目受験が一般的のため、3科目に補正が必要です。中学受験の科目補正ロジックは組めていないので、大学受験と同じと仮定して、1科目減で判定偏差値+1の補正を行います。この場合、3科目基準の80%偏差値は55.5+1=56.5となります。
このような計算の結果、「中学受験における大学受験の早慶合格レベルの標本は、SAPIXオープンの偏差値で合格者平均56.5の中学に相当する」と言えます。
3. 模試間の偏差値変換モデル
これで、大学入試の早慶合格レベルという同じ学力を有する標本を3つ定義できました。いずれも、3科目の文理差なしの基準です。
大学受験: 駿台全国模試の平均偏差値59.2の早慶合格者
高校受験: 駿台中学生テストで平均偏差値56.5の高校の集合
中学受験: SAPIXオープンで平均偏差値56.5の中学の集合
これを一覧にするとこのようになります。
この場合、3つの標本の学力レベルは同等という前提のため、「駿台全国模試の偏差値−3≒駿台中学生テストの偏差値≒合格力判定SAPIXオープンの偏差値」となります。ただ、合格者平均の推定にあたり、中学受験は少し雑に80%偏差値との差を−2と設定しました。倍率が高い中学では、これ以上に開いて−3くらいになる可能性があります。そうなると、SAPXオープン偏差値は上記より1下がります。
この点も踏まえると、「駿台全国模試の偏差値−3≒駿台中学生テストの偏差値≒合格力判定SAPIXオープンの偏差値+α(αは1程度)」とSAPIXオープンに多少の誤差を見ておくのがよいと考えます。逆に言えば、誤差1を許容すれば、駿台中学生テストの偏差値≒SAPIXオープンの偏差値とシンプルに計算できます。グラフにするとこのような感じです。
なお、この変換式は大学入試の早慶合格者と同等の標本を対象に構築しているため、そこから外れる場合には、当てはまりが悪くなるはずです。3つの標本の平均偏差値から考えると、当てはまりがよいのは偏差値45〜65くらいと考えます。それ以外でも当てはまらないわけではないのですが、ただでさえ一定はありそうな誤差が拡大するはずです。
4. 最後に
今回の考察で、誤差1くらいを許容すれば、駿台全国模試=駿台中学生テスト=合否判定サピックスオープンという変換モデルを作れました。これがあれば、「早慶MARCHに入学するのは、中学・高校・大学で難易度が違うのか?」や「高校募集も行う中高一貫校には、中学と高校のどちらで入学すべきか?」などの疑問に見解を出せます。
次回以降は、このモデルの検証も兼ねて、上記のよう命題について考察しようと思います。