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39歳の書き付け。

朝6時過ぎに目を覚まし、トイレに行って、顔を洗い、もずくに散歩に行こうかと声をかける。散歩の言葉に反応して飛び回るもずくにリードを付けて、最近買ったランニングシューズを履いて外に出る。夜露が乾ききる前のアスファルトの上を走り出す。傾斜のついたソールがぐいぐいと身体を前に送り出す。あちこち嗅ぎ回りたいもずくがぐいとリードを引っ張る、引っ張り返す。音もなく静かに伸びをするおばあさんにおはようございますと声をかける。ヘルメットをかぶった中学生が自転車で通り過ぎ、うつむき気味におはようございますと挨拶してくれる。春に見事な花をつけた桜は葉を落とし、河原をびっしり覆っていた野草たちはそろそろと大地に身を隠す。白い小さな花が集まって咲いている。帰ったらなんていう名前か図鑑で調べようとここ二週間ずっと思っている。遠くの山々に立ち上る朝もやを眺めているともずくが草むらに身体を突っ込んでうんこを出す。臭え臭えと言いながらうんこを拾うが、うちに来た頃はがりがりに痩せて怯えていたもずくが朝晩一緒に散歩して、立派に臭えうんこをするようになったと思うとほんとによかったなあ、ありがとなあと思う。

メール、slack、メッセンジャー。あれやこれやと飛んでくる飛ばす。返ってくる返さない。BGMを選ぶだけのはずのyoutubeにしばらく時間を費やす。金曜日の大学の講義の準備しなければと思いつつ思ってるうちに打ち合わせが始まる。打ち合わせに出席しつつも心はあちらこちらへ飛んでいく。作りかけの書類を開き、メッセージを確認し、twitterのタイムラインをスクロールし、時折参加してますよという顔でうなずいておく。12時前には腹が減り、階下に降り、何食べようか。ラーメンでも作ろうかと話す。湯を沸かし、ネギを切り、卵を落とす。食後には湯を沸かし、豆を挽き、フィルターを濡らし、豆を蒸らし、香りを嗅いで、コーヒーを淹れる。温めておいたカップに注ぐ。うまいと言われ、うまいねと返す。ホーチミンのロックダウンはようやく解除。こちらは午後、あちらは午前。クロネコヤマトにもずくが吠える。ベトナムのメンバーたちがんばってくれたありがとう。なんとか生き延びた。ここから仕事いっぱいしよう。新しく仕事の相談をもらう。どうしても気が乗らない作業にようやく手を付ける。気づけばyoutube、打ち合わせ、細切れの作業。

16時過ぎ。もずくがやってきて前足でぱたぱたと腿を叩いて散歩にいこう散歩にいきたいとせがむ。1日パソコンの前にいて、日本やベトナム、あちこちと会議したり、作業したり続けていた目はすっかりしょぼくれている。そうだ山に行こうもずくと声をかけて、リードを繋いだもずくを抱えて車に乗り込む。車に乗ると相変わらず不安そうな顔のもずく。森山のふもとに着くと大喜びして登山道を駆け上がっていく。駐車場には我々だけ。黒い小さなお尻を追いながら坂道をゆっくり歩いていく。風もなくかさこそともずくが駆け回る音と砂利を踏む足音が聞こえる。木々も池も静かにしている。登山道を脇道にそれて上がっていくと祠がある。祠への道、祠の周りは落ち葉や雑草に覆われている。閉じられた祠の前の木々の切れ間からは夕陽に染まった空が見える。また来ますねとつぶやいてもずくと一緒に山を下る。まだ遊びたいというもずくを捕まえて毛に絡まった草や葉を取り除き、足を払って車に乗って家に帰る。帰ったら家族みんなでゴジャスに買い物に行く。田んぼのむこうに大きな夕焼けが見える。

買ってきた食材を洗う、切る、煮る、焼く。玄米の炊ける香り。食卓に並べうまいねうまいねと食べる。プシュッとビール。もずくは窓際に寝そべってこちらを見ている。カテキョの生徒から今日やった勉強の成果が送られてくる。ステッカーを送り、コメントを返す。毎日がんばってえらいなあと言う。風呂に湯を張り、バブを入れて、歯を磨きながらゆっくり浸かる。こうしてゆっくり入ってられるのはいつまでかなって話す。風呂上がりの水。サプリ。上で仕事してるよと声をかけ、もずくに上行くよと声をかけ、階段を上がる。トトトともずくが着いてくる。パソコンを起こし、いくつかのサイトを巡回し、細切れになった作業に手を付ける。居酒屋まろんで飲んだ人たちが帰る声。代行の車のエンジン音。

ベッドに入る。枕元の本を開き、3ページ読む。まぶたが重い。4ページ目に進むのはやめて、スタンドの電気を消す。外は街灯で青白い。

寝。

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