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子どもの嘘と母の想いと言葉の宝物


幼稚園にあがる前
私は平気で嘘をつく子どもだった

「最後のプリン食べたの誰!?」
「よはくちゃん知らない」
「誰!?濡れたタオル床にほっぽったの!?」
「よはくちゃん知らない」
苦手なにんじんをこっそり床に落として
「あぁ!にんじん落ちちゃった!食べられなぁい!」

嘘うそウソ平気で嘘をついていた

ある日
とうとう見かねた母が
私の両腕をそっと握り
顔を近付けて
真剣な眼差しで
「よはくちゃん、嘘をつくとね、目の中にドクロが出るの。
お母さん、よはくちゃんの嘘、全部知ってるのよ」

母の真剣さと
目の中にドクロ…
恐くて恐くて

「ごめんなさい。もう二度と嘘つきません」
「そうよ、嘘はダメ。分かってくれればいいの」

それから時々
こっそり鏡を覗いて
ジッと目の中にドクロが無いか確認した

幼稚園に上がって
先生やお友だちがお話しする時
嘘をついていないか
ジッと目を覗く癖がついた

小学生中学生高校生
真っ直ぐないい目をしてる
そう褒めてもらった


目を覗き込む癖は続き
大人になって
あんまり目を覗き込む私に
心ない言葉をかけられ
一時期
目を合わせられなくなった


ある時バイト先で
「君はめいぼうこうしだね」
年配の男性が言った言葉が分からなくて
「申し訳ありません。先ほどの言葉はなんでしょうか?」
「おや?めいぼうこうしを知らないのかい?
明るい瞳に白い歯の事だよ。褒め言葉だ。
帰ったら辞書で「め い ぼ う こ う し」と調べてごらんなさい」
「はい、必ず調べます。ありがとうございます」
男性はニコニコして頷いてくれた
嬉しかった
何故だか母も私も一緒に褒めてもらった気持ちだった

帰って早速辞書でめいぼうこうしを調べて
もっともっと嬉しくなった
宝物の言葉
母との約束とこの言葉に恥じない自分でいよう
そう思った


今でも時々ジッと覗き込んでしまう

そして私は母との約束以来
一度も嘘をついていない
きっとこれからも嘘はつけない

ただ優しい嘘もある事を知った
でもやっぱりどうしても嘘がつけない
だから優しい嘘をつく代わりに優しい言葉を探して選ぶ


目の中にドクロ
見た事ある?


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