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眼科とシカト

気付いたらどんどん酷くなって両目がお岩さんの様になってしまった。
極端に病院を嫌がる私の頭に帽子を目深に被せ腕を引っ張り嫌々眼科に引き摺られて行かれた。

「あぁだいぶ擦っちゃったでしょう。膿出しちゃいましょう」
診察室とは別の部屋へ連れて行かれて看護師さんから
「麻酔かけますね〜」
ぽちゃんぽちゃん
両目に目薬を一滴ずつ垂らされた。
数分して先生が
「はい、切開していきますね〜」

どぅーどぅんどぅーどぅん

無理矢理開かれた目に細いカッターの様なメスが近付いてくる。
この時はまだきっと麻酔が効いている。
そう覚悟を決めた。
束の間
私は力の限り絶叫した。
「い“った”ぁ”〜〜〜い“!!!!!」
麻酔?麻酔って何だっけ!?
猛烈な痛みと見えてるメスでパニックである。
「痛い痛い痛い!!!!!止めて〜〜〜!!!!!」
とにかく絶叫し続けるしか出来なかった。
あらゆる手に押さえつけられながら絶叫した。

切開して手袋を嵌めた両指で私の瞼をギューギュー押していた先生が
「高校生?」
「違いますーーーーー!!!!!」
「……そう………膿残ってるけどもういっか………」
「ちょっと消毒して〜」
「お水かかりますね〜」
「はい、もういいですよ。あんまり触らない様にね」
心なしか先生はぐったりしていた。

痛みから解放された私は意気揚々と診察室の扉を開けた。
待合室に20人ほど居ただろうか。
ギョッとした視線を一斉に浴びる中
一人だけ帽子を目深に被り俯いて肩が揺れている。
駆け寄って隣に座り
「ねぇねぇ、信じられないほど痛かった」
しーん
「あれ?聞いてる?すっごい痛かったんだから」
しーん
肩を揺らしながらそっぽを向かれた。
「ねぇねぇ、どうしたの?聞こえてる?」
ますます肩は揺れたがお会計まで一切返事は無かった。
肩を揺らしながら黙ってお会計を済ませ目薬を受け取った。

帰り道
帽子で目線を隠したまま目も合わせて貰えず返事もしてもらえなかったが
とうとう我慢出来なくなったのか弾ける様に大笑いし始めた。
私は
「ねぇねぇ、なんで笑ってるの?なんでシカトすんの?」
「すんごい痛かったんだから。目薬自分でさせない。どうしよう!?」
「聞いてる?メスがね近付いてくるんだよ。信じられない怖さだったんだから」
緊張から解放されて止まらないお喋りと謎の大笑いが町中に響き渡った。

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