「マイスター = 匠」は、半分正解、半分間違い。
昨年12月に渋谷で展示会を開催してから、ようやく、ずいぶんと自分の名刺を渡す機会が増えてきた。
そこには、唯一しっかりと示すことができる、僕の肩書きが鎮座している。
「ドイツ国家認定フロリストマイスター」
31歳で脱サラして、割と大真面目に “人生かけて” 得た称号だ。
ところが、名刺を受け取ってくださる方からは「ドイツ?国家?フロリスト?マイスター?」と、4つぐらい疑問符が飛び出してくる。まあそりゃそう…だよね。距離にして9000キロ以上離れている国の資格なのだから。日本でピンとくる人が少なくても仕方がない。
日本でも最近「マイスター」という言葉を耳にすることが増えてきたけれど、「おそうじマイスター」とか「ものづくりマイスター」のように、それは「匠の技を持つ人」「名人」を示す称号として使われていることが多いようだ。
となると、「ドイツ国家認定フロリストマイスター」へのイメージも、花の技術を持った人といったところだろうか。
うん、確かに花の技術は学ぶから、間違いではない。けれど…
ドイツ国家認定資格としての「マイスター」が持つ意味とは、それだけでは不十分なので、今日は皆さんに「マイスター」について少し詳しくご紹介します。
マイスター学校は、教育学や経営学が必須科目。
こちら↑の女性は、僕がマイスター学校に入学するまでの約1年半働いたお店のオーナー。彼女も僕と同じマイスター学校の卒業生で、ドイツ国家認定フロリストマイスター(ドイツ語で女性は職業+inをつけて呼ぶので、正確にはマイスタリン)。
彼女は、見ず知らずの僕を、雇い、居食までサポートしてくれたドイツの母。
彼女がもつ「どんとこい!」なカッコイイ人柄も重なって、僕のドイツ時代をずっと支えてくれた。
実は、このように「後継者を育成する」ことも、マイスターの大切な役割のひとつ。そのため、マイスター学校では教育学が必須科目。
他に、マイスターは「お店を経営する」ための資格でもある。だから、経営学や会計学、マーケティングも必須科目だし、全カリキュラムの中で、このような座学の授業の割合は、結構高い。
ドイツでマイスター学校に通う人たちは、その前にBerufsschule(職業学校)に通い、Ausbildung(職業訓練)を積んでいて、皆さん既に「フローリスト」という称号は得ている。
つまり、入学時点でブーケやクランツ(リース)を作る技術は持っているというわけ。
そのうえで通うのが、マイスター学校。
業界のプロとして「匠」の技を持っているだけでなく、お店を経営し、後継者を育成する。これらのスキルが備わってはじめて、ドイツに高等職業能力を持っていると認められる「マイスター」なのだ。
と今でこそ、こんなことをサクサク言ってるけれど、教育学や経営学を慣れないドイツ語で学ぶのには、本当の本当の本当に苦労した。(そしてストレスのはけ口にクッキーやチョコ食べ過ぎて、めちゃくちゃ太った笑)
まず経営を学ぶには、ドイツの就業に関する基礎知識が必要。
例えば、「人員計画を立てる」という課題が出たら…。
事業計画に合わせて必要な人員を考える、最低賃金や休日の保証、休日出勤の手当て、保険、税金など、すべてをドイツのルールに基づいた計画を立てないと、課題はパスできない。(チョコをパクり)
日本のルールであれば「自治体ごとに最低賃金が決められているから…」と、これまで生きてきた中の経験から分かることもあるけれど、ドイツのルールだなんて、日本人の僕には分からない。(クッキーをモグモグ)
分からないなら、調べましょう。(チョコをパクリ)
はい調べます。全てドイツ語で。(白目になりながらクッキーモグモグ)
このストレスに、クッキーとチョコで対応した自分をほめたい!笑
マイスター学校の「花の実技」で身につけたもの
一方で、花の技術やアートに関する授業は、チョコやクッキーに頼らなくても、とても楽しかった。
日本でも僕が美大や芸大に通っていたのなら、その感覚はまた違ったかもしれないけれど。国際社会学を学んでサラリーマンになっていた僕にとって、実技をたっぷり学べる環境は、刺激的で、自由で、「ドイツに来てよかった!」と思えた贅沢な時間。
先述の通り、マイスター学校に入学する時点で、生徒たちは一定のフロリスト経験があるため、「ブーケの作り方」など基礎を学ぶことはほぼない。
その代わり、お花の植生の捉え方や色の捉え方、文化と花の関係性、建築などほかの芸術と花の関係性などをたっぷりと。
これらの授業を通して、僕は花との向き合い方を深められ、感性を育むことができたと感じている。
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さて。
もしかしたら、今まさに渡独を目指してこのnoteを読んでくれている方がいるかもしれません。何か情報を求めている方は、ご連絡ください。僕自身、情報を得るのにとても苦労したので、知る限りの情報はどんどんご案内します。
また、ドイツまでは行けなくても、こういうカリキュラムに興味があるという方がいたら、どうぞ気軽にお声がけください。プロのフローリスト向けのワークショップも毎月開催中です。マイスターの大切な役割のひとつ「後継者の育成」を、ここ日本の地で始めています。
▼ 参考|ドイツの学校システムについて
イラスト:Loose Drawing
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