【ヨハクナイト vol.01】美術館やミュージカルから、「もっと爆発したい」と勇気をもらう。
■ 装心具ブランド『ソワ』 瀬戸 望さんの話。
前回のnoteで予告させていただいた通り、この度「ヨハクナイト」という連載をスタートすることになりました。yohakuの前田研史が、気になるクリエイターを毎回ゲストにお招きし、“好きな時間の過ごし方” を尋ねる読み物コンテンツです。その対話を通して、感性を磨く秘訣や創作のこだわりを紐解いていけたら…そんなことを思い描きながら、ゆるりとスタートいたします。
第1回目のゲストは、今年の11月に装心具ブランド『ソワ』を立ち上げた瀬戸 望さん。
「心が芽吹く装心具」をコンセプトに、手染めのジュエリーや染め花のオブジェなど、印象的な作品を生み出し続けている作家です。
実は12月16日から、yohakuとともに渋谷ヒカリエ8F「aiiima」で初の展示会を開催中の彼女に、好きな時間の過ごし方と、そこから生まれる物語を尋ねてみました。
[聞き手:前園 興]
※「ヨハクナイト」の記事は、yohaku執筆によるものではなく、第三者的な立場で2人の言葉を引き出してもらうため、ライターの前園興さんにお願いしています。
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“装心具”という言葉に秘めた想い。
_2人は初対面ではないんですよね?
前田:そうですね。
瀬戸さんのパートナーと僕の妻が職場の同僚という縁があり。お互い本格的に作家として独立するタイミングが一緒だったので、キックオフと称して4人で食事をしたのが最初です。
_お互いの第一印象はどんな感じだったんですか?
前田:チャキチャキして仕事ができそうな人。声も元気だし。
瀬戸:よく言われる(笑)。私は完全に「天才キャラ」って思いましたね。凄い能力を隠して、頑張ってるところを見せなくても飄々とうまくやりそうなタイプだなって。
前田:え、そう!?
_分かるものなんですね。
瀬戸:滲み出てました(笑)。
また私も前から花が好きで、実際に作品にも取り入れてますし、細かいニュアンスも通じ合える感覚がありました。
_では早速ですけど、最初に瀬戸さんの経歴を簡単に教えてもらえますか?
瀬戸:はい。京都市立芸術大学の染織専攻を卒業後、フェリシモという服飾雑貨の会社で企画や媒体編集、クリエイティブに関することをやっていました。2014年に、会社員と並行して『Flying Gallop』というアクセサリーブランドを始めたんですけど、大学時代のなごりで、染めを活かしたものづくりを中心に始めました。
その間一度転職して、東京のブランディングデザインの会社で秘書兼広報をしていたんですけど、結局ものづくりがやりたいというところに戻ってきて。それで今年起業準備をして今に至ります。このタイミングで屋号も『ソワ』に変更しました。
_「装心具」というコンセプトが印象的ですね。
瀬戸:ファッションって、憧れの存在に近づくとか、自分を高めるという役割も大きいけれど、そういう背伸びとかじゃなく、今自分が良いと思うこと、ときめいたことをそのまま取り入れるというか、等身大でも良いんじゃないかと思っていて。
心が動く瞬間を持っていることが、毎日を楽しく過ごす秘訣だと思うので、気の持ちようがプラスになるスイッチみたいになれたらいいなと思って、「装心具」と呼ぶことにしました。
_お花もそういうスイッチになるところありますよね?
前田:装着した時に変われるという意味では、近いのかなと思いますね。
ただお花って、“はれ”と“け”の“はれ”というか、スペシャルな時に依頼いただくことが多いじゃないですか。でも瀬戸さんが言うように等身大で良いというか、「今日ちょっと友達が来るから」みたいな時に取り入れても全然良いとも思っています。
刺激を受け、勇気をもらえる場所。
_この対談では「好きな時間の過ごし方」というのをテーマにしているんですけど、瀬戸さんにとってはいかがですか?
瀬戸:美術館に行ったりミュージカルを観たりする時間が好きです。特に作品作りに煮詰まってしまった時とかは、求めてそういう時間を作ることが多いですね。そういう作品に触れて、「その発想はなかった」とか、「もっと爆発したい」とか、マインドの部分で刺激を受けるなど、勇気をもらう感じが強いかもしれないです。
前田:そういえば、六本木の美術館に向かう道でバッタリ会ったことあったよね。
瀬戸:そうだ!あった!(笑)
あとは、詩集とかコピーを読むのも好きです。
詩集やコピーを読むのも好きです。工藤直子さんの「のはらうた」という詩集があるんですけど、その本が子どもの頃すごく好きで。昆虫とかが主人公になって、カマキリが「俺はカマキリ」という視点で詩を書くんですけど、こういう立場だったらこういう風に思うんだ、こう見えてるんだ、みたいなことを感じて育ったのかもしれない。
ケンシさんも、前にSNSで工藤直子さんの詩のこと言ってなかったっけ?
前田:僕は、国語の教科書に載っていた工藤直子さんの「ねがいごと」という詩が好きで。「あいたくてあいたくてあいたくてあいたくて きょうも わたげを とばします」というのがあって。綿毛を見るとそれを思い出しますね。
瀬戸:そういう風に、ふとした言葉に「それってどういうこと?こういう気持ち?」みたいな感じで、自分の体験や想像と結び付けていくことは多いですね。夕げの支度のシーンだと思ったらオレンジに染めてみようかなとか。色づくりは特に、出会った言葉や感情と結びついて生まれることが多い気がします。
落ち着けばいいってもんじゃない。
_インスタに載っている「瞬き」シリーズはそういう意味でも色が多彩ですね。
瀬戸:「瞬き」シリーズはシルクを染めた代表作で、例えば「利休白茶」という色の名前。
▲ 写真一番手前が、「利休白茶」という色
この言葉が魅力的で、利休はこういう色が好きだったのかなとか、その時代を想像して楽しくなって染めるみたいな。
でもこういう渋い色も作りながら、その次にはビビッドなピンクを染めたりもします。大人しいだけじゃ満足できなくて、落ち着けばいいってもんじゃないというか(笑)。
前田:それよく分かる(笑)。落ち着いた感じもいいけど、そればっかりだと物足りなくなるんですよね。
面白いもので、僕が仕立てるお花って、周りの人に聞いてみると、どの時期に知り合った人かで印象がだいぶ変わるらしくて。ある人はフェミニンが得意と言うし、ある人はポップなものが得意と言う。自然派と言われたり、派手な原色系の人と思われていたり(笑)。僕自身の基本は変わってないんだけど、ずっと同じことをやっていたら自分がつまんなくなっちゃうから、「こういう感じですよね」と言われたら「そうでもないですよ」って言いたくなる。
瀬戸:私も同じで、モノトーンが似合う大人の方から買って頂くこともあれば、可愛らしい色合いが好きな女の子から買って頂くこともあるし、買ってくださる方が見出してくれている魅力もあるのかなと思います。なので自分でこういう作風とか決めて、縛られたくないですね。
_でも2人のそういう話を聞くとシンプルに羨ましいですよ。なぜならそれは引き出しがあるということだし、常に変化しようとしているからで、安易に定義されるのを拒絶できるのはパンクだなって思う。
瀬戸:反骨精神はあります。
誰も求めてなかったらどうしようという不安。
_だから逆に瀬戸さんが興味深いのは、そういう作家性の強さがありつつ、よく会社員を10年もやれてたなと。どうやって折り合い付けてたのかなっていうのは純粋に気になりますね。
瀬戸:器用なんですよ(笑)。でも今の話はまさにで、会社員10年やると、相手ありきなこととか、聞き分けの良さとか、身についてしまっている感覚もあるんですよね。
けれども作家として独立するということは、自分の目指す表現を突き詰めていかなきゃいけないことでもあるし、一方でこんなの誰も求めてなかったらどうしようみたいな不安もすごくあります。これくらいのものがみんな好きかもとか、お金をもらうにはこういうものも作っていかないといけないんじゃないかとかは、すごく考えてしまいます。答えは出ていないんだけど…。
前田:確かに瀬戸さん、すごく色々と気にかけてるよね。元気でチャキッとしてるけど、全部がポジティブではないなと。
瀬戸:波風立てたくないみたいなところもあるし、じゃあそれでうまいことやっておきます、みたいなことができてしまうのは…やっぱり会社員やってたせいですよね(笑)。だからこそ今問われているものもあって…自分が譲れないというものをどう作っていくか。
_そうやって迷った時に、さっき話してくれたような好きな時間が導いてくれることもあるんじゃないですか?
瀬戸:そうですね。街で良い言葉を拾った時とか、美術館やミュージカルもそうですけど、人間が本気でやっていることに出会うとこんなに感動するんだということにすごく勇気をもらうので。私もそういうものを作りたいと思います。あとは人から着想することもあって。例えば、“表面的には落ち着いた感じだけど、内面には燃えるものがある人。きれいな色が似合うけど飛び出しすぎる感じでもないな” と思って、染めるトーンを決めてみたことも。だから、オーダーをいただく時は、「こういう風に考えてこうなりました」というのを必ずセットで伝えるようにしています。
「涙が出た」と連絡をくれたお客さん。
_人をイメージしながら作品を作るというのは、ケンシ君の仕事でも近いところあるんじゃないですか?
前田:僕も依頼してくださった方と話しながら、雰囲気や服装はすごく探りますね。ただ、要望も聞くには聞くんですけど全部を受け入れる必要はないと思っていて。自分の要望をきちんと言葉にすることって、実はかなり難易度が高いと思うんです。だから、こう言ってるけどこの辺だろうな、みたいな感じで言葉の裏にあるものを探っていく。
さらに、“言われたまま” をやるよりは、どこかしら僕らしさも入れるんですけど、結果的にその方が喜んでいただけるんですよね。
花は生き物なので、時期によって色の違いがあるし、入荷できないものもある。言われたままをやるというのは逆にリスキーなところもあるから、依頼の通りではなく、その時のベストを提案する。その結果、「わーっ!」って言ってもらいたい。社交辞令ではない、本当に喜んでいる顔は、何か分かりますよね。
瀬戸:私も「わー」って言ってくれたら嬉しいというのはあるんですけど、アクセサリーは小さいから第一印象でそこまでは難しいのは悩みです。
前田:なるほど。
瀬戸:私の場合は、ものにまつわるストーリーや思いを言葉にして伝えるのが特徴でもあるので、そこに共感したといってもらえたら嬉しいですね。
noteを読んでくれて、その後にインスタのフォロワーになってくれた方がいるんですが、価格的にまだ買えないと思ってたんですって。でもアイテムに付いている言葉を見て、「これは今の私のことだ」と思って買ってくれたんです。その方が、「届いたら色もきれいで、本当に自分のためにあるような気がして涙が出た」と連絡をくれて。温度感がぴったり合った時の共感はとても嬉しいですね。自分だけの気持ちじゃないんだと分かった時に、やってて良かったなと思うのかもしれない。
オフラインだからこそ、感じられるものがある。
_真摯にやってるとそうやって届く瞬間があるということですよね。12月16日~開催中の展示会については、どういうものになりそうですか?
瀬戸:小さなものを一杯作ってます。「装心具」と付けたのは、自分の心が心地いい瞬間って外にいる時だけじゃなくて、家にいるときもあるし、あらゆるシーンで気持ちを支えたり応援したりするような存在になりたいなって。なのでジュエリーだけでなく、「はじまりの花標本」というインテリアオブジェとか、いろいろ増えていくと思います。こういう大変な時期だけど、オフラインの場だからこそ感じ取ってもらえるものがあると思うので、ぜひ手に取ってもらえたら嬉しいです。
■ Creative Lounge MOV aiiima 1
yohaku 1st pop-up store「森の便り」
■ Creative Lounge MOV aiiima 2
装心具ブランド「ソワ」お披露目展示会【心が芽吹く 装心具】
会期:2020.12.16 Wed - 2020.12.21 Mon
時間:11:00-20:00 *最終日21日は17:00まで
アクセス:150-0002 東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ8階 8 ⁄(ハチ)