大阪中之島美術館に柳宗悦を魅せた民藝たちが集まる。
こんばんは。yohaku2020です。
先日、はじめて大阪中之島美術館に足を運びました。
前から気になっていた、「民藝MINGEI-美は暮らしのなかにある」という展覧会に行くためです。
大阪中之島美術館
去年オープンしたばかりの美術館。
まちなかでも存在感を放つ黒の外壁に、緑やオブジェに囲まれたエクステリア、中に入ったときに思わず見上げてしまう5階まで貫く大きな吹き抜けの構造も外観からの想像をはるかに超えてとても迫力がありました。
現代建築らしく洗練された無駄のないデザインと、それでいて居心地の良い空間で、近所ならちょくちょく訪れたくなる場所だなと、すぐに気に入ってしまいました。
ところどころに置かれているデザイナーが手掛けたベンチも素敵で、ほどよい距離感の配置が座りやすかった。
エスカレーターが長く、展示階へ登って行く途中の景色を眺めるだけでもわくわくしました。
美術館自体が「魅せる空間」になっているようで、展示会の会場に入る前から楽しめました。
くわしくは、中之島美術館のサイトをぜひごらんください。
柳宗悦(やなぎむねよし)
やなぎそうえつと読まれることもあるようですね。
柳宗理のお父さんで、民藝運動の父とも呼ばれた思想家。
その柳宗悦が初代館長に就任し活動の拠点になった日本民藝館(東京・目黒)と、静岡市芹沢銈介美術館の所蔵する約150点の選りすぐりの民藝品が見られるのが今回の展覧会。
「陳列」にも思い入れがあった柳宗悦。
今回の展示でも、そのこだわりが随所に見えました。
最初の空間ディスプレイの印象
今回、会場内はほとんどのブースが写真NGでしたので、メモと記憶をたどりながら綴っていきます。
下の写真は、1941年の日本民藝館の展覧会での写真です。
IKEAや無印良品などのインテリアショップでも、最近は生活空間を表現したディスプレイの手法が定着していますが、約80年前に柳宗悦はすでにそれを提案していたというのがすごいですね。
前回訪れた北欧デザイン展でも、モデルルームのような展示がありました。
北欧のディスプレイと見比べてみると、民藝館のテーブルセットは大小様々な食器が並んでいます。
品数が多く一度にたくさん配膳される日本食の特徴からか、昔の生活様式で大家族で食卓を囲む様子を再現したからでしょうか。
北欧はワイングラスですが、民藝のテーブルでは温かいお茶用の小ぶりな丸湯呑が用意されています。
国は違えど、どちらもテーブルに花や調度品を飾り食卓を華やかさを演出しています。
(今回の展示では、飾りに燭台が置かれていました。)
全体的に、シンプルで規則性のある洗練された北欧デザインに対して、手仕事らしい一見無骨なようで繊細な形をした器や家具が並ぶ民藝のディスプレイ。
展覧会の趣旨が異なるので当然といえば当然なのですが、北欧は有名デザイナーの作品がずらりと並び、民藝展はほとんど作者不明の手仕事の一点ものを集めた空間。
どちらもとても魅力的でずっと見ていられる光景ですが、あえて印象を伝えるなら、民藝のディスプレイのほうがより、ついさっきまで誰かが居て使っていたような、人の動きや呼吸を感じるような空間でした。
有名なデザイナーではく、その土地の作り手たちが時間をかけて作った品々。
その土地で暮らした人が形にした、風土に合わせた民藝は、その当時の持ち主にとって便利で心地の良いデザインになっていたはず。
それでいて長い時間を経て、現代のわたしたちが見てもなぜが惹かれる不思議な魅力を放っていました。
今回の展示会のテーマに相応しいものを最初に見れて、早々に来てよかったと感じました。
わたしには民藝を見抜く力がまだない
残念ながら、次のブースからは撮影はNGでしたが、「衣・食・住」をテーマにした、日本各地や朝鮮半島、欧州から柳宗悦らがその審美眼と行動力で発掘した『用と美』を兼ね備えた民藝の数々が展示されていました。
展示の仕方も一定ではなく、陶磁・染織・家具などそれぞれがより際立つように配置されていて360度眺められるものもあり飽きさせない。
なかでも私が長く立ち止まって見入ってしまったのが、イギリスのスリップウェアの大皿。間近で見るとすごい迫力。
サイズは不明ですが、横幅60cmくらいあるように感じました。
ちなみに日本でもスリップウェアは人気ですが、起源がとても古いらしくなんと紀元前5000年から使われてきたそうです!
初めてみたときは模様がとても日本的だと感じましたが、エジプトやローマなどを経て、イギリスで発展を遂げたそう。
今回調べるまで、イギリス発祥だと思っていました。
他にも、江戸時代の粋な将棋の駒柄の羽織やバーナード・リーチが柳宗悦らと小鹿田焼の里を訪れたときに製作した食器(それをきっかけに小鹿田焼のコーヒーカップが新たに作られるようになったそう)や、ブルーの発色がきれいな倉敷ガラスの瓶、日本の質素な住空間に映える桐文行燈など、貴重な民藝が数多く展示されていました。
そして、その民藝の中にすごくシンプルな黒のブックエンドが控えめに並んでいるのが目に留まりました。
最初、他の民藝に目を取られて見逃すところでしたが、「ん?」ともう一度戻って立ち止まりじっと見てしまいました。
理由は、こう思ったからです。
「めちゃくちゃシンプルで、もしこれが100均に並んでいてもわたしなら気づかない!」
すごく失礼な感想ですが、なぜこのシンプルなブックエンドを柳宗悦は美しいと気づいて持ち帰ったのか。
しばらく眺めていましたが、こんな短期間では私の眼では理解できるはずもなく断念して立ち去りました。
いつか多くのものの中から、光る一品を見いだせる力を身に付けたいものです。
わたしが民藝に興味を持ったきっかけ
私が民藝に興味を持ち出したのは、10年ほど前です。
それまでは民芸と聞いても、「おばあちゃんが好きそう。昔ながらの花柄の食器とか?」のような浅いイメージしか持っていませんでした。
当時、セレクトショップや雑誌で小鹿田焼の飛びカンナ模様のお皿を目にするようになり、「なんかおしゃれ」と思っていました。
その頃、会社の同僚たちと旅行計画があがり、ひとりの友人から「小鹿田焼の里に行こう」と提案されました。
その友人は、以前BEAMSのショップで働いていて器にも詳しく、私も興味が湧き全員一致で旅先が決まりました。
古い記憶ですが、大分駅からレンタカーを借り、友人の運転でかなり走った先の集落にその窯元がありました。
みんな若かったのと、初めて見る窯元にテンションが上がり、すぐに自由行動で幾つもある窯元をそれぞれが好きなように散策しました。
宿で、友人たちが買った小鹿田焼の戦利品を見せ合って、「それいいー!」「そんなのあった?」など、わいわいお酒を飲みながらおしゃべりしたのを覚えています。
そこから、各地方の器に興味を持ち、小鹿田焼の他に小石原焼、益子焼、出西窯、木漆、やちむんなど現地やセレクトショップなどを巡って惹かれたものを集めていきました。
柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)
ちなみに、本当は8月末あたりに大阪高島屋で催された染色家柚木沙弥郎の展示会とはしごしようと計画していましたが、コロナに罹ってしまい断念。
柚木沙弥郎さんは、今回の展示会のメインである日本民藝館の創設者柳宗悦らの民藝の思想に感銘を受け染色家の道へ。
100歳を超えた今でもIDEEにデザイン提供をするなど作品を生み出し続けているすごい作家さんです。
高島屋日本橋店では2023年9月25日まで開催中のようですので、お近くのかたはぜひ。
今回の民藝展の販売ブースにも、柚木沙弥郎デザインの布などが一部販売されていまいた。
さいごに
実は、大阪中之島美術館での民藝展は本日が最終日。
本展覧会は大阪会場のあと、福島、広島、東京、富山、愛知、福岡でも開催されるそうです。
興味のある方はぜひ。
今回も良いものを直に見れてよい体験になりました。
ではまた。