「損して得取れ」の「損」はほんとうに損なのか、そんなことない
ことわざに「損して得取れ」というものがあります。
一時的な損失や不利益を受け入れることで、最終的により大きな利益やよい結果を得られるという教えを表す言葉です。
目先の利益にとらわれず、長期的な視点で物事を判断することの大切さを説いています。
「損」の部分だけを取り出せばマイナスであって、損したなぁ、という気になってしまいますが、
短期視点を長期視点に置き換えて見てみると、決してそうじゃないよ、ということですね。
最近はやりのNISAでは長期投資が勧められ、
商売においては継続的な顧客との取引関係において赤字覚悟のサービスをすることがあり、
人間関係においても「今日はこれくらいにしといたろ」（byよしもと新喜劇）的な振る舞いが役に立つことがあります。
ものごとを長い目で見ると、100％ではなくとも、いい具合にプラスになる、というのは分かってはいるけれど、
目先のことにとらわれるとなかなかそう虚心坦懐ではいられない、と悩ましいところではあります。
今回は、行動経済学における重要な概念である「プロスペクト理論」とこの「損して得取れ」をうまいこと？からませて書いてみようと思います。
プロスペクト理論の定義と特徴
プロスペクト理論は、1979年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって提唱された意思決定理論です。
この理論は、経済学の従来の仮定である「人間は合理的な意思決定を行う」という考え方を覆し、実際の選択がどのように行われるのかを説くものです。
特に、わたしたちがリスクを伴う選択をする際にどのような心理的バイアスに影響されるのかを明らかにするものであり、
以下の3つの重要な特徴を含んでいます。
損失回避性
わたしたちは同額の利益よりも損失に対して強く反応する傾向があります。
たとえば、1000円を得る喜びよりも、1000円を失う痛みのほうが大きく感じられます。
これは、利益を追求する行動よりも、損失を回避する行動の方が心理的に優先されることを示しています。
この性質は、保険商品やリスク管理における意思決定の背後にある動機を理解するうえでとても重要といえます。参照点依存性
わたしたちは選択肢を評価する際に、絶対的な価値ではなく、参照点（基準点）に対して利益や損失を比較します。
たとえば、昇給が期待されている状況で昇給がなければ損失と感じますが、期待がなければ変化なしと評価します。
このように、同じ状況でも参照点が異なると結果の受け止めかたが相対的に変わります。確実性効果
わたしたちは確実な利益を優先する傾向があり、反対に損失の場面ではリスクを取る傾向があります。
たとえば、確実に1000円を得る選択肢よりも、不確実ながら2000円得られる可能性を持つ選択肢を選ぶことが少ない一方で、
確実に1000円を失う選択肢よりも、損失が回避できる可能性がある不確実な選択肢を選びがちです。
この心理はギャンブルや投資行動におけるリスク選好に影響を与えます。
プロスペクト理論の応用
プロスペクト理論は、さまざまな分野で応用されています。
以下に、いくつかの具体例を挙げます。
保険商品の設計
プロスペクト理論に基づくと、人々は損失を避けたいという心理を強く持っているため、保険商品の設計では「損失を防ぐ」ことを強調する戦略が効果的とされます。
たとえば、「事故に遭ったときの大きな出費をカバーします」といった広告メッセージを示すと、保険加入を促進する可能性が高まります。政策設計
政府や企業が行うエネルギー節約キャンペーンや健康促進キャンペーンでも、損失回避性が活用されています。
たとえば、「今この行動をとらなければ、将来的に○○円損をします」というメッセージは、「○○円得をします」というメッセージよりも行動変容を促す効果が高いことが示されています。マーケティングと広告
消費者行動を理解するためのフレームワークとしても活用されています。
値引きキャンペーンで「今だけ50％オフ」という利益の訴求だけでなく、
「このチャンスを逃すと大きな損失につながる」といったメッセージを加えることで、購入意欲を高めることができます。
「損して得取れ」とプロスペクト理論
ことわざの「損して得取れ」は、プロスペクト理論の「損失回避性」に反するように思えます。
しかし、その心理的障壁を乗り越える重要性を示唆しています。
このことわざは、一時的な損失を甘受することで、長期的にはより大きな利益を得るという戦略的な考え方を教えています。
例えば、ビジネスの場面では、新しい市場への参入時に初期投資やプロモーション費用という損失を受け入れることで、将来的に市場シェアを拡大し、大きな利益を得る可能性が生まれます。
個人のキャリア形成でも、短期的な安定した収入を手放し、新たなスキルの習得や学習に投資することで、長期的な成功を収める道を切り開くことができます。
プロスペクト理論に基づけば、このような一時的な損失を受け入れる選択は容易ではありません。
損失回避性の心理が働くため、人々は往々にして現在の安定を保とうとする傾向があります。
しかし、長期的な視野を持つことで、「損して得取れ」の考え方を実践することが可能となります。
「いつやるんですか？！」
「今じゃな〜い！」（飯島メソッドのあれです）
これですね！
結論
プロスペクト理論は、人間の意思決定を現実的に捉えるための強力なフレームワークを提供します。
その特徴である損失回避性、参照点依存性、確実性効果は、私たちの日常生活やビジネス、政策設計に深く影響を及ぼしています。
一方で、長期的な視点を持ち、心理的バイアスを超えて意思決定を行うことで、より大きな成功や満足を手にすることができる可能性も示唆しています。
「損して得取れ」の精神を活かし、プロスペクト理論の理解を行動に結びつけることが、私たちの選択をよりよいものにする鍵となるでしょう。
うまいことからんだんかな？
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