2023年に読んだ本ベストテン
今年わたしが読んだ本で面白かったベストテンです!順不同での10作となります。
原武史『地形の思想史』
土地と思想の深いつながり。特にコロナ禍を経験した今となってはハンセン病についての記述に考えさせられるところ多し。
グレアム・グリーン『権力と栄光』
追われるものの苦闘が描かれる。舞台となったメキシコのカトリックへの迫害の苛烈な描写に圧倒されるのですが、どれくらい現実に即しているのかというところに興味が湧いた。
トマス・M・ディッシュ『SFの気恥ずかしさ』
SF作家による評論集ですが、とにかく皮肉なユーモアにやられる。ディッシュとは笑いの波長が合うといいますか、こういうのを求めてるんだよな~、という気にさせられる。SFの政治利用に対する鋭い批判は今にこそ読まれるべきと思った。
釘貫亨『日本語の発音はどう変わってきたか』
文献から当時の日本語の発音を突き止めるその作業の過程と結論はまるで本格ミステリを読んでいるような気にさせられました。
及川琢英『関東軍』
関東軍がその行動においては無責任でありながら、遠大な理想や使命感を抱いているというおかしな組織であることを改めて知る。そこに引っ張られていく当時の日本政府や軍中央というのも何なんだ、という気になった。
大江健三郎『美しいアナベル・リイ』
追悼の意も込めて未読の大江健三郎を。老年でもエネルギッシュな小説を書いていたことを改めて知る。老年の作家にありがちなエッセイとも小説ともとれるような作品ではなくがっしりとした物語があって、大江健三郎は物語の作家であるとも再確認した。
マルカム・ラウリー『火山の下』
ラストの畳みかけるような悲劇の連続が圧巻。これを読んだ後に大江健三郎の『「雨の木」を聴く女たち』を読んだのですが、そこに本作が何度も言及されていて偶然ながらも何かつながってるな、と思ったりもした。
保坂三四郎『諜報国家ロシア』
ロシアという国家と〈諜報〉がいかに分かちがたく結びついているかを知ることができる一作。諜報組織の歴史・伝統と力の入れ方の反面、今年あったプリゴジンの暗殺など、やっていることの稚拙さや乱暴さとの対比が気になったりもした。
デイヴィッド・グラン『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
スコセッシ監督による映画化原作。ノンフィクションなのですが、こちらは著者のリサーチの丹念さに舌を巻くのと、猟奇的な連続殺人の背景に今にも続く差別と搾取の構図が露骨に表れていてその点でも興味深い。映画と原作は取り上げ方がかなり異なりどちらも力作なので、両方に触れるのが◎。
武田百合子『富士日記』
全三巻を半年くらいかけて読む。50-60年前がつい最近のようにも思えるし、一方で人々の記憶や習慣から既に失われつつある過去でもあると感じさせられる作品。いつかはわたしも富士のふもとの別荘に住みたいと思いつつ、読んでいると手入れとか色々大変そうだなとも思う(無用な心配ですが…)。
こうしてみると、今年の新刊があんまり読めてない! のと中公新書にかなりお世話になっているな~と思いました。
あとは、まだ読了できていないのですが今年は大正期の私小説作家、葛西善蔵の全集全4巻を古書にて買い求めたのがわたしの読書活動のビッグニュースです。2024年にも継続して研究していきたいと思っています。葛西善蔵が住んでいた鎌倉の寺とかの葛西スポットにも訪れたい。成果もどこかで発表したいですね。
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