しま暮らし〜そのイチ
この夏も、🐙がきた。
絶妙な茹で加減で。
東京から移住して来て9年目、もう他でタコは食べられないかもしれない。
わたしたち家族が暮らしているのは、瀬戸内の島。本土とは橋で繋がっている。暮らし始めて3年目だったか、ある日、息子(当時小3)が言った、
「母ちゃん、ここさ、都会より便利だよね」
そうさね、便利だよね、だって・・歩いて3分圏内に~生鮮食品もおいてる大型薬局やホームセンター、洒落たカフェやスイーツ店、焼き立てパン屋さん、郵便局、直売所と銀行、役場の出張所、もう少しがんばって歩けば、おいしい手打ちうどん屋さんもある。生活に必要なものは、徒歩圏内で事足りる。東京の片隅(一応23区内)に住んでいた頃よりも、移動距離は短く、身近で済ませることができるのだ。
そうだね~都会より便利だね~不便を求めて来たのにね~便利なところだったね~そんなことを思い、わたしはため息をついた。だってシンプルに生きたくて移住したんだよ、でもさ、誘惑には弱いんだもの。こんな近くになんでもあったら頼ってしまうよ(泣)ところが、そんな母ちゃんには目もくれずに息子は続けた・・
「だってさ~母ちゃん!新鮮なお魚をもらえるんだよ~~」
海まで10秒
港に行けばお魚をもらえるでしょ(子どもがうろついていると漁、釣りから戻ったおじさんにお魚や貝を分けてもらえることがある)。いわしがあがってくるでしょ(大きな魚に追われた鰯の群れが浜に上がった時に家族総出でバケツですくった)。季節になるとわかめやひじきの旬のお裾分けもあるし(下処理で鍋に入れた瞬間の色の変化の鮮やかなこと)。みかん農家さんがコンテナ一杯のみかんを玄関先に置いてくれる(10月頃から春先までいろんな種類がやってくる)。暑くなればすぐ海に飛び込める。寒い日は火を焚いてお風呂を沸かせる(寒い日に限らないんだけどね)。山に入ればタラの芽、タケノコ、ウド、野イチゴ、桑の実、あけび、椎の実、キクラゲ・・なんでも手に入るんだよ~ね、母ちゃん、便利だよね~
本当だ・・確かにそれは「便利」だな。子どもの感性ってすごい。大人の擦れた便利は手放して、純粋な子どもの便利を取り戻そう!
そういえば、
移住して来てすぐ、2歳だった下の娘と海を覗いたら、真下に・・タコ。タコ踊り・・ってこんな感じなんだ、へ~っと思わず声をあげた。ほら手?足か、全部がバラバラにくにゃくにゃ不思議な動き。娘と一緒に真似したな。水の中での浮遊感、あのタコの気持ちよさそうだったこと・・。アメフラシも初めて見た。その不思議な姿態に見入った、鮮やかな黄色いたまごは中華麺そのものだし・・
そうだね、いろんな意味で「便利」だね。図鑑の中だけだったものが実際に動いてるところを見れたり、一年中スーパーに並んでいるものがその季節にしかないってことがわかったり、果物は買うものじゃないって知った。そして何より、いろんな人がいる。
街にだっているんな人はいるんだと思う。ただ、見えていないだけ。ここには、朝「行ってきます」と家を出て、一日中、海の上で過ごして「ただいま」って帰ってくる人がいる。今日はラジオの仕事をして明日は田んぼでお米を作ってる人がいる。蜂を飼ってる人もいる(養蜂家さんなんだけど、子どもには蜂を飼うおじさん)。牛の乳を搾ってる人もいる。みかんの時期にはみかん、梅の時期には梅、いのししを捕獲解体したり、夜中に漁に行ったり、そんなお父さんもいる。パンを焼きながら自分で田んぼをやったり、山を開拓したりするお母さんもいる。すっぽん捌くママも!もちろんスーツを着て会社に行く人もいれば、おじいちゃんやおばあちゃんのお世話をしてくれる人もいる。そんな人たちが子どもたちの周りに実際にいる。簡単に目にすることができる環境がある。これは子どもにとっては、財産なのではなかろうか。
移住してきて、実際に目にする職種の幅が広いことに驚いた。それは、農家の真似事で小松菜を育てた時、野菜は本来、間引き菜を食べるのが本当なのではないか、スーパーに売っている小松菜は商品ではないか(そうなんだけどね)という驚きと同じくらい衝撃的だった。(↓これは大根葉)
もちろん、高校まで東京で過ごした私のまわりにも、いろんな人がいたよ。一日おせんべいを焼いている浅草のおじちゃん、見事な切り返しをするカーディーラーのお姉さん、同級生のお父さんは青果店を営んでいて耳にえんぴつ挟んでた。手押し車でやってくるおでん屋のおじちゃん、銭湯のおばちゃん、駄菓子屋のおじちゃん、パタパタはたきをかける本屋のおじちゃん・・うん、いろんな人がいた。だけど、どの仕事も街の域を出ていない。海で働くという仕事を想像したことはあるけれど、実際に見たことはなかったし、意識したことがなかったんだね。それに大型店やチェーン店が幅を利かせてきて、昔ながらの小さな商店がなくなってしまって、都会の仕事というのは、会社員、店の人、公共の場の人など、ますますざっくりしてしまった気がする。
ここでは、電気関係は、誰それさんにお願いすればいい。網戸や窓はあの人。タコが欲しければ、この人。玉ねぎはあの人。わからないことは、あの人に聞こう。近所のあの人が直してくれた家に住み、あそこのあの人が育ててた鳥のたまごが食卓に並ぶ。
必要なものは、ここにある。
やばい、ものすごく便利だ。なによりも安心だ。安心はこころにゆとりを生む。ゆとりは生活に豊かさをもたらす。
違いを発見して気づきを得る、子どもの一言からそんな機会に恵まれた出来事だった。10年ひと昔というが、ここらで一度、この島での出来事や暮らしを通して感じたことを綴っていこう。