#6 Boys Like Girls / Boys Like Girls (2006)──「エモい」とはこういうこと
Boys Like Girls / Boys Like Girls
アメリカはボストン出身の4人組エモ・ポップパンクバンドBoys Like Girlsのデビューアルバムであるバンド名を冠したタイトルの『Boys Like Girls』。
2006年、アメリカの主にバンド音楽シーンがエモ・ポップパンクに全振りし始めた頃にリリースされた圧倒的な名盤。
全体的にMy Chemical Romanceを中心にサウンドが重くハードコア寄りになっていったエモシーン中で、エモ特有のキラキラ感とポップさをしっかりと残したサウンドとメロディは「これぞ2000年代的エモ・ポップパンク!」と言いたくなるほどあの当時のサウンドの魅力が余す所なく詰め込まれている。
このアルバムがどれだけ素晴らしい作品かは1曲目の"The Great Escape"を一度聴いてもらえれば分かってもらえる。
爽やかなギターのアルペジオから始まるイントロに表される青春のキラキラ感と同時に溢れる切なさにはこのバンドの魅力と特徴が詰まっている。明るくアップテンポな楽曲にも関わらずメロディが最終的に泣かせるグッドメロディに仕上がっている。エモーショナルとはよく言ったもので、全力で泣かせにかかってくる。
それはこの"The Great Escape"だけでなくアルバム全体通してその空気感にある。このバンドが影響を受けた90年代のエモというジャンルの、音楽の大事なキモの部分であるアルペジオの存在を疎かにしなかった点にあると思う。
全米最高7位を記録した楽曲、"Hero/Heroine"でもアルペジオがふんだんに盛り込まれているため楽曲の元々のメロディの良さをさらに引き立たせている。ボーカルのMartinはThird Eye Blindに影響を受けていることを公言しており、そのため当時たくさんいた他のポップパンクバンドとは違って、かなり90年代エモや様々な音楽性から影響を受けたサウンドが色濃く出ていると思われる。
特にこの"Hero/Heroine"という楽曲は少し特殊で1番も2番も落ちサビで始まる。勢い任せにアップテンポな楽曲でライブを盛り上げる当時主流だった他のバンドとは違い、しっかりとバンドの佇まいを見せる貫禄がデビューアルバムで出せることが何よりも凄い。
そして何よりアルバム通してメロディが圧倒的にいい。他のバンドだったらすべてシングルカットされてもおかしくないほどの名曲がズラッと12曲収録されたのがこのアルバム。
あまり好きな表現ではないけど「捨て曲なし!」と聞いて一番最初に浮かぶアルバムがこのアルバムです。12曲目、アルバムの最後を締め括る楽曲"Holiday"では最後のコーラスで1曲目の"The Great Escape"の一節を収録したりと、余す所なく細部まで作り上げた、1stアルバムとしてはあまりに貫禄に溢れた作品です。
ただそのせいか2ndアルバムでポップになり過ぎた作風は"Lovedrunk"はヒットしたものの続かず活動休止。その後リリースされた3rdアルバムではカントリーに音楽性を方向転換し、Taylor Swiftと共演したりと話題性はあったものの勢いは付かず、現在はリリースなどはないもののライブなど活動は続けている模様。
ボーカルのMartinは現在The Night Gameというバンドで精力的に活動している。エモでもカントリーでもなくダンスポップを主体とした音楽性をやっていて、正直「なんでもやるな」というのが第一印象。
YouTubeの公式チャンネルには2007年に彼らが来日した時の映像が残っていた。ただひたすらに時間の経過と時代の変化を感じるビデオだった。一時代の音楽を担ったとしても時は流れていくもので、盛者必衰、栄枯盛衰。音楽も歴史の一部となって変わり続けていくものだと感じる日々です。
ただ2020年代になってエモ・ポップパンクを聴いて育ってきた世代がようやく音楽の作り手側に現れ始め、リバイバルの動きも見え始めてきています。カナダの若きラッパーPowfuもSpotifyのプレイリストにBoys Like Girlsを入れていたりと再度注目されるキッカケのような種は撒かれ続けている現状があります。
そのためにも多くの人が少し前に流行ったもの、多くの人が盛り上がった作品をもう一度見直してもらえると音楽たちもきっと喜ぶのではないかと私個人は思っています。
なにせBoys Like Girlsの1stアルバムの真っ直ぐな青春の煌めきと淡い切なさは決して色褪せることのないEVERGREENな作品なのだから。
"Your voice was the soundtrack of my summer"
この歌詞が表していることがこのアルバムには全て詰め込まれている。