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小島なお「かどうた」最終回*ニコ動無料配信ありがとう(ゲスト:笹公人)

 おいおいおいおいおいおいおいおいおい!!(岸部露伴風味)
 ニコ動に参入したくなくて観ることを拒んでいた「かどうた」!最終回!!
 障害の影響でログインエラーが発生していることから、無料配信されたじゃあないか!
 小島なおさんの番組ですが、ゲストが笹先生含め、めちゃくちゃおもしろかったじゃあないか!!
(呑みながら視聴したので、ちょっと勢いがありすぎることに関してはお察しください。)

 とてもTwitter(って言い続けるX)では語りきれないので、さらに呑みながらnoteに綴ります。
 わたしは前半で特に心をつかまれたのですが、笹公人『シン・短歌入門』はそりゃあ名著なんですが、『念力家族』という特異な歌集でブレイクした笹公人の、2022年刊行第五歌集『終楽章』について、しっかりと光を当てて語っていただけたのが嬉しかったです!!(←何目線?!)しかも、なかなか聞けないお話を導き出す小島なおさんのトーク術!素晴らしかったです。
 感想の場を、ここにしたのはどうしても自分の経験と重ね合わせた話、つまり自分語りを交えてのことになるからなのです。
 もともと虚構(妄想)を短歌という形にしてきた笹公人が、介護というリアリティを歌うということは画期的ではあるのですが、率直に言って惚けてきた老人との生活は、虚実が入り交じる迷宮のようなもので、それを、虚構の達人である笹公人が歌ったというところに、わたしは胸を打たれた歌集でした。

 で、以前にも歌集評をこのnoteに書かせて頂いたのですが(ぜんぜん言語化しきれていなかったな!!思いつつ)、今日小島なおさんの問いかけに、笹公人先生ご自身が、介護のなかに自分の歌の世界との親和性を見いだしたというようなお話しをしていて「それな!!」と前のめりになりまして。湧き上がってきた個人的なエピソードもここに記したいのです。

 わたしが大学生のとき、祖父がちょっとした怪我をきっかけに寝たきりになり、どんどん認知症も進み、薬の影響か夜中に覚醒しては妄言を発するようになりました。入院時には看護の上で難しい患者になったのか、身内による夜通しの付き添いを求められました。そのときに、母は子どもを祖父母のケアに巻き込むのを渋っていたのですが、(今思えばありがたいことなのですが)わたしは、祖父母の介護に対してはかなり前向きでした。理由としては、自分にとってかつて全能であった「親」が衰えることを見守るのはストレスだろうけど、孫である自分にとっては、祖父母は物心ついたときから「お年寄り」であるから、介護に対してそれほどストレスはなかったからです。その考えは今も変わらないのですが。実際夜通しの付き添いはなかなか過酷なものでした。
 若かったわたしにとっては、徹夜の看護も、出産後の徹夜の授乳に比べたら体力的には楽なものでした。ただ、あえて言うならば狂人の相手を閉鎖的空間で一対一でしていたら、誰もが心の健康を損なうだろうと感じました。叔母やいとこを加えたローテーションではありましたが、明治生まれのお殿様のようだった祖父が、戦争を経験して描く妄想は地獄でした。
 真夜中に、兵隊を呼べと命令され、言うことをきかなければ死を宣告され、幻の給仕に皿を運んでは片付ける、妄言に対して芝居で夜通し応じなければいけないような有様でした。それでも、わたしは辛いとは思いませんでしたが、初めて入院の付き添いをした後、母親に「昨夜はどうだった?」と問われて
「不思議の国のアリスになった気分だったよ」
 とだけ答えました。それはわたしにしてみれば、重くならずに正直に答えたのですが。わたしより遙かに読書家の母は、その一言から、一夜にしてハートの女王や帽子屋などの狂気に相対したのだなと、わたしの比喩の全容を把握したようで、涙ぐんでいました。

 で、つまりわたしが言いたいのは、介護が虚構の世界の身近な入り口になるということなんですよ。そこを笹公人という歌人が、虚実の狭間を歌い続けた歌人が、近年すくいあげたことの価値が『終楽章』にはあるのです。人情で親子を歌うに留まらず、狂気の世界を垣間見る介護生活を拾い上げる仕事をしたと思います。
 このニコ動でも言及されていた、大好きな歌がこれです。

真夜中に幾度もトイレに起きる父の砂漠の亡者のような足どり /笹公人『終楽章』

 後半の投稿歌に関する講評も、小島なおさんと笹公人さんという、ふたつの角度から読み解かれることで解像度が上がり、大変有意義な時間でした。
 ニコ動ありがとう。小島なおさんありがとう。笹先生ありがとう。

 わたしが実の親の介護に直面したときも、きっと『終楽章』を思い出します。わたしはいま、要介護でもないのにうっかりビールを畳にこぼしたので、ここら辺で終わりますね!!狂気を垣間見る歌人に幸あれ!

2024/06/17 淀美佑子


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