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十分に発達した腐男子は、腐女子と見分けがつかない……のか?

 かつて腐男子だった自分の回想記録です。

 前提として私は現在、四十代後半の男性(肉体も性自認も)でヘテロセクシャルの既婚者です。

 私自身は現役の腐男子とはいえず、遠い昔に二次創作のBL同人誌を買い漁り、たまに原稿を描いていた者にすぎませんが、あれから三十年、ついぞ同じような嗜好の男性のBL読みと知り合う機会がなかったこともあり、ひとつのケースとしてかつての時代背景(平成初期~中期)込みで書き残しておくのも良いだろうと思い、この文章を書いています。参考ついでに私の落書きも下の方に載せておきます。こいつはこんな絵柄でBL描いとったんかい、とご想像ください。

 また便宜上ここでは「腐男子」という呼称を用いるものの、自称するには違和感がある言葉です。三十年前にそんな単語はなかったからね。あえて言うなら腐老者でしょうか。よろしくお願いします。

 なぜ、今になってこの話なのかと言えば、おもに三つの目的のためです。

  • 私と似たような読書遍歴の男性の記録を他に見かけたことがないので、事例として残しておこうと思った。私のようなノンケかつ描き手をしていた男性というケースは極めて珍しいと思う

  • 自分以外のBL読みの男性に読んでもらいたい。そして彼らがハマった経緯も聞いてみたい。BL読みの男性の方、コメントください。

  • 電子版で入手可能な心理描写の上手い商業BLをよければコメントで私に教えてください

 他にも、応援やその他感想コメントいただけますと大変嬉しいです。

 正直、腐男子というカテゴライズを省けば、1990年代にBL同人を追っていた者にとっての、あるあるネタがたくさん並んでいます。割と濃いめのハマり方をしていたと自分でも思います。結論を先に述べると、特に性差を感じることはなく楽しい時代であった、という話です。それでは、本編へどうぞ。

BL二次創作にハマったきっかけなど

 三十年前、1990年代は商業BLが今ほど盛んではなかったので、私にとってのBLといえばもっぱら同人誌のことになる。当時の言葉でいえば「やおい」と呼ばれるジャンルにはまったきっかけは、ひとつ年上の姉の存在が大きい。

 段ボールで聖衣を自作するくらい、聖闘士星矢というアニメにハマっていた小学生の私は、姉が自室に持っていた星矢の薄い本を発見し大変な衝撃を受けた。

 私の姉はオープンな性格なので、とりたて隠し事をするでもなく同人誌とやおいについての仕組みを教えてくれて、その話を飲み込んだ私は自分でも二次創作のマンガを描いてみようと思い至ったのである。キャラクターの立ち絵ではなく人の絡んだ絵を描いてみたい。これは、性的な衝動ではなく純粋な好奇心だった。私のBLは創作からはじまったのだ。

 同人誌を追っていた時期的には、星矢にはじまり、鎧もの、格ゲー、幽白、スラダン、エヴァ。作家でいえばよしながふみとか羽海野チカが出てきた頃までということになる(私は半引退していたが、友だちが熱心に買っていた)。私は高野宮子さんなども印象に強い。

 同人誌を止めて以降は二次のカップリングを考えることはほとんどなくなった。例外的にハイキューの月×山と、おそ松さんのカラ松総受けにはゆるく、はまっていた。

 一般の商業マンガ誌はジャンプ、スピリッツ、アフタヌーン、花ゆめ、別コミ、ウィングスあたりを追っていた。COMIC BOX ジュニアなどもたまに読んでいた。タクミくんシリーズや彼烈火のCD(姉の友だちに借りた)を聞いていた時代である。

中高生の当時読んでいた同人作家とか

 中高生の間、イラストやマンガは描いていたものの、自分で同人誌にしようとまでは思っておらず、代わりに知り合った同ジャンル友だちのサークルに原稿を寄稿するようになった。同時に即売会に頻繁に通うようになって好みのサークルを発掘するのにハマっていく。大手だと、たとえば以下がお気に入りだった。

  • 元祖やりなげ本舗(森永グリ子=森永 あい):
    最初に手に取ったのは、ここはグリーンウッドのキャラクターで創竜伝の四兄弟に配役したパロディ同人誌で、絵もギャグもすごくうまくて刺激を受けた。スケブもたくさん描いてもらった。この方はトルーパーのアンソロでブレイクして壁になった。商業も全部面白かったです。亡くなられて大変悲しい。

  • バトルマッスルシスターズ(しもがやぴくす+みらい戻):
    唯一エロ目的で買っていた。一輝兄さんが暗黒聖闘士にまわされる話で衝撃を受けた。この人たちのマンガは男性向けのエロ文脈を取り込んだ走りだったと思う(時代下って米倉けんごあたりも)。流行り物だけじゃなくてガンダム0083とかも扱ってくれていたところなんかも大変良かった。

  • CLAMP:
    買い始めた当時(銀英伝本)はメンバーがおそらく10人近くいた。その頃はコミケやシティだけじゃなくて、小さな即売会にも参加されていた記憶がある。委託かもしれないけど。
    パロディの合間に挟まるメンバーのエッセイマンガとか、そういう話も読むのが好きだった。当時はかなり影響を受けた。

  • 真田シスターズ(上田信舟+藤たまき):
    絵が好きだった。話も可愛くて良かった。商業の方でも相変わらず可愛くて良いですね。羽柴シスターズも合わせて好き。

  • YAROW Co;(田村みゆき):
    姉が持ってた藤井尚之名義の星矢の本を読ませてもらった。あまり自分では追いかけてなかったけど後にライジンオーの本は珍しくて買ってしまった。あと超大判のサイバーフォーミュラの本は、ブリード加賀が好きだったので買った記憶がある。

  • 商業、JUNE:
    商業だと当時はあまり選択肢がなかったし、南原企画は入手難易度が高くて買えなかった。この頃のJUNEは小説道場を中島梓氏、マンガ教室を竹宮惠子氏が指南していた時代で、デビュー前の羅川真里茂さんの話がすごく面白かった記憶がある。西炯子さんの名前もここで覚えたはずだが、残念ながら内容を忘れてしまった。おしゃれだった。

 あと、那州雪絵さんなどの商業で知った方が同人活動をされていたことにも、そういうのありなのかーと、当時は随分驚いた。

なぜ足抜けしたのか

 大学に入ってもふんわりと創作や読書は続けていたものの、エヴァを最後に特定ジャンルを追うほどの情熱が続かなかったということに尽きる。男性向けジャンルの薄い本にも誘ってもらって原稿を描く機会も増えて、そっちが結構楽しかったこともある。

 そもそもキャラに過度な思い入れを持てないので、キャラ推しだけで作品にハマり続けることに向いていなかった。結局キャラクターよりも物語が好きなのだ。

 これは界隈のあるあるかとも思うのだけど、周りの友だちがハマってるから一緒にやってるみたいなところは間違いなくあって、大学以後、BL好きとの交流が減ってしまったことはとても大きいと思う。

男子校の影響

 姉に受けた影響とともに、BL同人誌を趣味にできたのは中高時代に男子校だった影響も間違いなく大きい。私が通っていたのは、ほどよくゆるい雰囲気の学校で、宮崎事件の余波を受けてオタクいじめが深刻化していく中、それなりにオタ活を満喫できる環境があった。

 私は友人たちとともに日頃は放課後の図書室でだべっていたが(TRPGやったり)、司書の女性と仲良くなってドサクサに紛れてJUNEを持ち込んで布教をしていた。今ならわかるが、学校でそういうことをしてはいけない。余談であるがうちの学校の図書館は早川のタニス・リーが全巻揃っている優秀な図書館だった。

 男子校ファンタジーとしてではなく、リアルな話で同性愛者の子(および思春期的なホモソーシャルの延長線上で男子に恋する男子)は観測範囲に数名いて、私は友人が恋したクラスメイトへの告白のシナリオを書いて提供したりもしていた。自分自身も同級生から告白されたとき、一時期つきあったこともあった。私は異性愛者だが、創作のネタとして良い経験だと考えたのだ。当時は自分の恋愛に興味はなく、知識欲だけが先行していた。今ならわかるが、そういう不純な動機で人を振り回してはいけない。

 ともあれ、友だち間でカミングアウトができるくらいにはゆるい学校だったことは確かである。BL趣味ごときはなんということもない。ただ、この話を他校の男子校出身者に話しても創作だと言われてしまうので、特殊な環境だとは自覚している。ただし似たような環境で育った女子校出身者は知り合いにいる。これが共学にも存在するノリなのかは知りたいところである。

即売会での反応、同人友達とか

 ネットが未発達の平成初期に同人友だちをどこで見つけていたのかといえば、地元の本屋のメン募ボードやファンロードの募集コーナーで探す。当時はみんな文通をしていたのだ。……したよな?

 即売会で買ったキャラ便箋に手紙とイラストを添えて、香水でちょっとだけ便箋に香りをつけて郵送する。原稿中は描きながら長電話をして親に怒られる。陣中見舞いにFAXをゲリラ的に送り合う。そういう時代だったんである。

 当時はそんな同人仲間が全国に何人かいて、結構楽しく交流をしていた。その際に男性であることを問題にされた記憶はない。結局、会話して盛り上がれるかどうかだけが肝心で、争いがあるとすれば解釈論争くらいのものだった。異性間に友情は成立するのかと問われれば私はあるとしか答えられない。

 私は当時、コミックシティによく足を運んだ。今よりは男性比率は多少高かったものの、基本的には女性が八割、九割の戦場である。女友だちと一緒に行くことが多かったが、大抵は手分けして購入するため単独行動をとる。結論から言えば、こちらでも男性である違和などは特に感じることがなかった。むしろトイレに並ばずに入れるという恩恵を受けていた分、快適ですらあった。

 差し入れなどはしたことはないが、逆に訪問するたびにお菓子でこちらを餌付けしてくるサークルなどはあった。総じて特異な目で見られることもなく、お客さんとして欲しい本を購入できる環境は、大変ありがたいものであった。

現在読んでいるものとか、百合とか

 BLは別にして、マンガ好きなのは相変わらずなので青年誌、女性誌の連載を中心にコミックで色々読んではいる。男性作家、女性作家は半々くらいだと思う。先述のよしながふみさんや志村貴子さん、今市子さんなどが一般誌でBLをやってくれる分には楽しく読むものの、商業BL界隈からは長らく距離をおいていた。出版点数が多すぎて、私には目利きができないからだ。皆さんのおすすめ作品を教えていただきたい。最近作だと「夜明けの唄」は読んでる。おもろー。

 あとは、私の妻がなろう(ムーンライト)でBL小説を読み漁っているので、おすすめを聞いてみるもののイマイチ、ピンときていない。このあたりも、何か良いものがあれば教えていただきたい。

 ちなみに私は百合も読む。マリみてが発売された直後にハマって界隈の友だちが増えたが、アニメ化されるまで男性はほぼいなかった。今は男性の方が多いジャンルなのではないだろうか。供給側に女性作家が多いのは面白いと思う。私は百合界隈では忌み嫌われる主人公またはパートナーが男性と寝る展開なども全く平気なので、ピュアな百合読者ではないのだけど、BLと同じく同性間の心の揺れ動きなどが好きで読んだりする。

 当時はマリみて友だち十数名で集まって、マリアージュフレールでお茶会をしたり痛チョコ交換会をやったりしてましたわよ。

 百合マンガは「イベリスの花嫁」が登場人物の女性比率が少ないけど、面白かった。同じ作者がメロディで連載をはじめたので、単行本でたら読もうと思う。

 ついでに百合といえば、1990年代にシュラトの同人などで追っかけていた南京ぐれ子さんと、幾星霜を経て最近、新書館の百合マンガで再会したときは、得も言われぬ感慨があった(商業BLで活躍されていたことは知っていたが読んでなかった)。これはハーレクインコミックスで子どもの頃読んでた白泉社とか秋田書店の作家さんと再会したときの感覚に似てるのかもしれない。

顔の好みの傾向と、私の絵について

 好みについて語る。あくまでフィクションが対象という前提がつくが、私は眠たい顔で目つきの悪い男が好きだ。そういう男を見ると、あたしをグレッチで殴ってという気分になる。もちろんリヴァイ好きだよね。そしてどちらかといえば、ショタよりは青年やおっさんのBLが好きなのである(囀る鳥とか)。当時はそれがため、ショタ系同人をやっていた数少ない男性の友だちと、お互い話が微妙に噛み合わずに苦労していた。ショタ界隈や女装界隈は、自分の中では別ジャンルである。ただし読む分には雑食なのでなんでも嗜む。

 話は変わって、私には絵をみて作者の性別を当てるという特技がある。ひよこの鑑別士のようなものだと思ってほしい。かつては正解率100%だった(未確認の方もいるので矛盾するが)。最近は眼力が落ちてきたので、一枚絵だけでは見分けがつかないことも増えたが、未だにかなりの正答率だとは思う。絵描きにはこの技を持つ人は結構いて、さらなる上級者だと誰の影響を受けた絵かまでピタリと当てる人もいてあなどれない。

 それを踏まえて、私が手癖で描いたベタな男の顔を公開しておく。社会人になってからは絵を描いてはいないのだが、たまに落書きをしたくなるのでペンタブは持っているのだ。絵柄は昔から変わっていない。あなたには、男女どちらが描いた絵に見えるだろうか?


 私は、私自身の絵の作者の性別を判別できない。あえて言うなら青年誌に描く女性作家の絵みたいだな、と思う。線を整えれば今でもBLの絵として成立しそうな気はする。三十年前は珍しかったが、この手の描き手の性別がわかりにくい絵を描く作家はかなり増えてきたと感じている。商業BLを描かれている男性作家の方もおられるようなので、今後はさらに増えていくのだろう。個人的には喜ばしい話だ。ところで呪術廻戦の作者はどっちなんでしょうね。

結局自分にとってBLとはなんだったのか

 昔はお祭り感覚に近いハレの面白さを求めていて、流行に合わせてジャンルも渡り歩くし華やかな絵に憧れたし、友だちが勧めてくる作品にハマっては、その中で一番好きなキャラを探すような遊び方をしていた。そういう感覚や熱量は、今はすでに失われてしまっている。
 ……まあ、キラキラしていましたわ。思い返してみても。

 今は逆に若干枯れている方が良くて、淡々としていても、ストーリー重視で心を揺さぶってくれるなら登場人物の組み合わせはどのような性別でも良い。現在BLマンガを探している動機は、BLそのものを読みたいという欲求ではなくて商業BLにまだ見ぬ名作が山ほどあるんだろうなあという渇望である。その意味で、私はすでに腐男子ではない。面白ければヘテロだろうが百合だろうが中性だろうがTSだろうがすべては等価である。ただし、性別関係なくお前が好きだみたいな心情よりは、性別込みで相手のことが好きな展開が望ましい。

 私は昔から、人の心のわからないヤツだと言われてきた。付き合っていた彼女から何を考えているかわからないと言われて振られたこともある。そのために、人の心の多様性を知りたくて物語を読んでいるのかもしれない。

 以上。


 余談になるが、私は登場人物に自分を重ねることはない壁の花視点推奨派であるが、どちらかを選ぶなら攻め側の目線で見る。少なくともBLで受け側に感情移入することはまずない。女性は受け視点で読む人が多いと聞くので、そのあたりは読み手の性差が出ているのかなと思う。とはいえ美少女に転生してちやほやされたい男性はかなりの数見受けるので、意外とBLで受け側に回りたい男性も多いのかとも思ったり。
 ちなみに百合は自分にとって異性なためかフラットにタチネコどちらの視点も等しく見ている(そもそもリバのパターンが多いからかもしれんけど)。このあたりは研究しても面白そうですね。

 中高生時代のBL活動と、男子校の日常のエピソードはそれなりにあるので、フィクションにしたら結構面白そうな気がしてきた。マンガにする気力はないから、書くとしても小説だろう。


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