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日立製作所が無期転換を求めた女性社員に解雇通告した事案についての考察


無期転換を申し込んだ女性社員(以下、Aさんとします)を日立製作所(以下、日立とします)が解雇し、無期転換逃れだとして社会問題化している事案について少しコメントしてみたいと思います。

現在ユニオンと争議中であり新聞等から得られる断片的で不確実かもしれない情報をもとにしているという前提でお読み頂ければ幸甚です。

まずは経緯です。

Aさんは派遣として日立で約10年勤務した後、2012年10月に契約社員(6カ月契約の更新制)として直接雇用されたようです。
それから2019年3月末まで反復更新されていたとすると、約6年半、有期労働契約者として労働契約が継続している訳ですから、労契法19条の「無期労働契約と同一視される労働者」であるとされる可能性が高い労働者と言えます。

Aさんは業務としては横浜研究所で研究員の報告書をチェックしたり、事業部に内容を伝えたりする業務をされてきたようです。
横浜研究所は、鉄道や電力、都市機能など社会インフラを制御する大規模システムの研究をしており、Aさんは研究と事業部の連絡窓口を務めておられたとのことですから、少々、特殊な業務なのでしょうか。

日立の主張によれば、どれだけ具体的に説明されたのかわかりませんが、2016年頃に事業縮小で19年4月以降の雇用の維持が難しい旨をAさんには伝えていたとのことです。

2019年3月末の雇止めを危惧されてか、Aさんは2018年6月に無期転換を申入れ、11月に日立が準備した申請書に勤務地の変更や残業を受け入れると記入し提出されました。
これに対し、日立は翌12月に「19年4月以降は仕事がなくなる」と説明し、本年2月に解雇(3月31日付)を通知したとのこと。

その後、Aさんは3月にユニオンに加入し、19日にユニオンと日立とで団体交渉を開催。

29日に2回目の団体交渉が開催されましたが、日立側は「19年4月以降の雇用は厳しいと、16年の時点で伝えていた。配置転換先を探したが見つからなかった。違法性はないと考えている」とし、解雇の正当性を主張しているとのことです。

日立が解雇の理由としている事業の縮小は、今年2月に事業の一部を中央研究所(東京都国分寺市)に移したことを意味するようです。

これに対しAさんは、私は国分寺への転勤も受け入れているのに解雇されているのはおかしいと主張されているとのことです。

ここまでが経緯なのですが、私などが見ると本問題は無期転換云々というのはあまり関係なく単純に整理解雇の有効性を争う事案なのかな・・・というのが正直なところです。

日立は2016年に事業縮小で長期雇用が難しいことを本人に伝えているようですから、業務そのものが不採算であって人員削減を含めたしたリストラが必要だったというのは実際のところでしょう。

Aさんは配転を受け入れると主張されているようですが、従前とは全く違う業務を含めて容認されていたのか、そうではなかったのかはわかりません。

仮にAさんが業務転換を容認されていたとするならば、日立はこれに応ずるべきだと思う一方で、Aさんが国分寺での従前業務にこだわっていたとするならば、リストラを前提としている以上、日立としては受け入れがたいことは理解できます。

事業部門の不振による整理解雇を有効に行うためには、所謂「整理解雇の4要素」というもの総合的に充足させる必要があるのですが、その1つに「被解雇選定者の基準が妥当であること」があります。

その判例として、『臨時労働者、パート労働者の解雇を正社員より優先することは合理性がある。(日立メディコ事件 最高裁一小 昭61.12.4判決)』というものがありますので、日立としては、Aさんを含めた契約社員を優先したリストラを想定していたのでしょう。

ところがAさんから直前になって無期転換申込権を行使されることとなりました。
想定外だったのではないでしょうか。

整理解雇における無期転換労働者と正社員の峻別の可否については、「無期労働契約に転換した後における解雇については、個々の事情により判断されるものであるが、一般的には勤務地や職務が限定されている等、労働条件や雇用管理がいわゆる正社員と大きく異なるような労働者については、こうした限定等の事情がない、いわゆる正社員と当然には同列に扱われることにはならないと解される」(平成24.8.10 基発0810第2 第54(2)ク)とされています。

つまり、正社員より先に無期転換労働者をその対象とすることは法令的には不可能ではないということになります。

Aさんを先行して整理解雇の対象とすることについては、4要素における他の要素(人員削減の必要性があること、解雇回避の努力をしていること、労働者側との協議をしていること)等を含めて慎重にその有効性が判断されるべきですが、本件については、無期転換逃れ云々ではなく、このような整理のもとにその有効性を考えるべきではないかと思います。

日立のミスとしては、2016年に事業縮小が予定されていたのであれば、その時点でAさんは勤続4年程度であり当時、無期転換申込権は発生していなかった訳ですから、今よりは容易に雇止めによる雇用調整を行えたはずです。

もしくは、派遣社員から継続すれば相当長期間ご活躍されていた訳ですから、直接雇用後、会社主導で1~3年で無期雇用化し、その前提のもとに必要な時期がきたら無期転換労働者として丁寧に整理解雇のスキームを進めればよかったのではないかというところです。

そのような手順を踏んでおれば、少なくとも「経団連会長企業の日立製作所が、無期転換逃れが疑われる解雇を行っている」という社会的非難に晒されるダメージを受けることなく本問題を処理できたはずです。

本問題、然るべき手続きを踏んでおれば裁判に発展しても労働者優位であるとも限らない事案であり、無期転換逃れによる社会問題化という強力な武器を労働者側に与えてしまった時点で日立の人事判断の失敗と言えるのではないでしょうか。

〔三浦 裕樹〕

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会



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