年休5日取得義務化と罰則適用との関係
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2019年4月1日からから、「全ての企業において年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については使用者が時季を指定し取得させることが必要」となりますが、これに違反した場合には労働基準法第119条により「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が労働者1人につき1罪として科せられることがあるとされています。
弊社としても当然、取得させるよう十分に準備しておりますが何等かの原因によって取得させることが出来なかった場合、1人1罪とのことなのでこの罰金の負担が甚大になるのではないかと危惧しております。罰則適用をどのように考えればよいでしょうか?
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現行犯逮捕をしても警察官に罰則・罰金を命ずる権利が無い(検察がこれを決める)のと同様に、労働基準監督署には直接、罰則や罰金を適用する権限はありません。
労働基準監督官に与えられた権限は主に次の2つです。
①行政機関として労基法違反を取り締まるために事業場を臨検し、帳簿や書類の提出を求め、必要な尋問を行うことと
②司法警察員として労働基準法違反の罪について捜査すること
①による監督官の調査を契機として、その結果や、その後の行政指導に対する事業主の対応状況から、重大・悪質であると判断した場合に監督署は②の捜査を行った上で検察官に送致(送検)し刑事事件化します。
送検後、検察官において、さらに追加捜査が行われ、当該事案の悪質性等を考慮して起訴するかあるいは不起訴とするかの最終的な判断をします。
労基法違反にあっては不起訴処分となることが多く、この場合には実際に刑罰を科されることはありません。
一方、起訴された場合には、罰金刑が科されます(懲役刑が科されることはまず無い)
起訴された場合、検察官は裁判所に対して、略式命令請求(簡易な手続きで審理して罰金刑)を科すよう求めるのが通例です。
検察官からそのような請求を受けた裁判所は、通常はその請求に従い、簡易な手続きで罰金刑を科す略式命令を発します。
但し、先般の電通による過労自殺事件のような社会的に重要な事案にあっては検察官が略式命令を請求したにもかかわらず、裁判所は略式命令手続きによることが不相当として正式裁判が開かれることもあります。
つまり、罰金処分に至るまでにはかなりのプロセスと厳格な判断が必要であり、例えば単に個別労働者から労働基準監督署に申告があり違反が認められたからといってすぐに罰金刑を考えなければならない訳ではないことはおわかり頂けると思います。
このことを踏まえてか、厚生労働省による「働き方改革関連法解説(労働基準法/年5日の年次有給休暇の確実な取得関係)2018/12」では、罰則適用部分について以下のように記載しています。
「罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われますが、労働基準監督署の監督指導においては、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていただくこととしています。」
労働基準監督署も当初の取り組みとしてはこの年休義務化について送検による罰金罰を前提とした指導や調査を予定している訳ではないでしょう。
新しい法律ですから、まずは改正法を周知し定着させることを目指し、それでも経営者に法律を守ろうとする意思すら認められなかったり、意思は認められたとしても法令が遵守されない状態が継続される(継続することが見込まれる)場合には必要に応じて送検し、それでも不起訴となる可能性が高く、起訴された場合に罰金が課せられる。
そのようなご理解でよろしいかと思います。(但し、不起訴となった場合でも送検事案にあっては企業名が公表される可能性は高い)
現実的には、組織的な長時間労働による過労死等の悪質且つ重大な事案を契機として労働基準監督署が同社の過去勤務を調査した際にこの年休義務を履行していないことが確認された場合等に検察官が罰則適用を検討されるのではないかと考えられます。
最終的に起訴事案になるのであれば1人30万は経済的に大きな負担とはなりますが、貴社は改正法遵守に合わせた十分な対応を準備されているとのことですので、現時点では罰則まではあまり意識する必要はないでしょう。
Ⓒ Yodogawa Labor Management Society