寒暖とマダガスカルの干ばつとルークウォーマー
ルークウォーマーというのは生温いとか煮え切らないという意味のlukewarmから派生した言葉で、ケンブリッジのオンライン辞書によると
だそうで、人為的温暖化は認めるけれど、それが大きな問題とは考えていない立場を指すようです。2013年ごろのblogではこの言葉はIPCCが推定しているより温暖化の程度は低くなるだろうと考えている立場を指していたのですが、言葉の意味が変わったようです。
温暖化が大きな問題とは考えていないの中にも色々あって、多少問題はあるかも知れないが二酸化炭素の削減などより遥かに安いコストで弊害を抑え込めると言った立場から、そもそも温暖化自体が人類や自然にとって良いことかも知れないという立場までかなりの幅があります。いずれにせよ、カーボンニュートラルに対する懐疑派の主流が現在の意味でのルークウォーマーに移っているのは確かなような気がします。
個人的には、ルークウォーマーと聞くとスターウォーズのエピソード4~6の主人公の名前と似ている気がするので格好いいのかも知れないし、でも元のlukewarmはあまりいい意味の単語でもないしで、正直自分がルークウォーマーだと宣言するのは微妙な感じです。懐疑派(skeptics)のほうが哲学っぽくて好みではあります。
さて、温暖化が人類にとって良いことか悪いことかを考える時には温暖化による気候の変化が人類にどのような影響を与えるかが問題になります。その中で直接、極端な暑さや寒さで亡くなってしまう人の数については調査結果があります。
調査によれば、2000年代初頭から2010年代の終わりにかけて、世界全体で暑さに関連する死亡の増加で死亡率は0.21%上がり、寒さに関連する死亡の減少で死亡率は0.51%下がりました。トータルでは気温に関係して0.3%死亡率が減り、16万人以上の人が助かったことになります。
もっともこれを地球温暖化によって死亡率がトータルでは減ったと結論付けることは短絡的で、寒さによる死亡が減ったのも調査機関の20年近くの間に、住居の断熱性が増したり、より暖房を利用できる人が増えただけなのかも知れないということはあり得ます。
しかしながら、暑すぎて死んでしまう人より寒すぎて死んでしまう人の方が多いという事実は変わらない上に、気温に関連する死亡は全体として減っており、また、暖房を利用できることで寒さに対応できるなら、冷房を導入することで暑さに対応することも出来る筈なので、この点からも温暖化を大きな危機だとする論法はあまりうまくないと考えざるを得ません。
では現時点で温暖化が人類に害をもたらしているとはっきり言える事例はあるのでしょうか。例えば国連は2021年にマダガスカルで起きた干ばつについて世界で初めての気候変動による飢饉を誘発する可能性があるという記事(Madagascar: Severe drought could spur world’s first climate change famine)を出しています。
この干ばつについてウォーターエイドというNGOは
だと記しています。普通の感性を持つ人なら大変な事だ、何とかしなきゃと思うことでしょう。ただ、よく訓練されたルークウォーマーは「40年ぶり?」と引っかかりを覚えます。
この手の気候変動による災害を強調する報道は、自然な気候変動と人為的温暖化による気候変動を区別していないことがほとんどで、読んでいて困ってしまいます。
実際、マダガスカルの干ばつでは、干ばつの原因に温暖化の影響ははっきりせず、もともとひどい干ばつの起こる可能性のある地域だとしている論文があります。
ちなみにこの論文のことを報じている記事でCNNは
という著者の一人からのインタビューを載せ、人為的温暖化が干ばつに及ぼした可能性があるということにしたがっていますが、当論文中での該当する箇所はこうなっています。
例えば、もし温暖化が2℃を越えれば、マダガスカルでの農業的、農業生態学的干ばつが全体として増えると(半分くらいの確率で)予想されている(IPCC AR6 2021)。もし、人々とシステムの虚弱性が減じられなければ、このことは食料不安の危険を上げ得る。(拙訳)
実際、この論文では貧困や構造的な投資不足、牧畜への転換を阻む政策などの要因によって極端な気候変動のない年でさえこの地域は脆弱性が高いと指摘しています。干ばつはその脆弱性を顕在化しているのです。行うべきことは豊かになること、投資を増やし、農地を柔軟に運用できるようにすることです。二酸化炭素削減などほとんど関係がない。これは経済と政治の問題です。それが出来れば、もともと大きくはない温暖化による干ばつへの影響は抑えられる。そう考えれば、引用の最後の一文はCNNの言うような二酸化炭素削減論者ではなく、実はルークウォーマーの言だと思えます。