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ハンカチのプレゼントに「別れ」の意味はない

ハンカチは、実用的であり、身嗜み・センスアップのファッション小物として、ギフトでも贈りたくなります。もちろんいただいても嬉しいです。

ブランド品でも価格がそれほどでもないので、贈る方の財布の負担、贈られる方の心理的な負担(お返しのプレッシャー)もかかりません。

ただ、少しだけ引っかかることがありましたので、ググってみたら、版を押したように同じ内容のブログが多数ヒットしました。

その内容がこれです。

中国には「送巾離根」という古い言い伝えがある。これは、ハンカチを贈ることは関係を断つことを意味する。

「ハンカチ プレゼント 意味」で検索

本当?

どのブログにも、一次情報や出典の記載がないので、真偽を確かめる術がなく、単なるリライトで増殖してしまっただけのコンテンツと思わざるを得ません。

そこで、ハンカチギフト別離説の起源とされている中国に台湾を加え、それぞれのローカルサイトで調べ直し、さらに、現地の方にもお聞きし、真偽を確かめてみました。

結論

長くなりますので先に結論をお伝えします。詳細は、下の方の「まとめ」をご覧ください。

・ハンカチギフトのお別れ説は「作り話」である可能性が極めて高い。

・そもそも「送巾離根」にそのような意味はない。

・「送巾離根」の発祥の地、中国にもそのような慣習は存在しない。

中国の検索サイトによるサーベイ

中国の検索サイト「百度(Baidu)」にて、「送巾離根」をキーワードに検索したところ、ハンカチギフト別離説の存在を直接示唆するサイトを見つけることはできませんでしたが、いくつかのサイトで興味深い情報を得られました。

これらを統合すると、以下のような一連の流れが見えてきました。

時は、孔子(紀元前551年~前479年)まで遡ります。

【送巾離根の起源】
孔子が、母親が亡くなった時に白い衣装を纏って人々の前に現れたという逸話があり、いつしか「白い布」が、孔子の教えの「孝」のシンボルとなった(※1)

参考ページ※1

そして、

【送巾離根の広まり】
明の時代(1368~1644)に、お葬式に参列いただいた会葬者への会葬御礼品として、「親孝行の孝の徳を会葬者に分け与える」という意味合いで、白い布を会葬者に配ることが慣習化(※2)

参考ページ※2

やがて、

【送巾離根の変容】
葬式が大規模になり、埋葬や食事の用意など、住民の相互協力が不可欠となり、葬式による労働の汗を拭う慰労品として、また、死の不運と不浄を拭き清めるものとして、実用性の高い手拭いが重宝されるようになった(※3)

参考ページ※3

いまでも中国の地方には、布として、手拭いやタオルを会葬者に配る慣習があるようです。画像もありました。

しかし、「送巾離根」で追えるのはここまでで、ハンカチギフト別離説へは、仮説(推察)を立てないと結びつきません。

言い換えると、送巾離根に基づいたハンカチギフト別離説は、かなり怪しいということです。

その仮説はこうです。

仮説

・手拭いやタオルが、日本ではハンカチとなってしまった。
(台湾でハンカチとなり、日本に入った可能性もあり(後述))
・会葬御礼品が、死者との別れとなり、さらには別離に拡大解釈されてしまった。

中国本土のネイティブにも聞いてみた

広東省に駐在している友人にお願いし、中国本土のネイティブの知識層2名にヒアリングしていただいたところ、「聞いたことがない」との回答をいただきました。

サンプリング数が少ないので、これをもって結論づけることはできませんが、少なくとも、ハンカチギフト別離説が一般的に知れ渡っているようなものではない可能性があると言えるかと思います。

(ちなみに、中国でNGとされるギフトは時計でした)

台湾のサイトのサーベイ

送巾離根の検索で、唯一、ハンカチギフト別離説を記載しているサイト(※4)が台湾にありました。

ハンカチを会葬御礼品にすることがあり、会葬者と故人とのお別れを意味するので、ハンカチはギフトには適さないと述べられています。

これは、台湾で、布がハンカチに転じ、それが日本に入ってきた可能性も否定できないことを示しており、上記の仮説を大枠で裏付けるものです。

そのため、台湾がハンカチギフト別離説のミッシングリングを埋める鍵かもと思い、台北に駐在している友人にお願いし、ネイティブの方々に聞いていただきました。

台湾のネイティブにも聞いてみた

ネイティブの30代〜40代の男女数名に聞いたところによると、ハンカチギフトは何も問題ないとのことでした。

ハンカチを贈るのは「永遠のさよなら」を意味するという説はある様ですが、少なくとも、上記の世代ではほとんど知られてないとのことです。

これらのことから、台湾は日本と似た状況でありながら、日本ほど、ハンカチギフト別離説が拡大していない様子が伺えます。

(ちなみに、台湾でNGとされるギフトは靴と傘でした)

まとめ

孔子が母親の葬式に白い布を纏ったことから、「孝」を分け与える意として、葬式の会葬者に白い布を送ることが明の時代に慣習化したことから始まり、やがて、葬式を執り行う労働への慰労品や不運(死)を払うものという意味が加わり、手拭いのような実用性のあるものに変容していった末、死者との別れの意に転じ「送巾離根」となった。

その後、きっかけ(最初に唱えた人物)は不明だが、おそらく、日本において、布がハンカチとなり、死者との別れが生者間の別離に拡大解釈され、ハンカチギフト別離説の流布に至った。ただし、台湾でハンカチギフト別離説が生まれ、日本に渡来した可能性も否定はできない。

以上、送巾離根がハンカチギフト別離説に直接結びつくものではないことと、中国内でもハンカチギフト別離説の存在が確認できなかったことから、日本の多くのブログに記載されている「中国には「送巾離根」という古い言い伝えがあり、ハンカチを贈ることは関係を断つことを意味する」という内容は、正しいとは言えないと結論づけられる。

所感

時期も時期、情報との向き合い方が問われている昨今です。本件の本質は、情報を「盲信してはいけない」ということかと思います。

ミッシングリングはまだ埋まっておりませんので、情報をお持ちの方、ご連絡お待ちしております。

追記

「木綿のハンカチーフ」の影響があったのでは、と言うコメントをいただきました。

この曲は、1975年12月にリリースされた太田裕美さんの大ヒット曲で、東京に旅立つ男性と故郷に残る女性の心情を細かやに描いています。

三番の歌詞で、遠距離恋愛で次第に離れていく男性に対し、女性が最後のわがままとしてハンカチを贈って欲しいと伝えます。とても印象的です。

「涙拭く木綿のハンカチーフください」

いま改めて歌詞を読んだだけでも泣きそうになるほど感動的ですので、この曲の影響も多分にあったかも知れませんね。

参考ページ

中国語のためリンクさせていません。興味のある方はコピペで閲覧ください。
※1)https://www.sohu.com/a/522729326_121294990
※2)https://xw.qq.com/amphtml/20200624A0CTSX00?ivk_sa=1024320u
※3)https://baijiahao.baidu.com/s?id=1667102434149540784&wfr=spider&for=pc
※4)https://www.xuexila.com/liyi/zengsong/172934.html

本来、ヒアリングにご協力いただいた友人2名と現地の方々への謝辞を記載するべきですが、匿名とさせていただきますので割愛します。

長文にお付き合いくださりありがとうございました。

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木綿のハンカチもよいですが、リネンのハンカチの肌触りのよさ・柔らかさ・吸水性は格別です。

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