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二次創作小説書きが相互にネタパクされたときの話


 
 天高く馬肥ゆる秋、赤ブーのダズンローズの締め切りが気になり始めた今日この頃、みなさま健やかに創作されているだろうか?
 
 さて、漫画や絵だとトレパクが話題に上がることも日頃あるかと存じますが、実は小説もネタパクされることがあります。
 今日は、私が小さな小さな村で推しカプ畑を毎日せっせと耕していた頃、旧Twitter相互にネタパクされたときの話を書こうと思う。
 なお、特にオチはない。
 

 その頃の私は、旧Twitterに新書メーカーツールで生成したSS画像を載せて、二次創作小説の連載のようなことをしていた。

 原作の設定は紀元前チャイナであるが、私が書いていたものは現代ジャパンだった。原作の壮大で血が湧き踊るような設定がただの一ミリも生かされない、ただの妄想である。
 主人公は捜査二課の刑事で、その男が冒頭で胡散臭い茶髪の男と密談を交わし、ピリピリとした空気のなか金と引き換えに非合法な情報を得る。茶髪の男は情報を売るクラッカーだった。そして別れ際に、茶髪の男が「じゃあね、とうさん」と笑って立ち去る。要は家族パロで知能犯罪を題材にした、警察ものBLである。わたしというオタクが好きな設定を盛りに盛った。

 私は飽き性でプロットも設定資料も作れないので(プロットを書くとその話に飽きて本文を書かない)、いつも行き当たりばったりで小説を書く。その割に自分好みのいい感じの設定になったと思う。オタクは自画自賛しないと死ぬ。

 刑事がかつて巡査部長だったころ、不審な海外への資金移動の捜査でガサ入れをした先で、少年のクラッカーと出会う。刑事は身寄りのない少年に対し、取引を持ち掛ける。自分が養父として監護者になれば保護観察処分で済む。その代わり、情報を持ってくる協力者になれ、と。その少年がのちの胡散臭い茶髪男だ。
 みたいな、好き要素てんこ盛りで書き散らかしたのだ。散らかしていたら、警察ものが好きな優しい相互さんが喜んで作品のツイートにリプライをくれて、わたしは踊っていた。続きを書くのが楽しかった。
 
 しばらくして、一通のDMが届いた。送り主はリプライをくれたのとは別の相互さんだった。字と絵を両方書く人で、ほぼ毎日Twitter上で絡みがあった。社会人であることは把握していた。その人が、先に記述したわたしの二次創作小説を読んだという。そして、設定がすごく気に入ったので、別ジャンルの二次創作小説で使わせて欲しい。というか、もう結構な文字数を書いてしまったので、公開したいので許可してもらえるか、という内容だった。
 
 わたしは困ってしまった。以下の二点の理由で。
 
 ①その作品を事前に見せて貰っていなかった

 二次創作作品をwebにアップしている人は、『三次創作』されることがちょいちょいある。ある二次創作作品を見た人がテンションが上がったり創作意欲を刺激されて、その二次創作作品の続きや行間を短い漫画にしたりイラストにしたり、要は感性の近いオタク同士でキャッキャウフフするのだ。
 これはとても楽しいし概ね好意的に受け取られるが、すごく親しい人でない限り、いきなり三次創作作品がアップされることは少ないと思う。
 大体DMで『この前の作品が大好きだったから、こんなの書いてもいい?』とか『萌え禿げてこんなの書いたから見て貰っていい?(データ添付)』など、事前に水面下でやり取りがある。そして『全世界のひとに見て欲しいから、Twitterに流そうぜ!』とか盛り上がるのだ。

 しかしこの相互さんから『公開してもいい?』とDMを貰ったとき、私はその人が私の二次創作小説の設定を流用して書いたものを一文字も見ていなかったし、添付されてもいなかった。見ていないので、『最の高だからTwitterに流そうぜ!』と盛り上がることもできない。コミュニケーションのとっかかりがなく、少し困惑した。
 

 ②知らない別ジャンル

 前述のオタク同士の三次創作は、当然ひとつ前の二次創作と同じジャンルで、同じカップリングだ。でもこの相互さんは別ジャンルで書きたいと言う。つまり共通の推しカプのパロで萌え散らかしたとかそういうキャッキャウフフな話ではなく、設定が単独で気に入ったから流用したいという事情だ。このパターンをわたしはあんまり観測したことがない。世間ではよくあるやつ?

 わたしの自ジャンル原作は劇画タッチの青年漫画。別ジャンルは王道の少年漫画。だいぶ違う。自分の全然知らないジャンルの二次創作小説で、自分の二次創作小説の設定が使われる。そのジャンルに住んでいる人のことも、わたしはもちろん知らない。だから、どこにどう流れていくのか把握するのが難しい。
 
 二次創作はただでさえグレーなのに、さらにトラブルになったりしないだろうか。わたしはその小説をいずれ同人誌にして頒布するつもりだったから、その人が先にWEBに上げたらわたしの本が『〇◆◆〇さんと設定が同じ! 盗作だ!』と指をさされて炎上し、あの小さな村を追われたりしないだろうか?『わたしは盗んでいません!』と言っても知らないジャンルの人に信じてもらえるか分からない。
 
 上記二点の事情から、お断りするのが無難だと感じていた。しかし、仕事をしながら小説を書くことの大変さも知っていたため、『そこそこ書いたなら、そりゃ公開したいよね……』という気持ちもあった。
 そこで、本にする予定があることを告げた上で、条件を付けて公開してもらうことにした。一応DMもくれていることだし、そんなにおかしなことはしないはずだと考えた。のちに、これが甘かったと思い知った。

 
 わたしが彼女に提示した条件は以下の通り。

 ①トラブル防止のため、別の二次創作小説の設定を流用していることを明記すること

 また、DMのやり取りのなかで『別アカウントでひっそりとアップする予定』とのことだったので、

 ②投稿の際に、わたし宛にメンションをつけること
 
 この、『ひっそりとアップ』という意味が、のちに変わってくるのである――。

 
 翌日の昼前、事前の相談通り相互状態のものとは別のアカウントから画像で小説が投稿された。設定流用に関する但し書きもあった。
 このときになってようやく、わたしは彼女が設定を流用して書いた小説を読んだ。たしかに、私がアップしていた小説の設定がそのまま使われていた。
 
 メンションつきのツイートにいいねやリツイートがあると、わたしのところにも通知が来る。そのため、ぼちぼちの人に見られていることがわかった。そのときは、へー、と思っただけで、あまり気にしなかった。
 しかし数日後、ぱったりと通知が来なくなった。わたしは何となく違和感を覚え、そのアカウントを覗きに行った。すると、先日件の小説が載せられていたツイートが削除されていた。違和感がさらに強くなる。せっかく書いたから、どうしても公開したいという話だった。

 それなのに、なんで?
 
 嫌な予感がした。わたしは速やかにpixivを開いた(オタクは焦るとすぐにpixivを開く)。その人のホーム画面を見に行くと、この前Twitterに画像で載せられていた例の話が、小説としてこちらにも投稿されていた。サムネをタップし、キャプションと本文の冒頭を確認した。
 
 わたしはギュンギュンに眉を顰めた。
 
 ない。設定を流用した旨を明記した但し書きがない!
 わたしはムムムと考え込んだ。この時点では但し書きを『意図的に削除したのか』『うっかり記載し忘れたのか』判別できない。裏取りをする必要がある。わたしはコメント欄を見た。数件のコメントがあった。そのうちひとつを読む。
 
『とても素敵な設定でドキドキしました。こちらは続きはないのでしょうか? もし気が向いたら書いて頂きたいです』
 
 それに対する相互さんの返事。
 
『ありがとうございます! こちらは続きはありませんが、またいろいろ◎×▽▽の話を書くので、見てやってください』
 
 オオォ、これは黒。意図的に消してる方であったか。

 シロだったら『この小説の設定はわたしじゃなくて、〇〇さんが考えたものです』って返事をするだろう。続きが書けないのも、そりゃそうだ。わたしがアップした小説のなかの一部分をキャラ名を変えて展開をトレースしただけなのだから。

 約束した通りの但し書きがなければ、ネタパクしたのと同じである。少なくとも、pixivで読んだ人はこの相互さんが考えた設定だと思っている。
 
 わたしは段々腹が立ってきた。おんどれ何が『ありがとうございます!』じゃ。約束と違う。設定と展開をまるっと流用したら明記してくれ! 盗作トラブルを呼びこむなバカタレ!
 あまりに理解不能で、がっかりしてめそめそしてわたしは項垂れた。なんせ、この人とわたしはTwitterだけでなく、pixivも相互だったのだ。
 
 なんで約束破ったのバレないと思ったの……??
 
 しかもわたしとこの相互さんが繋がっていたジャンルの推しカプは、ピクスクイベントでもサークルが5つあったら『今回は多いね!』と言われるくらい小さな村なのである。イッツアスモールワールド。

 いくら相互とはいえ、わたしがどんな人間でどんな性格なのかまでは彼女は知らない。もしかしたら『〇◆◆〇さんに騙されました! DMスクショはこれです! 皆さんも注意してください! 拡散希望!!』と村を裸足で飛び出して名指しで大立ち回りしたかもしれないのだ。
 神絵師ふたりにブロックされたら推しカプの絵がひとっっつもTLに流れてこなくなるような小さな村なのに、なぜこんなことをするのか。びっくりする。
 たぶん舐められていたんだろう。こいつならワンチャン気が付かないかもしれない、と。わたし、あなたが思ってるほどバカじゃないよ!
 
 びっくりして逆に冷静になったわたしは、とりあえずpixivのコメント欄に客観的事実のみ書くことにした。不愉快だったが、不愉快を全面に出すと『不愉快にさせてすみませんでした』というお気持ちテンプレで謝られて終わりになるからだ。詰めたいのはあくまでも『おめー、わざと消しただろ?』だ。
 
 わたしが実際にコメントした文がこちらだ。深夜0時15分。
 
『こんばんは。先日TwitterのDMで当方の二次創作作品の設定の使用についてご相談頂きましたが、公開する際にその旨の記載をお願いし了承頂いております。大変お手数ですがよろしくお願いします。(今後本を出す予定があるため、盗用したと思われてしまうのを避けるため)』
()内は、相互さんに対してではなく、通りすがりにこのコメント欄を見ていく人に向けて書いた。誰でも見て行ってくれ! むしろ見ろ! の気持ちでコメントした。
 
 それに対する返事がこれだ。深夜0時41分。
 
『お世話になっております。この度は大変申し訳ございませんでした。キャプションに設定使用の件と円井さんのpixivアカウントを追記しました。よろしかったでしょうか? 不手際など御座いましたらお伝えください』
 
 お分かりいただけただろうか?
 
 わたしには分かる。見える。彼女が平謝りしてこの場をどうにか切り抜けようとしているのが。しかし、何に対して謝罪しているのかはまったく曖昧だ。『この度』ってどの度? ご自分のどの行動がどの段階から逸脱しているとお思いですか?

 わたしが先のコメントで客観的事実しか書かなかったので、どの程度怒っているのか分からず、さらに『わたしはあなたが意図的に但し書きのある投稿を消して別媒体にアップし直したことに気付いている』と表明しなかったので、彼女も『うっかり書き忘れました』みたいな過失アピールができなくなった。そう書けば『おかしいですよね? このコメントなんですか? 矛盾してますよ??』と突っ込まれるかもしれない。でも『わざと但し書きのある投稿を削除しました』とも自白したくない。だから根本原因について説明できないふわっとした謝罪になる。
 
 次のわたしからの返事がこれだ。翌朝7時32分。怪しい相互よ、ゆっくり眠れたか?
 
『キャプションの対応ありがとうございました。お手数をおかけしました』
 ここを読んで、彼女は『逃げきれた!』と思ったかもしれない。火消しできたと。
 改行。
『今後は、設定使用について説明のある投稿を消した上で別の媒体に説明のない状態でアップロードし直すということはお止めいただけますよう、重ねてお願い致します』
 
 直球で翻訳すると、『おめー、わざと消しただろ? 知ってるぞ』である。
 
 このコメントをわたしがpixivに載せた直後、この相互さんはpixivのすべての作品を削除した。そしてTwitterアカウントも消した。さらに少し後、彼女は結局pixivアカウントも消した。
 
 後ろ暗いところのある人は、逃げきれたと思った瞬間が一番油断する。油断したところを、後ろから『ワッ!!』とやると効果的だ。びっくりするがいい。わたしはお前の行動のせいでびっくりしたぞ。
 
 私は一言も、メイン垢で事情説明と謝罪文を掲載しろとか、二次創作を辞めろとか、アカウントを消せとか、作品を下げろとは言っていない。それでも勝手に消えていった。
 今現在、アカウントが転生したかどうかも知らない。興味もない。今後、彼女とジャンルが被らないことを祈るのみだ。
 
 何はともあれ、悪意を指摘されただけでアカウントを消さなきゃいけないぐらいショックなら、最初からおかしなことはしない方がいい。

 わたしはこの件によって、相互フォローだとか、毎日リプで会話があるとか、そういうネット上での繋がりは、相手のモラルを何ら担保しないのだということを強く体感した。
 まさか毎日話してる人に、こんなつまらない嘘を吐かれるとは思っていなかった。甘かった。


エピローグ

 
 Twitterはアカウントを削除しても、しばらくの間は投稿ゼロの状態でホームが表示される。
 このやり取りの直後、彼女のアカウントの表示名が変わっていた。大慌てで作品を消したりアカウントを消したりする中、わざわざぽちぽちして変更したのだ。
 
『土に還りました』
 
 何を最後におもろくしようとしとんねん。

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