今年のベスト1は『KGBの男:冷戦史上最大の二重スパイ』。
さて、今年のベスト1は『KGBの男:冷戦史上最大の二重スパイ』。
名作映画『裏切りのサーカス』の原作『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』は、MI6の中にKGBに情報を流しているスパイを探す話ですが、これには実在のモデルがいました。この男によりMI6は壊滅的なダメージを受けたのですが、本作はその後の話で、KGBにいながらMI6に情報を流し、KGBに相当のダメージを与えたスパイの話です。
主人公のオレーク・ゴルジエフスキーは「作家は文学によって政権を批判してきたが、自分はスパイとして政権を批判していく」という信念をもって、MI6に接近し、情報を流しつづけます。
この件が発覚すれば、間違いなく拷問の果てに処刑となります。家族ですら信頼できないソビエト社会の中で、孤独と恐怖に耐えながら二重生活を送ることになります。
そしてMI6も貴重な情報源であるゴルジエフスキーをだいじにしようと、完全なシフト体制をつくります。存在を知るのは最小限。その中にはサッチャーも含まれます。もらった情報は発信源がばれないように小分けにし、遠まきにして相手に届くようにし、ゴルジエフスキーが出世してさらに重要な情報を流せるよう、あえてKGBに機密情報を与えるなど協力していきます。
とまあ、いろいろ書きましたが、ほんとにおもしろい。おお、ほんとに情報の受け渡しはこんなことするんだっ! うおっ、こんなところにモグラがいたんか! うわああああ、ソビエト帰っちゃったよ! あああ、盗聴しかけられたあああ!とか内心吠えながら読んでおりました。
帯にあるようにサッチャーが、CIA長官が、レーガンがこのスパイによって助けられたことがよくわかります。ゴルジエフスキーがいなかったら、冷戦はさらにこじれていたことは確かでした。
なにより、冷戦下でこんなことがあったのかという驚きがいちばん大きい。
最初は図書館から借りて読んでいたのですが、これは買って残しておきたい購入となりました。こんなにわくわくした本は『ユリシーズを燃やせ』以来。
本書は、ゴルジエフスキー本人のインタビューはもとよりMI6、ゴルジエフスキーの家族などの証言をもとにしており、これがノンフィクションとは思えないようなドラマチックに展開となっております。
読め、読みましょう、読むのだ。
『KGBの男 冷戦史上最大の二重スパイ』
ベン・マッキンタイアー 著/小林朋則 訳
https://www.chuko.co.jp/tanko/2020/06/005310.html