カリフォルニア州司法試験体験記 (23年2月受験、米国LS留学無し)
0. 目次
1. 初めに
2. 勉強時間及び日々のスケジュール
3. 勉強方法
(1) MBE (2) エッセイ (3) パフォーマンステスト (4) MPRE
4. 参考にしたブログ
5.試験会場及びホテル
6. 最後に
1. 初めに
23年2月のCA州司法試験に合格しました。
私は米国LS留学せず、働きながら1年半かけて勉強し試験に臨みました。そのため、短期間で知識を詰め込んで効率良く合格することを目指す方にはそぐわない部分もあるかもしれません。ただ私自身が受験時代、限られた情報の中で手探りの中、多くの方のブログに助けられてきましたので、ここで記載することにより後進の方に少しでもお役に立てればと思います。
年齢:30代後半
職業:会社員
弁護士資格の有無:日本の弁護士資格あり。
海外経験:21年後半から米国駐在。それ以前は海外生活の経験無し。
英語力:現在の駐在を除けば、海外での生活経験はありません。
合格までの受験回数:1回
受験勉強期間:約1年半
受験を決めたきっかけ:LA赴任が21年中頃に決まった段階で、23年2月の試験を目指し勉強することを思い立ちました。
2. 勉強時間及び日々のスケジュール
(1) どれくらいの時間勉強すべきか
英語力や日本の司法試験で答案の書き方(三段論法、アメリカで言うところのIRAC method)を習得しているかで差はあるものの、これまで米国のLSに留学し卒業後司法試験(NY州)を受験した多くの方の体験談を読むと、LS卒業後2ヶ月、合計数百時間必死で勉強して合格されるパターンが多い様です。
LS卒業後にCA州の司法試験を受ける方も基本的にはこの様なスケジュールになるかと思いますが、非ネイティブのハンデを考慮して、卒業前から少しでも勉強を始めることをお薦めします。
特にCA州の司法試験は、2020年から合格基準点が1440点から1390点に引き下げられたとはいえ、なお合格率がNY州より十数%低い傾向にあります。個人差は勿論ありますが私の経験上、この十数%分のギャップを埋めるためには、数百時間余分に(つまり合計1,000時間程度)勉強した方が良い様に思います。
私の場合、試験までに余裕を持ってスケジュールを立てたという事情もあり、最終的に1年半で2,000時間を勉強に充てることができましたが、実際にMBEやEssayの過去問を解いて「これはギリギリ受かるんとちゃうか」という手応えが出だしたのは勉強時間が合計1,000時間を突破した辺り(試験4,5か月前)でした。
LS卒業後を中心に短期間集中で勉強する方であればより効率良く知識が定着するかと思いますので、勉強時間はもうちょっと少なくても合格ラインに達するかもしれません。ただいずれにしろ、ギリギリ目指して勉強するのも心理的にきついので、卒業前にある程度勉強を進めることをお薦めします。
(2) 日々のスケジュール
社会人のCA司法試験のパイオニア存在である渡部先生の記事( https://inhouselaw.org/calbar2.pdf )にもご記載の通り、法務部員にとって夜は時間が確保しにくいです。また、もともと極度な朝型の私にとっては夜になると日中の疲労が蓄積し集中することが難しくなる為、主な勉強は早朝に行いました。
試験前数ヶ月のスケジュールとして、朝4時に起床。LAのフリーウェイを爆走し(もちろん法定速度で)、4時40分にオフィス到着。試験直前は9時前まで4時間勉強しました。また業務終了後は夕食を取って有酸素運動マシンを1時間漕ぎながらI-padで後で紹介する講義を見て勉強していました。また、風呂に入った後眠くなるまでの30分程も纏めノートをざっと読んでいましたので、試験前の勉強時間は1日6時間程度だったかと思います。
週末も同じく朝4時に起床。5時から10時頃まで勉強した後、家族で外出。帰宅後も3時間程机に向かい、運動しながらの講義視聴(後述)も1日1時間程していましたので、勉強時間は合計8-10時間程度だったと思います。
3. 勉強方法
(1) MBE
① Adaptibar
オンラインで問題が解けるAdaptibarを使って勉強しました。
初めは解説の丁寧さに定評のEmanuelを使って勉強しようと思いましたが、「時間を区切ってテンポ良く勉強を進めたいせっかちな自分には長い解説が合わなかったこと」、「本が重すぎて出張時や外出時に勉強できないこと」から断念し、Adaptibar一本に絞って勉強することにしました。
Adaptibarは私の受験時点では約1,600問が収録されていました。その中で、間違えたor知識が曖昧だった約1,000問については問題を解くのと並行してオリジナルの纏めノートを作成。纏めノートでは、問題から得た学びを1,2行で纏めるのに加え、Adaptibarの解説中の該当箇所をPCの切り取り機能を使った上で貼り付け、復習の際に一緒に確認できる様にしました。纏めノートは試験前日まで作成を続け、合計約200頁になりました。
また最近はMBE対策の過去問纏めノート(解説の切り貼りはなく、過去問の結論部分のみ)をブログでアップしてくださる偉大な先人もおられ、私自身大変お世話になりました。ただ、私の場合、他人が作った纏めノートに依存しすぎると、問題の結論のみが頭に入り、微妙に事実関係が違う問題でも過去問の結論に引きずられてしまう癖がありました。その為、「その問題の射程がどこまで及ぶのか」を復習する際に確認する上でも、Adaptibarの解説の切り貼り作業を自分で行ったことは後々非常に有用だったと思います(纏めノート中の解説の該当箇所をさっと見直せば、問題の射程が確認できます)。
試験までにAdaptibarを2周半ほど(合計4,000問)。それと並行して試験2ケ月程前から纏めノートを数回読み返しました。
なお、一般的には2,000問程度を解くことで合格ライン(65%程度)に達成すると言われていますが、他の日本人受験生と同じくMBEを得点源とする為には、多くの練習を積むに越したことはありません。
② MBE Decoded – Multistate Bar Exam
最近世に出た本で現時点で日本人のブログにも殆ど登場していない参考書として、この本がお薦めです。問題演習というよりはインプットが主眼の本ですが、受験生が混同しやすい条文や概念をチャート形式で分かり易く記載してあり、初めて読んだ時は目から鱗でした。問題演習をしても問題意識や全体像がいつも頭に入り難い時は、一読してみる価値はあるかと思います。
③ 正答率
1年前から問題を解き初めましたが、初めの1,2ケ月は5割にも届かなかったです。
その後、6割から7割前後の正答率で数ヶ月間膠着していましたが、上記纏めノートを回したり、1,600問の問題を解き終わり2周目以降に突入したこともあり、試験直前1ケ月前頃からは8割-9割をコンスタントに正解することができる様になりました。
試験の手応えとしても、午前午後併せて8割は取れたという感触があったので、この勉強方法は間違っていなかったと思います。
④ 紙を使った問題演習
試験当日まで紙を使った問題演習は一度も行いませんでした。
不安もありましたが、そもそも紙のマークシートによる試験は大学受験やTOEICの勉強で慣れていましたし、PCのモニター越しとは違って目がパキパキになることもないので、寧ろ紙の方が解きやすかったです。私の場合、ドラゴンボールに例えると、Adaptibarでの勉強は重力1.5倍の惑星で行う修行といったところでしょうか。この修行に慣れると紙での試験が身軽で解きやすく感じます。
ただ、3時間の試験時間中ずっと下を向いていると首が凝ってくるので、問題用紙を二つ下りにして左手で顔に近付け、顔は正面を向いたまま、手に持った問題用紙に鉛筆で書き込みを行う要領で解きました。この姿勢を言葉で説明するのが難しいのですが、競馬予想のおっさんがレース直前の電車内で、スポーツ新聞を片手に赤鉛筆で書き込みをしている状態に近いと思います。人間、極度の集中状態が続く時には同じ姿勢になるものだと、MBEの試験中ぼんやりと考えていました(そんなこと考えている時点で「極度の集中状態」ではないかもしれませんが)。
(2) Essay
① インプット
(i) Smart Bar Prep
過去20年間に試験に出た論点を網羅したSmart Bar Prepを1月1回のペースで読んでいきました。
なお、Smart Prepは論点に絞った教材とはいえ、300頁近くあるため、1日1時間読んでも1周するのに1ケ月かかり、その頃には最初の論証をほぼ忘れています。その為、試験直前になっても論証を諳んじることはおろか、「こんな論証あったっけ」と自分の記憶力の悪さを痛感することも多々ありました。
そんな中、試験直前に幸運にも見つけたのが、偉大な先人が作成された以下のシンプル論証集です。1,000円で購入することになりますが、重要な論証が数十頁で纏められており、抜群の投資効率だったと思います。最後の2週間で数回回すことができ、実際の試験でも多いに役に立ちました。
【Essayのためのシンプル論証集 うに弁護士】
https://note.com/nkmrmh/n/n422cc7fc4356
(ii) 動画
勉強を始めた頃は、各科目の全体像を掴めない中で論証集を読み込むことは苦痛かと思います。私の場合、何らかの講義を先に一通り聞いて何となくのイメージを頭に入れてから論証を読み進めることでそれを乗り切ることができました。
(a) Barbriの講義でもいいと思いますが、数千ドルを出すのを勿体なく思った私は、Studicataというオンラインの講義を購入することにしました(合計100時間程度)。
誰かに勧められたという訳ではなく(日本人の合格体験談でこの業者に言及しているのを見たことがありません)、Youtubeで見つけた講義のモジュールがどれも分かり易かったのが選んだ理由です。
それでも$2,000とそこそこのお値段はしますし、CA州独自の試験科目については網羅されていない等の難点はありますが、Barbriと違い1人の講師による講義のため、科目による講義の質のバラつきが無いのがメリットです。下のYoutubeチャンネルを見て気に入ったのであれば、検討されてもいいかもしれません。
https://www.youtube.com/@studicata/videos
(b) また、上述のAdaptibarのプラットフォーム内では、MBE科目に関する講義を追加購入できます(合計40時間程度)。数万円しますが、この講師の講義がテンポが良くて分かり易いです。試験までに4回繰り返して視聴しました。
(c) Essay科目の中で特に厄介なのがReal Propertyです。日本法とは大きく異なる概念や用語が多く、全体像を掴むのに相当苦労しました。そんな時、大変助けられたのが以下のYoutubeチャンネルです。手作り感満載のアニメーションで、Real Property勉強の苦痛を和らげてくれました。中には下品なイラストもありますが、それがまたいい。
https://www.youtube.com/@user-pg8xw7kt1n/videos
なお、長い受験勉強期間の間には、疲れたりしてモチベ―ションが低下する日もあるかと思いますが、そんな時でも動画は流していれば強制的に目と耳に入り多少は脳に残りますので、私はやる気が無くなればすぐにiPadを抱えて有酸素マシンに向かい、マシンを漕ぎながら講義動画を頭に流し込むという、セルフ拷問を繰り返していました。
② アウトプット
インプットだけでは採点者に分かって貰えないというのは、私が日本の司法試験で得た最大の教訓です。以下の2つの過去問集を使用しました。重複問題を除いても180問程度あり、充分な練習量かと思います。
(i) Essay Exam Writing for the California Bar Exam(いわゆる「青本」)
(ii) BarbriのEssay問題集 (eBayで中古で購入)
「青本⇒Barbri」の順番で試験までできるだけたくさん回すことにしました。
初めは1時間で1問を解くので精一杯でしたが、2周目では2時間で3問、3周目では1時間で2問、という様に回すスピードを意図的に早くしていき、青本は4周、Barbriは3周したところで試験を迎えました。
問題を解く場合は、10分-15分の間で答案構成をした上で解説を読むという作業を繰り返していましたが、試験の数ヶ月程前からは土日に1通ずつ答案を書いていきました。特に誰かに採点をして貰った訳ではなく、フィードバックを受けることによるパフォーマンス改善には至らなかったものの、タイピング速度の向上や実際の試験のシミュレーションといった観点からは意味のあるものでした。
③ 「合格の為に1,000語必要説」の真偽
Essay合格の為には「1,000単語」を記載することが目安という説が流布しています。
勿論、論点を多く拾った方が点が付きますし、その意味で短い答案は取りこぼしが多いケースもあるかと思います。ただ、単に人間の指が10本あり、数学の世界で10進法が使われているからその延長で1,000という数字が使われているだけであり、1,000という数字自体に特別な意味は無いので、1,000語を超えることができるかで一喜一憂しないことが大事かと思います。
私自身、日本の司法試験合格直後に予備校の採点を行っていたことがありましたが、「読み心地が良くいい点を付けたくなる」のは語数が少なく、かつ論点に簡潔に触れている答案です。反対に長文かつ論点が何か分からない解答には辟易していました。
試験当日は気合で何とか900語程まで記載したものの、当日までは700-800単語書ければいい方という状態が続きました。同じように語数で苦戦されている方は気にし過ぎても仕方ないので、とにかくIRAC(問題提起⇒ルール⇒あてはめ⇒結論)の形式を遵守し、セクション名には下線部を引く、本文でも改行をこまめに行うなどして、採点者に見易い答案を作成する工夫が必要かと思います。なお、「問題提起⇒ルール」はセクション名として併せて記載し下線部を引くことで問題ないです。青本でもこの形式が使われています。
(3) パフォーマンステスト (PT)
以下を全て解きましたが、殆どの問題で時間が足りず単語数も700-800程度と、最後までどうすれば良いか試行錯誤した分野でした。
①BarbriのPT問題集(eBayで中古で購入)
②California PT Workbook
③上に掲載されていない過去問(現在の形式になった2017年7月以降のもの)
ベストな勉強方法は最後まで分からなかった為、「PTで大きく足を引っ張らないこと」を目標に掲げ、問題文の指示に従った解答をすることに注力することにし、それを念頭にできるだけ多くの問題を解くことにしました。
その上で、JD Advisingの出している“Multistate Performance Test One-Sheet: A Cheat Sheet for MPT formats!”という1頁のフォーマット集が大変便利でした。
(試験当日は過去問のどの形式とも異なる“Oral argument”のドラフトをする様に指示があり戸惑いましたが、他のフォーマットを活かす形で何とか解答しました。)
(4) MPRE
1ケ月間、1日1時間程度勉強した上で22年の11月に受験しました。
① インプット
有酸素マシンを漕ぎながらJD Advisingという予備校の無料講座をYoutubeで2,3周見て勉強しました。とても分かり易い動画なので、インプットはこれだけで充分かと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=CAAQCqLBofU&list=PLdhZuTcH_bawX8IwNOhEA_5QNsX0-2obA
② アウトプット
MPRE Study Guide and Practice Testの巻末問題(前半のテキスト部分は読んでいません) 及び、ネットで見つけたBar MaxのMPRE Study Guideという無料教材の問題を解きました。
CA州司法試験の3ケ月前にMPREを受験しましたが、同じ問題を2,3回解くのは時間が勿体無いので、1回目に解く際に見直し用にマーカーで線を引き、試験直前にざっと見直すことで勉強時間を短縮しました。
4.参考にしたブログ
周りに受験仲間がいない中である程度の期間勉強を継続する場合、モチベーションを維持するのが大変だと思います。私の場合、様々な先人の体験談を読むことで「迫りくる試験」を思い返して緊張を感じ、何とか最後まで力尽きずに勉強することができました。
・米国弁護士試験のホントのトコロ
https://asosuna.com/study
最近(21年)受験された先生の記事ですので、現在の試験形式に直結した情報が得られます。採点方法等の情報の宝庫で、勉強時間の合間にいつも読んでいました。また、「MBE対策日本語まとめTips集」(有難いことに無償)は必見です。
・金沢からのカリフォルニア司法試験合格体験記
http://ca-barexam.sblo.jp/
筆者の内田先生のストイックさをいつも頭の片隅に勉強を続けてきました。CAの司法試験に対する深い洞察はつい読み入ってしまいます。
・Facebook:米国カリフォルニア州 司法試験 に独学で黙々と挑戦する会
https://note.com/wakatebengoshi
独学で受験する人向けのページですが、日本人の合格体験記がたくさん投稿されていて、モチベーション維持に役に立つと思います。管理人の渡部先生はカリフォルニア州司法試験受験生の神様で、様々な勉強補助ツールもこのグループ内で無償提供されています。
・うに弁護士 ブログ
https://note.com/nkmrmh/m/ma3c78920c772
上述のコンパクト論証集を提供してくださった弁護士のブログです。
・若手弁護士エスワイ
https://note.com/wakatebengoshi
Professional Responsibilityの論証集が非常に役に立ちました。
5. 試験会場及びホテル
試験会場はパサデナという閑静な都市を選択し結果として非常に良かったです。Facebookの上記コミュニティでは親切にも渡部先生が各試験会場を比較したノートを提供されていますので、一度ご覧になった上で決めるのがいいと思います。
どの試験会場にしろ、昼休み中に一旦部屋に戻れる程近いホテルを選ぶことをお薦めします(パサデナの場合はシェラトンホテル。試験会場に直結しています)。
試験1,2日共に、午前中の試験が終わった段階で頭がヘトヘトになっていると思います。私は午前の試験後大急ぎでホテルに戻り、昼食のバナナを一本胃袋に詰め込んだ後に20分仮眠し、仮眠後に熱いシャワーを浴びることで、完全にリフレッシュした頭で午後の試験に臨むことができました。
6.最後に
CA州の司法試験は他州と比して難しいとは言われているものの、その本質は「当日までにできるだけ詰め込んだ知識を、ルールに従って試験当日にできるだけ早く、できるだけたくさん紙の上にドサッと落とす」ゲームだと思います。
母国語でないと表現できない様な思考能力や創造性が試されていないことは、法曹選抜の試験としてはどうかと思いますが、我々非ネイティブにとっては逆にとても有利です。
「日本式の詰め込み教育」という使い古された言葉がありますが、米国の司法試験自体、まさに「日本式の詰め込み教育」が本領を発揮する分野だと思います。試されているのは根気と要領の良さ、と割り切って勉強すると気が楽になるのではないでしょうか。
以上、長くなりましたが皆さまのご参考になれば幸いです。
以上
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