「音」で美味しさは変化する〜味覚と聴覚〜

読者の皆様は食事をする時に「音」を気にしたことはありますか?
多分、普段から意識していらっしゃる方は多くないだろうと思います。
私自身、味覚に影響を与える「音」の力を知るまで、ほとんど意識したことはありませんでした。(せいぜい、周囲の雑音が大きいと「気になるなあ」と感じるくらい)

実は私たちが普段何気なく聴いている「音」には「味覚」を変化させる力があるのです。

まず、食事をする時に聞く「音」には大きく分けて2種類あります。

⑴ 食材から発せられる音
  (ポテトチップスを噛んだ時のパリッとした音、肉を焼いている時のジュウジュウ音、できたてのグラタンのグツグツ音など)

⑵ 食材以外から発せられる音
  (飲食店のBGM、調理音、人の会話の声、自然音など)


この2種類の音ですが、どちらが味覚に影響していると思いますか?

正解は「どちらも影響している」のです。

この2種類の「音」が「味覚」に影響している研究事例を少しご紹介したいと思います。(参考:GASTROPHYSICS: THE NEW SCIENCE OF EATING, Charles Spence


⑴ ポテトチップスのパリパリ音がポテトチップスを美味しく感じさせる

これは2008年にイグノーベル賞に受賞した研究になります。
(C.Spence et al. (2004) Oxford Univ.)

ヘッドホンを装着した被験者が「しけたポテトチップス」を食べる際に
ヘッドホンで「(収録した)パリパリ音」を流すと
パリパリ音がないときに比べて、15%程度パリパリ感が増して、
新鮮だと感じることがわかりました。

この研究から得られる知見としては次の2つが考えられるでしょう。
① 料理を食べる際の「音」には美味しさを増強させる効果がある
② 人間は「咀嚼している時の音(顎の骨から内耳へと伝わる音)」と「外部環境からの音」を(味覚への影響という観点からは)区別していない

②は少し難しい話かもしれませんが、
①は様々な活かし方があるかと思います。
例えば、
食材を調理する際に、食感を残すように心がける
(例:もやし炒めでは高温でサッと炒めてシャキシャキ感を残す)
心地よい音がする食材を取り入れる
(例:パイ包み(グラタンなどを焼いたパイで包むことで、食べ始める際に「音」を演出できる))
といったことが考えられます。
そのほかにも様々なアイデアがあるでしょう。


⑵ コーヒーメーカーの音で美味しさの評価が変わる

オックスフォード大で行われた研究です。

被験者にコーヒーメーカー(エスプレッソマシン)がコーヒーを抽出する際に発する音のうち、
耳障りな甲高い音を「強調させる」と、コーヒーを「美味しくない」と評価し、この音を「除去する」と、コーヒーを「美味しい」と評価する割合が高くなりました。

この研究から
「適切な調理音」は料理に対する評価をあげる
(不適切な(不快な)音は料理に対する評価を下げる)
ことが示唆されます。

BGMと料理に関する研究はあまり多くないのですが、
BGMと行動の関係性は多く調べられていることから考えると
BGM自体にも味覚を変化させる可能性は十分にあると思われます。
(例:飲食店でテンポの速いBGMを流すと、滞在時間が減る)


まとめると、

「心地よい」音は積極的に取り入れて
「不快な」音はなるべく無くすことで食事が美味しくなる

ということになります。

外食をする際には「音」に意識を向けてみるのも面白いかもしれませんね。
また、自宅で料理をする際には「音」を取り入れる工夫をしてみると食生活がより良いものになるでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?