叔母のこと
ずっと叔母を殺してやろうと思っていた。
30代半ばまで、わりと真剣に思っていた。
叔母の存在を感じるたびに、私は憂鬱だった。
でも私も伯母になり、叔母は叔母なりに私たちのことを愛しているのかもしれないと気づき、さすがにぶっ殺してやるとは思わなくなった。
数十年の入院生活を送っていた叔母が、認知症の症状が出始めたので介護施設に移動した。
入所の説明の際に、延命治療について聞かれたが、叔母は内容を理解できず、
「わからないなぁ」
とだけ答えた。
私は、
長生きしたいと言われたらどうしよう
と正直思っていた。
ぶっ殺すと思っていたし、早く死んでほしいとも思っていたけど、いざ、
「死にそうになっても医療の力で長生きすることもできるけど、希望する?しない?」
と聞かれたときに、私を含めて誰一人として叔母の延命治療を望んでいないが、本人が「生きたい」と答えたらその答えを覆すほど、私はもう叔母のことをそれほど憎んでいない。
そして、誰かのことを早く死ねばいいとずっと思い続けていたことに対する罪悪感と、叔母の人生について考えたら、涙をこらえきれなくなった。
そんな私の隣で母が、
「延命治療は望んでいません。この子達に迷惑をかけたくないので。」
と力強く言った。
その一言に、叔母に振り回されてきた母の人生を見たようだった。
手続きが全て終わり、別れ際に叔母が母に、
「お姉さんありがとうね。」
と言った後に私をじっと見つめ、
「さっちゃん、かわいいなあ」
と言った。
見送ってくれた看護師さんが、
「叔母さんに何か心配なことがあるか聞いたら、家族が事故に遭わないか心配だって言うんですよ。自分のことでなくて。」
と教えてくれた。
やはり叔母は私が甥を愛するように、私たちのことを愛しているのだと思う。
私が幼いころにそれに気づけば、ぶっ殺してやる、なんて思わなかっただろうか。
まぁそれは無理だろうな…
これくらいではチャラにはならないくらいひどかったから。
マジで。
今は、叔母が新しい環境におとなしくなじんでくれることと、なるべく施設から連絡がこないこと、そして程よく生きて、負担の少ないうちに穏やかに人生を終えてほしいと願うばかりです。