財務諸表を見ずに会社を選ぶなかれ
スタートアップのCFOをやって分かったことシリーズ
新卒時、財務諸表を知らずに会社を選ぶ
CFOを経験することでより詳しくなったのは財務諸表についてです。財務諸表にはお金を通じた会社の状態が示されており、これを見るだけでいろいろなことが分かるものです。
という基本的なことを知らずに私は新卒時に会社選びをしました。
私は新卒で日産自動車に入ったのですが、当時、シーマ、スカイライン、シルビアといった痺れるクルマがたくさん発売されており、お金のことより面白いモノづくりがしたいという動機が勝っていました。工学系の人間だったし、当時は財務会計には興味がなかったからですね。
ところが、研修時に人事の人が語った一言が今も脳裏に残っています。
「営業利益率が1%にも満たない。それが我社です。」
さすがにそれを聞いてヤバイなと思ったことを今でも覚えていますし、実際コストカットで備品や文房具すら会社で買えない状況でした。。
財務諸表
財務諸表とは、貸借対照表(BS/Balance Sheet)、損益計算書(PL/Profit & Loss Statement)、キャッシュフロー計算書(CF計算書/Cash Flow Statement)を指します。
細かい説明はいろいろなサイトに記載されているので割愛しますが、各々が何を意味しているのかの本質を理解しておくことは重要です。
たぶん直感的に理解しやすいのはPLで、これは一会計期の収支を表します(図1)。売上から順次かかったお金を引き算(足し算)していくと数字が出ます。これを見て、黒字だ赤字だ、という訳ですが、利益には5種類あるということに注意です。どの利益がプラスでどの利益がマイナスなのかによって事業構造が見え、読み方が変わってきます。本業の実力は営業利益に表れるので第一義的には営業利益がプラスかマイナスかは大きな判断材料となります。PLを見ることで対象期間の事業の状況を確認することができます。
次にBSです。これは右側に調達したお金の出処を表記して、左側に調達したお金の使途を表記します(図2)。右側は、返す必要のあるお金(負債)と返す必要のないお金(純資産)に大別されます。左側は、集めたお金を何に使ったかを表すことになります。BSはその名の通りバランス(右側と左側の数値は常に一致)します。BSを見ることでその企業の支払い能力や経営の安定性が読み取れます。
PLとBSですが、お金の流れを通じて関係性を持ちます(図3)。
①BSの右側、すなわちどこからか調達したお金を、
②BSの左側、何かに使って事業を運営することによって、
③ある期間の収支(PL)計算により当期純利益が決まります。
当期純利益はBSの右側の純資産に加わることで一順します。
この流れを継続的に拡大再生産していくのが一般的な事業の流れということになります。
以上でPLとBSの中でお金がぐるぐる回っているイメージがつかめると思いますが、実際にどのくらいのお金が動いたかを表すのがCFです。CF計算書は、
・営業キャッシュフロー(本業で儲けるとプラス、逆ならマイナス)
・投資キャッシュフロー(設備投資等をするとマイナス、資産売却等ならプラス)
・財務キャッシュフロー(返済や配当等でマイナス、調達するとプラス)
の3種類に分けて表記します。
CF計算書を見ることで、その会社がどこに力を入れてお金を使っているかを見ることができます。例えば、攻めの経営をしている際には投資キャッシュフローが大きくマイナスになるなど。
以上のことを知っているか知らないかによって企業の見え方はまったく違ったものになります。メディアに露出することで好印象を受けることも多いですが、財務諸表を見て実情を知るとまた違った印象を抱くことになるでしょうし、ビッグサプライズもなくなると思います。
改めて振り返ってみると、当時の日産自動車は有利子負債が3兆円もあるわりに利益率が異常に低いという状態で、私が在籍した9年間の間黒字が一回しかなかったという悲惨な状況でした。カルロス・ゴーンが来なかったら本当に危なかったと思います。そんな会社でしたが、自分としては最初に日産自動車に勤めたことについて後悔していないですし、却ってよかったと思っています。ですが、もし30年前に戻れるなら、「財務諸表も気にしろ」と若い自分に言ってあげたいところです。
追伸)スタートアップのCFOをやって分かったことシリーズでは備忘の意味も込めて書き綴っています。各種質問やこんな話題を取り上げてほしい等のリクエストがありましたらご連絡いただければ幸いです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?