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あなたの会社おいくら?(企業価値とバリュエーション)

スタートアップのCFOをやって分かったことシリーズ

すべてに価格がついている

値上げが止まりませんね。私、毎朝オレンジジュースを飲む習慣があるのですが、以前は200円代だったのが今や300円代、消費税を足すと400円!になりかなり負担感が増しました。
さて世の中を見渡せば何らかの価格がついています。そしてそれは会社も例外ではありません。
株式会社の価格(時価総額)=株価×発行済株式数
上場会社であれば、日々の株価、時価総額、発行済株式数が公開されているので会社の価格を知ることは難しくありません。
例えば、6月20日の江崎グリコ株式会社の場合、以下です。
株価4,157円、発行済株式数68,468,569株、時価総額2,846億2384万円
これが当日の株式市場で売りたい人と買いたい人がバランスした結果、すなわち適正価格と見なされます。
ところがこれが未上場会社になると、株式市場での取引はなく、適正な会社の価格を知ることが困難になります。会社の価格は資金調達やM&Aなどを行う上での拠所となるものなので何らかの方法で会社の価格を算出する必要があります。
そこで登場するのがバリュエーション(Valuation, 企業価値評価)です。

バリュエーションとは

バリュエーションとは、企業や資産の価値を評価するプロセスです。特にスタートアップにおいては、資金調達やM&A、ストックオプションの発行など、多くの場面でバリュエーションが重要な役割を果たします。バリュエーションは企業の現状だけでなく、将来の成長可能性やリスクを評価するための重要な指標です。過小評価されると企業は必要な資金を調達できず、過大評価されると後のラウンドで問題が生じる可能性があります。適切なバリュエーションは、企業の成長をサポートし、投資家にとっても公正な投資機会を提供します。

代表的なバリュエーション手法

バリュエーション手法はいくつかあるのですが、アプローチの違いによって3つに分けられます。
1.インカムアプローチ:会社の将来キャッシュフローに基いて価値評価
2.マーケットアプローチ:類似上場会社の指標や他の取引事例に基いて価値評価
3.コストアプローチ:会社の貸借対照表に基いて価値評価
それぞれのアプローチには長所短所がありますが、ここでは実務的によく利用されるインカムアプローチのDCF法とマーケットアプローチのマルチプル法の概要について紹介します。

1. DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)
DCF法は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出する方法です。ステップは以下です。
 ①将来のFCF(フリーキャッシュフロー)の予測:
 FCF=営業CF(事業で儲けたお金) ー 投資CF(投資に回したお金)
 事業計画に基づき将来数年間のFCFを予測します。事業計画は通常5年程度
 なのである仮定を置いて6年目以降についても算定します。
 ②割引率の設定:
 割引率(通常はWACC: 加重平均資本コスト)を設定します。WACCの計算
 は少しややこしいのでここでは割愛します。
 ③事業価値の算出:
 FCFを割引率で割り引き、事業の現在価値を求めます(計算式は割愛)。

DCF法は理論的には非常に精緻な方法で、エクセルを使って計算式に落とすことは簡単にできます。一方その性質から、将来のキャッシュフロー予測や適切な割引率の設定が難しく、主観的な判断が多く含まれます(事業計画の精度に左右される)。

2. マルチプル法(類似企業比較法)
マルチプル法は、類似企業のバリュエーション指標(例えば、PER:株価収益率、EV/EBITDA:企業価値/EBITDA倍率、PSR:株価売上高倍率)を基に評価する方法です。ステップは以下です。
 ①類似企業の選定:
 指標の分かる同業他社や競合企業を複数選定します。
 ②マルチプルの算出:
 選定した企業のバリュエーション指標を算出し平均値化するなどします。
 ③自社への適用:
 自社の業績データに対して、②で算出したバリュエーション指標を適用
 し、企業価値を算出します。

マルチプル法は簡便で理解しやすい方法ですが、類似企業の選定や市場環境に大きく依存するため、過度に単純化されるリスクもあります。特にスタートアップは今までに無かったビジネスである場合も多く、類似企業を見つけるのが困難なこともあります。またバリュエーション指標もトレンドがあって、SaaS企業では2020年頃には企業価値=PSR20倍という高倍率も登場しちょっとしたブームだったのが現在では5~7倍程度となっています。

バリュエーションを行う際の留意点

バリュエーションはその性質から不確実性を内在しているためその扱い方には注意が必要です。具体的には以下のような因子が影響を与えます。
1. 市場環境
市場のトレンドや経済状況は、企業価値に大きく影響します。例えば、特定の産業がブームになっている場合、その産業に属する企業のバリュエーションは高くなる傾向にあります。(最近では宇宙関連や生成AIがトレンドか)
2. 企業の業績と成長見通し
現在の業績だけでなく、将来の成長見通しも重要です。成長性の高い企業は、将来のキャッシュフローが大きくなると期待されるため、バリュエーションも高くなります。
3. リスク要因
企業固有のリスクや外部環境のリスクもバリュエーションに影響を与えます。リスクが高い企業は、予測されるキャッシュフローが割り引かれるため、バリュエーションが低くなります。

スタートアップ固有の問題

1. 不確実性の高さ
スタートアップは成熟企業に比べて将来の収益やキャッシュフローの予測が難しく、バリュエーションに対する不確実性が高いです。このため、投資家は通常、リスクプレミアムを要求します。
2. データの不足
スタートアップには過去の業績データが少ないため、伝統的なバリュエーション手法が適用しにくい場合があります。事業計画はもちろん、どんなチームが運営しているか、既存顧客のリファレンスなど様々な情報を多面的な検討が求められます。
3. 投資家の期待とのギャップ
基本的に投資家は大きなリターンを求めるため、スタートアップのバリュエーションはステージに応じて投資家の期待と調整する必要があります。過度に高いバリュエーションは後の資金調達で困難を生じる可能性があります。

結局のところ

どんなバリュエーション手法を利用したとしても、最終的に当事者同士が納得すればそれが適正価格ということになります。
バリュエーション手法は議論の素地を提供するために重要な方法論ではありますが、現実は不思議なもので「あの人だったら多少高くても買おうか」と思ってもらえるような人間関係が最後は功を奏したりします(皆さんもそんな経験ありますよね?)。
テクニカルなスキルを身につけて相手と同じ目線で会話できるようにしておくことはもちろんですが、普段から約束を守ること、人間力を鍛えておくこと、信用貯金をしておくこと、など計算式には現れない地道な努力も忘れてはいけません。情けは人の為ならず。

追伸)各種質問やこんな話題を取り上げてほしい等のリクエストがありましたらご連絡いただければ幸いです。


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