令和6年予備論文 刑法再現
第1 乙の罪責について
1 乙がCの頭部を拳で数回殴って全治約2週間を要する頭部打撲の傷害を負わせた行為につき傷害罪(204条)が成立する。
2(1) 乙がCの腹部を足で数回蹴った行為につき傷害罪が成立しないか。
Cの肋骨骨折が乙と甲との現場共謀後に発生したかどうかが定かではない。そこで乙にCの腹部傷害に対する承継的共同正犯が成立しないかが問題となる。
(2) 共同正犯(60条)の処罰根拠は、互いに正犯として他人の行為を利用補充しあって犯罪を実現する点が実質的に見て単独正犯と同視できるからである。そうであれば、自己が関与する前に発生した傷害結果に対して、自己の行為が因果関係を及ぼすことはありえないので、共同正犯を認めるべきではない。
(3) よって、本件でも乙が加担する前に発生した傷害結果に対して承継的共同正犯を認めるべきではない。
3(1) では、Cに対して207条は適用されないか。
(2) 207条の趣旨は、複数の者が傷害結果発生の現実的危険性を有する行為をしておきながら、因果関係がないためにだれも責任を問われないという事態を防止するという点にある。そうであれば、本件では後述の通り、甲はCの傷害結果が乙の加担前の行為によるか否かにかかわらず責任を負うのでこのような不都合は生じない。
(3)よって、Cに対して207条は適用されない。
2 以上から、乙にはCの頭部に対する傷害罪が成立する。
第2 甲の罪責について
1(1) 甲が本件コインケースを拾い上げて自己のズボンのポケットに入れた行為につき窃盗罪(235条)が成立しないか。
(2) コインケースは「他人の財物」といえるか。他人の財物とは他人の占有する財物のことをいうが、これは①占有の意思と②占有の事実から判断する。
Aはコインケースを落としたことを気づいていないので、占有の意思を有していないとも思える。しかし、落としたことに気づいていないということは、いまだに自分でコインケースを持っているという認識であると考えられるので、占有の意思は引き続き持っていると考えられる。
では占有の事実は認められるか。占有の事実の有無は、財物の形状、落とした場所の状況、落とした場所の見通し状況、落としてから占有を取得するまでの時間的場所的接着性から判断する。
コインケースは形状が小さく簡単に占有の移転が可能である。しかし落とした場所は、X駅に向かう人通りの少ない路上であり、コインケースを落としても、簡単に第三者が占有を支配できる場所ではない。また、Aは、甲が本件ケースを拾い上げた時点で第一現場から道のり約100メートルの地点におり、同地点と第一現場との間には相互に見通すことができなかったが、同地点から上記交差点方向に約20メートル戻れば、第一現場を見通すことができた。そうであれば落とした場所の見通し状況も決して悪くはない。また、甲が本件ケースを拾い上げたのはAが本件ケースを落としてから約1分後であった。そうすると、落としてから拾い上げるまでの時間的場所的接着性も認められる。
以上からAの本件コインケースに対する占有の事実が認められ、本件ケースは「他人の財物」といえる。
甲は本件コインケースを拾い上げて自己のズボンのポケットに入れており、「窃取」している。
甲には本件ケースの占有移転の事実認識があるので故意がある。また、甲は本件ケースが自己の好みの者であったため、本件ケースを自己のものにしようと考えており、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用処分しようとする意思である不法領得の意思が認められる。
(3)以上から、甲にはコインケースに対する窃盗罪が成立する。
2(1) 甲が第2現場から本件自転車を持ち去った行為につき窃盗罪が成立しないか。
(2) 本件自転車は「他人の財物」といえるか。
所有者のBは、第2現場に本件自転車を駐輪したまま徒歩で書店に向かい後ほど取りに戻ろうと考え、本件自転車を第二現場に駐輪している。そうすると、Bは引き続き自転車の占有支配の意思を有しているといえる。
また本件店舗には専用の自転車置き場がなかったが、第2現場は自転車が駐輪できる相当程度のスペースがあり、本件店舗利用客の自転車置き場として使用されていた。そうであれば、駐輪場に駐輪している限り、無施錠でも占有の事実が認められるといえる。
以上から、本件自転車は他人の占有する「他人の財物」といえる。
甲は、本件自転車を第2現場から持ち去っており、「窃取」したといえる。
甲は、本件自転車が本件店舗の利用客が駐輪したものであると考えたうえで持ち去っており、占有侵害の認識である故意が認められる。
では、不法領得の意思が認められるか。
不法領得の意思は毀棄罪や使用窃盗との区別から、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用処分する意思をいうと解する。
甲は本件自転車を足代わりにして乗り捨てようと考えており、権利者を排除して他人の物を自己の所有物とする意思が認められる。また、一時的とはいえ移動のために自転車を利用しており、その経済的用法に従い利用処分する意思も認められる。
(3) 以上から、甲には本件自転車に対する窃盗罪が認められる。
3 甲がCの顔面を数回殴り全治約1週間の傷害を負わせた行為につき傷害罪が成立する。
4 Cが全治約1か月間を要する肋骨骨折を負った行為につき、甲に傷害罪が成立しないか。
同傷害が、乙が加担する前に発生していれば、甲は単独犯として傷害罪の責任を負う。
また、同傷害がCの加担後に発生している場合でも、甲の、お前も一緒に痛めつけてくれとの申し出に対して、乙がわかった、やってやると言って応じていることから現場共謀が成立しており、それにより乙がCの腹部を足で数回蹴っており、共謀共同正犯が成立する。よって、甲にはいずれにせよCの肋骨骨折につき傷害罪が成立する。
以上から甲にはAに対する窃盗罪、Bに対する窃盗罪、Cに対する傷害罪が成立し、併合罪となる。
以上
コメント
85分くらいかかった。去年と違い致命的な論点落としはないと思うが…
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