令和6年予備論文 民法再現
第1 設問1(1)
1 CのDに対する所有権に基づく乙土地の明渡請求が認められるためには、①Cが乙土地の所有権を有していること、②その所有権をDに対抗できることが必要である。
2 BがAについて管轄の家庭裁判所に失踪の宣告をし、8月1日に失踪宣告がされており、これによりAは「危難が去ったとき」である令和3年4月1日に死亡したものとみなされる(民法31条)。そして、Aは「乙土地をCに相続させる」との遺言をしておりこの意味が問題となる。
遺言者の合理的意思の推定から、「相続させる」との意思表示は、遺産分割方法の指定であり、遺産分割を待たずに遺言者の死亡と同時に直ちに相続財産が「相続させる」と指定された相続人に帰属すると解する。本件ではAは乙土地をCに相続させると遺言しており、Aの死亡と同時に直ちに乙土地の所有権がCに帰属している。
よって、Cは本件土地の所有権を有している。
3 ではその所有権をDに対抗できるか。
この点につきDは、CはAの遺言により、乙土地につき自己の相続分を超えるBの持ち分を取得したにもかかわらず、当該部分について登記をしておらず(民法899条の2第1項)、少なくともその部分について所有権をDに対抗できないと反論することが考えられる。
しかし、Bは遺産分割協議書等の必要な書類を偽造して、乙土地について相続を原因とする自己への所有権移転登記手続きをしている。そして、Aの遺言によりCは乙土地の全部を相続しており、Bは乙土地につきCに対する関係では最初から無権利者である。そして登記に公信力がない以上DがBの所有権を信頼していても保護されない。よって、Dは乙土地につきBから所有権移転登記を得ていても、「第三者」(民法177条)にあたらない。よって、CはDに対して乙土地の所有権を対抗できる。
4 以上から、CのDに対する乙土地の明渡請求は認められる。
第2 設問1(2)
1 AのFに対する乙土地の明渡請求が認められるためには、①Aが乙土地の所有権を有すること、②その所有権をFに対抗できることが必要である。
2 Aについてなされた失踪宣告は令和5年6月24日以降に取り消されている。よって、乙土地の所有権はAに復帰しておりAは乙土地の所有権を有する。
3 では、この所有権をAはFに対して対抗できるか。
法32条2項は財産の返還義務につき善意と悪意を区別していないが、悪意者を保護する必要性はないことから、悪意の場合は現存利益に限らず、得た財産のすべてを返還する必要があると解する。そうすると、FはBからAの生存を伝えられており悪意であることから、乙土地を返還するべきとも思える。
しかしこれに対してFは、いったん善意者であるEが介在している以上、自分はその善意者の地位を承継しているし、もしFが乙土地を返還しなければならないとすると、FはEに契約不適合責任を追及することとなり、Eにとって酷な結果となるとして、土地の返還の必要がないと反論することが考えられる。
しかし悪意者同士が通謀し、間に善意者を介在させたような場合には、間の善意者の保護よりも失踪者の静的安全を保護するべきである。本件でもBはFにAの生存と財産の処分について相談しており、AとFが通謀してEを介在させているといえる。よってこのような場合にはFは善意者Eの地位を承継することはなく、悪意者として乙土地を返還しなければならないと解する。
4 以上から、AはFに対して乙土地の明渡を請求できる。
第3 設問2(1)
1 GのJに対する500万円の不当利得返還請求(民法703条)は認められるか。
2 JはGの誤振込により500万円の「利益」を得ている。またGはそれにより500万円の「損失」がある。では、「法律上の原因なく」と言えるか。
一般に銀行実務では、誤振込の振込依頼人からの申し出があれば、受取人への入金処理が完了している場合であっても、受取人の承諾を得て振込依頼前の状態に戻す組戻しという手続きが取られている。本件でもK銀行がJに組戻しの承諾を求めたがJは、Gから500万円を振り込まれる理由はすぐには思いあたらない、承諾をするかどうかは後日連絡すると述べたが、その後連絡を合っている。そうであればJにはGから振り込みを受ける理由はなかったと考えるべきであり、「法律上の原因」はなかったといえる。
3 以上から、GのJに対する500万円の不当利得返還請求権は認められる。
第4 設問2(2)
1 GのLに対する不当利得返還請求(民法703条)は認められるか。
2 Lの利得とGの損失との間には因果関係が認められるか
Jの口座はここ数年間残高0円であり、本件振込及びその払い戻しを除き入出金は行われていない。そうであればLに対する弁済の原資は、Gの誤振込による入金の500万円であると解され、Jの一般財産からの弁済ではない。よってLの利得とGの損失は社会通念上の因果関係があるといえる。
3 Lの利得は法律上の原因があるといえるか。
LはJから弁済を受ける際に、弁済金の出所をたずねたところ、Jは、自分の銀行口座に誤って振り込まれた金銭である旨説明しており、Lは弁済の原資が誤振込入金された金銭であることを知っていた。このような悪意の受領者は、債権の弁済の受領であっても、法律上の原因があるとは言えないと解する。
4 以上から、GのLに対する不当利得返還請求が認められる。
以上
コメント
問題文の長さに面食らったが、問われていること自体はマイナーではあるものの基本的なのかな、とも思う。1時間25分くらいかけてしまい、時間不足で全体的に(特に後半)三段論法がゆるゆるになっている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?