令和5年予備試験論文再現 刑事実務
第1 設問1
(1) Aが所持していたVのリュックの中に、NKドラッグストアの会員カードが入っていたが、本件事件記録の中には同カードの会員登録情報の捜査記録がなかった。そうすると、会員カードがVの物なのかの確認が取れず、被害品の中に含めてよいのかの判断が不可能となり、その後の公判の維持も不可能となることから、Kに再捜査させた。
(2)本件において、Vは取られた水色のリュックの中に現金22万9500円とNKドラッグストアの会員カード1枚が入った財布が入っていたと供述している。そしてKがAを発見した時Aは、Vの供述する被害品と全く同じものを所持していた。そして、犯行時刻(令和5年6月1日午前8時ごろ)とVが発見された時刻(同日午後1時20分頃)とは、時間にして5時間20分程度しか離れていない。また発見された場所も、犯行現場から約2キロしか離れていない。そうすると、犯行時刻・現場と時間的場所的に近接した時点で、Aは被害品を所持していたことになる。そしてこのような場合、被害品の所持者が他人から被害品を入手することは通常可能性が低いので、被害品を自身で盗取した可能性が高いと考えられる。よって、Aが被害品を所持していた事実が重要であると考えた。
しかし、被害品の所持者が、所持している合理的理由を説明できる場合は、盗取した可能性は低下する。Aは本件被害品の所持につき、午後1時ごろ、X駅前のバス乗り場ベンチ横のごみ箱に捨ててあったので拾ったと供述している。仮にほかに盗取者がいるとしても、とった財布の中身を抜き取らずに、そのままごみ箱に捨てることは通常考えられず、Aの供述は信用性が低いといえる。しかし、その可能性も全く否定することはできず、またAが、盗取した第三者から被害品を譲り受けた可能性等もありうるので、Aが被害品を所持するだけでは不十分であると考えた。
第2 設問2
(1) 甲が提案した勾留理由開示の手続きを採らなかった理由は、勾留理由開示(82条1項)は、裁判長が公開の法廷で、勾留の理由を告げるだけであり、Aを早期に身柄拘束から解放するためには直接的な手続きではないと考えたからである。
乙が提案した保釈の手続きを採らなかった理由は、「保釈については、この限りでない」(207条1項但し書)と規定しており、保釈が認められるのは被告人勾留のみであり、被疑者勾留においては,保釈は認められていないからである。
(2) 丙が提案した手続き(準抗告)を取った理由は、Aを勾留した裁判官の裁判は「勾留に関する裁判」(429条1項2号)にあたるので、この裁判を取り消すことができれば、Aの勾留は無効となり、Aの身柄の早期解放につながるからである。
第3 設問3
送致事実の強盗致傷罪は、AがVのリュックを窃取した後Vから逮捕されそうになったときに逮捕を免れるために暴行を加えていると解されることから、「窃盗が財物を得て、逮捕を免れ」るために暴行を加えているといえ(238条)、事後強盗致傷罪であると解される。そうすると、事後強盗罪も「強盗として論ずる」となっているので、その暴行脅迫は相手方の犯行を抑圧する程度のものでなければならないと解する。
本件では、AはVに対して「やめろ、離せ」と言って、左手で払い右手を勢いよく後ろに振っているが、これは反射的行為であるといえ、相手方の犯行を抑圧する程度の暴行とはいえない。また、AがVの方を向いて正面からVの胸の部分を両手で勢いよく押した行為も、その結果Vは後ろに倒れてしりもちをついただけであり、相手方の犯行を抑圧する程度の暴行があったとはいえない。
よって、事後強盗罪は成立しないため、Pは、本件公訴事実である窃盗罪と暴行罪で公訴提起をした。
第4 設問4
(1) 弁護人Bが「不同意」といったのは、検察官面前調書が伝聞証拠であり、証拠能力が認められないという趣旨であると解される(326条1項)。この場合、検察官は、本件調書は、321条1号2号に該当し、証拠能力が認められると主張することが考えられる。これが認められない場合は、Vの証人尋問を請求することが考えられる。
(2) 「本件後のVの左足首の状況」という立証趣旨は、意味をなさず、実質的にはVの被害状況を立証趣旨としていると解される。そうすると本件写真は、立証趣旨との関連性がないので「意義あり」と述べた。
以上