厚労省 vs 中医学医師:認定取り消しの波紋(令和6年2月27日東京地裁判決)
引用:医師国家試験予備試験受験資格認定処分取消 差止め等請求事件
「認定取り消し」の波紋:中医師Aさんの挑戦と司法判断
2024年1月、日本の医師国家試験受験資格をめぐり、一人の中国籍の医師が厚生労働省と対峙する事態が起きた。Aさんは中国で中医学を学び、日本で医師となるために数々の試練を乗り越えてきた。しかし、認定の取り消しという厚生労働省の決定がAさんの夢を一時的に閉ざすこととなる。この背景には何があったのだろうか。
医師国家試験受験資格認定の仕組み
海外の医学部を卒業した者が、日本の医師国家試験を受験するには、次の本試験認定か予備試験認定のいずれかの条件を満たす必要があります。
Aさんの歩み:日本で医師を目指して
Aさんの物語は2010年、中国の大学で中医学を学び始めた時に遡る。
2010年~2015年:中医学の正規課程を修了し、翌年には中医学に基づく国家医師資格試験に合格。中医師資格を取得。
2021年5月:日本で医師になる夢を抱き、医師国家試験の受験資格認定を申請。しかし、初回の申請では「不認定処分」を受ける。
2021年9月:再申請の末、予備試験受験資格を取得。
2023年11月:予備試験に合格(合格率10~20%の難関を突破)。翌年から病院での実地修練準備を開始する。
順風満帆に見えたAさんの挑戦。しかし、転機は突然訪れる。
突然の認定取り消し通告
2024年1月、厚生労働省医政局の担当者からAさんへ「2021年9月の予備試験受験資格認定に誤りがあったため、取り消す」との通告がなされた。これにより、予備試験合格は無効となり、医師国家試験を受験する資格も失われる恐れがあった。
Aさんは司法に救済を求め、裁判で次のように主張した。
認定取り消しは憲法22条で保障された職業選択の自由を侵害する。
日本で医師になるにはもう一度医学部に入り直す必要があり、時間的・経済的損失が大きい。
取消しにより発生する損害は金銭賠償では回復不能である。
一方、厚生労働省は次のように反論した。
Aさんの卒業したA大学は中医学を教える学校であり、日本の医師法で求める「外国医学校卒業者」に該当しない。
中医師資格は医師国家試験の受験資格として適さないため、認定取り消しは妥当である。
司法の判断:Aさんに寄り添う結論
裁判所は、Aさんのケースについて次のように判断した。
認定取消しの差し止め
Aさんが通っていたA大学では近代西洋医学の科目も履修可能であり、Aさんは十分な西洋医学教育を受けている。
取消しによりAさんが医師国家試験受験資格を失うことは重大な損害をもたらし、職業選択の自由を侵害する。
→認定取り消しを差し止める決定を下す。
実地修練妨害の差し止め
厚生労働省が病院に働きかけてAさんの実地修練を妨害しているとの訴えについては、「法律上の処分」には該当しないとして却下。
公共の福祉への影響
実地修練は指導医の監督下で行われ、医療事故のリスクは低い。
Aさんは予備試験に合格しており、必要な医学知識・技能を有している。→公共の福祉に重大な影響を及ぼすとはいえない。
厚生労働省の基準と今後への課題
Aさんのケースを受け、厚生労働省は中医学資格者を医師法上の「外国医学校卒業者」に該当しないとする基準を明確化。しかし、その影響は今後も議論の対象となるだろう。中医学資格者が日本の医療界でどのような役割を果たせるのか、その適性をどう評価するのかが問われている。