令和6年司法試験 商法 再現答案
第1 設問1
1 小問1
(1)会社法には株主の行為の差止めを求めることができる明文の規定はなく、また、違法行為の差止めを認めた規定も「取締役」の違法行為の差止めを認めるものにすぎないから385条を直接適用することもできない。
(2)そこで、385条を類推適用することはできないか。
385条の趣旨は、取締役が違法行為をすれば取締役に会社経営が任されている株式会社は重大な損害を被るおそれがあることから、取締役の違法行為を事前に防ぐことで会社利益を守る点にある。株主は株主総会の招集を請求することができ(297条1項)、297条4項各号の要件のいずれかを満たせば当該株主は裁判所の許可を得て株主総会を招集することができる(297条4項)。当該株主は株主総会招集の通知を発したり、株主総会の議事進行を務めたり、株主総会に必要な負担は株主が支出するなど、株主総会の招集に関しては取締役と同様の権限を持ち取締役と同様の職務を遂行するのであって取締役と同視することができる。そうだとすれば、株主総会の招集に際して招集株主の不適法な行為があれば会社が重大な損害を被るおそれがありそれを事前に防止する必要性が高いという点で類推の基礎がある。したがって、385条類推適用を認めるべきである。
(3)よって、弁護士としては明文規定はないものの385条類推適用により臨時株主総会の開催をやめるよう求めることができる可能性があると回答すべきである。
2 設問2
(1) まず、「株主」Eは株主総会決議取消しの訴えを提起しているが、令和3年11月15日時点では、株主総会決議があった令和3年10月20日から「三箇月以内」の要件を満たす。株主総会決議の取消の訴えにおいて、Eは①本件決議に際してされた商品券の交付が利益供与にあたり決議の方法が法令違反にあたる、②商品券付与の勧誘とともに行った招集手続が著しく不公正である、③本件決議は特別利害関係株主の権利行使により著しく不公正であるという取消し事由が存在すると主張する。
(2) ①
ア 1000円相当の商品券は乙社提案の各議案のいずれにも賛成した者に対して賛成した場合に交付されることになっているから、議決権という「株主の権利の行使」に際して「供与」されている。
イ もっとも、利益許与は株式会社またはその子会社の計算においてするものに限られる。利益供与は会社法上厳しく禁じられている(120条1項)。かかる趣旨は、適正な会社運営を図り会社の利益を保護する点にある。確かに、乙社は甲社に代わって株主総会を開催しているが、乙社は一株主にすぎず、保有株式も100万株と発行済み株式総数の1/5にとどまり乙と甲を一体としてみることはできない。仮に甲と乙を一体としてみるとしても、乙社は甲社とは別個の法人格を持つ法人であり、商品券の取得や送付に要した費用についてはすべて乙社が負担している。そうすると商品券の取得及び送付に関しては乙社の経済的負担のもとに行われたものにすぎず、当該株式会社及びその子会社の計算において行われたということはできない。
ウ したがって、取消し事由とはならない。
(3) ②
ア 乙社は本件臨時株主総会1の招集に際して、招集通知とともに本件書面を同封しているが、かかる書面の内容は乙社提案の議案に賛成した者に対して商品券1000円分を交付するというものである。後述するように本件臨時株主総会1では乙社の商品券が乙社提案議案に賛成するイニシアチブとなっていることが考えられ、提案された議題の中身にかかわらず乙社の提案に賛成することで1000円の商品券を得ようとするものが多かったと考えられる。そうだとすればたとえ商品券が乙社の計算において交付されたものであるとしても議決権の行使に影響を与え、会社の適正な運用を阻害するおそれがあるといえるから、「招集の手続」が「著しく不公正」であるといえる。
イ かかる瑕疵は議決権という会社の本質的要素に影響を与え、決議の適正を阻害するものであるから「重大ではない」とはいえず裁量棄却はない(831条2項)。
(4) ③
ア 特別利害関係株主とは、他の株主と共通しない利害関係を持つものをいう。本問では乙社提案の各議案のいずれにも賛成した株主は1000円分の商品券という利益を取得することができる。他方で乙社提案の各議案のいずれにも賛成しなかったものは1000円分の商品券を取得することはできないのであるから、乙社提案の各議案のいずれにも賛成した株主は他の株主とは共通しない利害関係を持つといえる。
イ 本件臨時株主総会1において乙社提案の各議題は出席株主の約75パーセントの賛成により可決している。本件臨時株主総会1においては出席した株主の議決権の数は例年の定時株主総会よりも30パーセント増加し、行使された議決権のうち議案に賛成した者の割合も例年の甲社が提案した議案に賛成したものの割合より高いものであった。甲社の提案でなく乙社提案の議題がいずれも75%という高い割合の支持を集め、例年より30%も議決権が増加すべき事情は他にないことからすると、仮に商品券の交付を約束する本件書面が交付されていなければ乙社の提案が可決されていなかった可能性があるから、決議が「著しく不公正」であるといえる。
ウ したがって、831条1項3号の取消事由が認められる。
(5)よって、取消事由として主張されるもののうち、②、③については取消事由にあたりEの主張は認められる。
第2 設問2
1 問題文13の時点ではすでに本件株式併合の効力が発生(182条)しており、株式併合差止の訴え(182条の3)によることはできない。そうすると無効の訴えを提起することが考えられるが、株式の発行等に関するとは異なり、株式の併合の無効を求める訴えの明文規定はない。そこで、株主総会決議取消の訴えとそれを本案として株式併合が無効であることの確認求める訴えを提起することが考えられる。
2 以下のとおり本件決議2は特別利害関係人の議決権行使により著しく不公正(831条1項3号)なものといえるか。本件決議2当時の株主は丙、A、B、Cであるところ、A、B、Cは甲社の取締役である。本件臨時株主総会2の目的は本件株式併合及びその後行われる株式分割という一連の手続により丙を締め出すことにある。Aらにとっては丙とは共通しない自己の取締役としての利害関係を有しているから、A、B、Cは特別利害関係株主にあたる。株式会社の本質は株主が取締役を選ぶ点にあるところ、これらの一連の手続は取締役が株主を選ぶことを意味している。そして、本件臨時株主総会2は丙以外の株主の賛成により可決されているが、取締役であるA、B、Cの賛成により賛成400反対200となっているから、Aらの賛成がなければこれとは異なる決議になっていたといえる。したがって、「著しく不公正」といえる。
#司法試験 #再現答案 #論文試験 #商法