令和6年司法試験 倒産法 再現答案

第1問

第1 設問1

1 「破産管財人」Dは、「裁判所」に対して「役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判」の「申立て」をすることが考えられる(破産法(以下略。)178条1項)。

会社が危機状態に陥るのは、会社の役員の放漫経営が原因であることが多く、責任財産を充実させるために、その原因となった役員に対し損害賠償請求をすることが必要である。178条1項の趣旨は、役員に対する損害賠償請求権を「決定」という簡易・迅速な手続で取得し、破産財団の確保を図る点にある。

(1) 破産者は、A株式会社という「法人」であり、令和5年8月末日に「破産手続開始の決定」があった。

(2) Bは子供服の販売を業とするA社の代表取締役でありながら、個人で飲食店を経営するBの弟に対し独断で1000万円という多額の金銭を貸し付けており、「目的の範囲外」(民法34条)の行為を行っているという法令違反がある。また、仮に目的の範囲内の行為といえたとしても、1000万円という多額の金銭を資金繰りに窮している飲食店に担保も取らずに独断で貸し付けを行うことは取締役としての善管注意義務違反がある。その後Bの弟は飲食店を閉店しA社からの借入金を返済することが見込めない状況になっており1000万円の損害が生じているから、A社はBに対して会社法423条1項に基づき1000万円の損害賠償請求権を取得する。

2 役員に対する損害賠償請求権を取得したとしても、役員から債権を回収できなければ破産財団の拡充にはつながらない。177条1項の趣旨は、危機時期には役員が財産の隠匿や費消などにより損害賠償請求権が画に描いた餅となることが多いことから、役員の財産に保全処分をすることを認めることで破産財団の拡充を実効化する点にある。そこで、「破産管財人」Dは、役員の財産に対する保全処分の申立て(177条1項)を行うことが考えられる。

(1)前述のように「法人である債務者」について「破産手続開始の決定」があった。

(2)DはBがA社からの役員報酬の振込先としてE銀行の預金口座を指定していることを把握しているから、178条1項に基づく損害賠償請求権を被保全債権として、AのEに対する預金債権を仮差押えするという「保全処分」をすることを「裁判所」に対し「申立て」るべきである。

第2 設問2 

1 破産管財人

(1)破産管財人は、破産手続の開始決定により破産財団に属する財産の管理処分権を取得する(78条1項)。もっとも、当該財産について最も情報を知っているのは破産者本人である。そこで破産法は破産管財人の財産の管理処分業務が円滑に遂行できるよう、破産者に対して協力義務を課している。破産管財人は、破産者に対して必要な説明を求め、破産財団に関する帳簿、書類、その他の物件を検査することができる(83条1項)。これに対応する形で破産者は、破産管財人から請求があったときは必要な説明をするという説明義務(40条1項)が課せられており、破産手続開始後遅滞なく不動産、現金、預貯金などの重要財産を記載した書面を裁判所に提出する義務を負っている(41条1項)。

(2)また、本問ではBが財産を隠匿し、多額の遊興費を支出しているとの情報があり、場合によっては否認権の対象となる行為が行われている可能性がある。そこで破産管財人としては、否認権行使のための保全処分の申立てをするという手続を行うことができる(171条)。

2 裁判所

裁判所は破産管財人の監督義務を負っており(75条1項)、破産管財人の職務が適正かどうかを監視監督する。また、破産者に対して、不動産、預貯金などの重要財産を記載した書面の提出を促すなどすることができる。

第3 設問3

1 事業譲渡①

(1)事業譲渡①を161条により否認することができるか。

(2)ア 本件事業譲渡の代金は1店舗当たり1000万円の事業価値を有する4店舗を4000万円で売却するものであるから、「相当の対価を取得」(161条1項柱書)しているといえる。

イ 事業とは一定の事業目的のため組織化された有機的一体として機能する財産であって、事業全体でその価値を十分に発揮するものであるから、不動産のような財産に近いものといえる。事業譲渡により4事業を失い、これに対して4000万円の金銭を取得する。そして金銭は容易に隠匿しやすい性質を持つことからすると、「その他の当該処分による財産の種類の変更により…破産債権者を害することとなる処分をするおそれを現に生じさせる」(同項1号)といえる。

ウ 令和5年3月末日に事業譲渡を行い、同日に借り入れた5000万円の弁済にあてている以上、「破産者」が「行為の当時」に「隠匿等の処分をする意思を有していた」といえる(同項2号)。

エ 行為の「相手方」であるE社の代表取締役はBであり、BはA社の代表取締役も兼任しているから、破産者が隠匿等の処分をする意思を有していることを「知っていた」といえる(同項3号)。

(3)よって、事業譲渡①は161条により否認することができる。

2 事業譲渡②

(1)事業譲渡②を161条により否認することができるか。

ア 事業譲渡②も事業譲渡代金は1000万円であるものの、相当の価格である4000万円から債務引受3000万円を控除した額で計算されているから「相当の対価を取得」したといえる。

イ 前述のように事業譲渡は事業を金銭に換えるものであるから、隠匿等の処分のおそれを現に生じさせるといえる。

ウ もっとも、破産者Aには隠匿等の処分をする意思はない。

エ さらにAはGに対してAが債務超過の状態にあり資金繰りに窮していること及び他の店舗は閉店して事業停止することを説明していた。もっとも、隠匿等の処分をする意思があることまで知っていたわけではないから、悪意の要件を満たさない。

オ よって、161条により否認することはできない。

(2)本問では、債務引受をするのと引き換えに事業譲渡がされているから、同時交換的行為といえる。そうすると、「既存の債務」には当たらないから162条により否認することはできないが、160条により否認することができないか。

ア 債務引受けにより引き受けられる3000万円を控除したうえで代金額が1000万円と定められているものの、債務引受けにより直ちに3000万円の債務がなくなるわけではないから、財産を減少させる行為であり、「破産債権者を害する」行為であるといえる。

イ 破産者Aは当然に破産債権者を害することを知っていたといえる(160条1項1号本文)。

ウAはGに対してAが債務超過の状態にあり資金繰りに窮していること及び他の店舗は閉店して事業停止することを説明していたから、利益を受けた者が破産債権者を害する行為であることについて悪意であったといえる(160条1項1号ただし書)。

エ したがって、160条により否認することができる。

第2問

第1 設問1

1 小問(1)

(1)民事再生法においては、再生計画案の可決要件は民事再生法(以下略。)172条の3に規定されている。その要件は①議決権者の過半数の同意(172条の3第1項1号)と、②議決権者の議決権の総額の1/2以上の議決権を有する者の同意(同項2号)の2つである。

(2)1号はいわゆる頭数要件である。2号要件だけでは、少額の再生債権者にとって不利な再生計画が成立する可能性が高いため、少額再生債権者の権利を強化し少額再生債権者の保護を図る点に1号が置かれた趣旨がある。

(3)2号については、再生計画が成立すると債権が一定の割合で免除され再生債権者に重大な影響を与えること、また再生債務者が自ら再生を行うことが多く再生債務者に事業再生を任してよいのかを判断させるために、最低限議決権の総額の1/2以上の同意を必要とする点に2号要件が置かれた趣旨がある。

2 小問(2)

ア Bは①売掛金500万円、②再生手続開始の前日までの遅延損害金、③②以降の年14.6%の遅延損害金を再生債権として届け出ている。再生債権者の議決権額については、87条1項に規定されている。

イ まず、①の債権は、「再生債務者」Aに対し、「再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」にあたり「再生債権」(84条1項)といえる。①の売掛金債権は87条1項1号から3号までのいずれにも当たらないから、「前三号に掲げる債権以外の債権」にあたり「債権額」である500万円が議決権額となる。

ウ 次に②の遅延損害金も再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であり、87条4号の債権にあたるから「債権額」である10万円が議決権額となる。

エ ③の債権は履行遅滞に基づく損害賠償請求権であり、「再生手続開始後の不履行による損害賠償の請求権」(84条2項2号)にあたるから、再生債権(84条2項)といえる。③の債権については、「第八十四条第二項に掲げる請求権」(87条2項)にあたるから、「議決権を有しない」。

オ ゆえに、①と②の再生債権については議決権が認められ、その議決権額は510万円となる。

3 小問(3)

(1)200万ユーロの売掛金についても再生債権にあたる(84条1項)。

(2)かかる売掛金債権は、「金銭債権」で、「その額を外国の通貨」であるユーロで「定めた」もの(87条1項3号ニ)であるから、「再生手続開始の時における評価額」である1ユーロ140円を基準に算定すると、2億8000万円となる。

(3)よって、Cの届け出債権の議決権額は2億8000万円と定められる。

4 小問(4)

(1)800人のうち799人の債権については、「再生債務者」Aが「届出がされていない再生債権があることを知って」、当該債権について「自認する内容…を認否書に記載」(101条3項)しているから、調査(102条1項)、確定(104条1項)により権利変更の対象となる(157条1項本文)。ただし、再生計画において議決権を行使することはできない(170条2項参照)。再生計画の認可が確定すると、債権は再生計画の定めに従い変更されて弁済を受ける(179条)。

(2)ア Dの債権については、届出がなくAにより認否書に記載されているわけでもないから債権調査及び確定の対象とならず、議決権もない。そうすると再生債権であるDの債権は原則として免責される(178条1項)。届出のない再生債権については181条が規定しているところ、181条1項3号の再生債権にあたれば免責の対象外となる。ではDの債権が「再生債務者が記載をしなかった」といえるのか、「知っていた」(101条3項)の意義が問題となる。101条3項の趣旨は、再生債権があることを知りながら自認せず免責の対象とすることは信義に反し当事者間の公平を害することからかかる不誠実な債務者の行為を防止して再生債権者を保護する点にある。そうだとすれば実質的に知っていたといえる場合には、「知っていた」というべきである。本問でDが顧客リストから漏れたのは、Aの転記ミスという専らAの過失に基づくものであり、Dには何の責めに帰すべき事情もない。にもかかわらず800人の債権者のうち799人については認めるのにDだけ免責するというのは債権者間の公平を著しく害し不当にDを不利な地位に置くものであって当事者間の公平にも反する。したがって、Aは「知っていた」といえ、免責の対象とはならない。

イもっとも、「前項第三号の規定により変更された権利」にあたる以上、再生計画で定められた弁済期間が満了するまでの間は弁済をすることができない(181条2項)。

第2 設問2

1 小問(1)

(1)EはA社の再生手続において、同違約金請求権1200万円を再生債権として届け出ているが、「再生債権の調査」において「再生債権の内容について」「再生債務者が認めない」と認否書に記載しているから、「異議のある再生債権を有する再生債権者」であるEは再生債務者Aを「相手方」として、「裁判所」に対し「再生債権の査定の申立て」(105条1項)の手続きを採る必要がある。

(2)かかる申立てがあると、裁判所が異議のある再生債権についての債権の存否及び内容を定める(105条4項)が、これに対して「不服がある者」は、送達を受けた日から一月の普遍期間内に、「異議の訴え」を提起する必要がある。

2 小問(2)

(1)Eとしては、AがEに対し本件売買契約を即時解除する旨の通知をした(49条1項)ところ、EA間の本件違約金条項に該当するものである以上1200万円の違約金請求権が発生していると主張する。これに対してA社としては、かかる違約金条項は本問においては無効であると主張する。

(2)本問では、Eの生産する有機野菜は容易に他の取引先に販売することができるものであり、本件売買契約が即時解除されてもEには損害が発生しない見込みである。そうすると、Eに何ら損害がないのにEの債権を認めると、Eに実質的に優先弁済を行う結果になり、他の再生債権者を害することになる。そうすると、民事再生法の再生債務者の経済的再起再生とそう債権者間の平等という趣旨(1条)に反する結果となるから、Eの主張は権利濫用であり認められない。

(3)よって、A社の再生手続においてEの違約金請求権は認められない。

#司法試験 #再現答案 #論文試験 #倒産法

いいなと思ったら応援しよう!