令和6年司法試験 民事訴訟法 再現答案

第1       設問1
1 課題1
(1) 任意的訴訟担当とは、本来訴訟の当事者でない者が、訴訟担当として訴訟の当事者として訴訟を追行することをいう。訴訟担当には法定訴訟担当と任意的訴訟担当が相、前者は法律の規定により訴訟追行権が授権されるのに対し、任意的訴訟担当は当事者の意思に基づく授権により訴訟追行権が授与されるという点に違いがある。
(2) 任意的訴訟担当を認めることで、大人数の訴訟においては全員が訴訟の当事者となり訴訟の複雑化や遅延を避けることができるというメリットがある。また、固有必要的共同訴訟に関しては全員が当事者とならなければ当事者適格を欠くものとして訴えが却下されることになるが、新たな加入者等が加わった場合でもその団体の入会の際に目次の授権の意思表示があったとみることにより訴訟が不適法却下されることを防ぐことができる。他方、明文がない任意的訴訟担当については無制限に認めると、真摯な訴訟追行がされない可能性もあり当事者の利益を害するおそれがある。現行民事訴訟法は弁護士代理の原則を規定し(54条1項本文)、簡易裁判所における事件の場合においてのみ例外的に弁護士以外の訴訟追行を許している(54条1項本文ただし書)こともそのあらわれであると解される。そこで、任意的訴訟担当が認められるためには、①弁護士代理の原則(民訴法54条1項本文)や訴訟信託の禁止の制限を回避・潜脱するおそれがなく、②任意的訴訟担当を認めるべき合理的必要性が認められる場合にのみ許されると解すべきである。また、任意的訴訟担当という性質上、③本来の当事者からの授権が必要である。
2 課題2
(1) 以下の通り、本問では明文なき任意的訴訟担当が認められる。
(2) 最判昭和45年11月11日判決(以下「昭和45年判決」とする。)において明文
なき任意的訴訟担当が認められたのは、組合の代表者に真摯な訴訟追行をすることが期待できるため弁護士代理の原則、訴訟信託の禁止の制限を回避潜脱するおそれがなく、組合員の人数が多く代表者による訴訟追行をさせる必要性があったこと、そして組合に加入するときの規約により黙示的に訴訟の追行の授権があったとみることができるからである。本問ではXらは共有者であり、単独の訴えにより勝訴判決を得ることができる事案であるという点で事案に差異がある。もっとも、Xらの間では、本件契約の更新、賃料の徴収及び受領、本件建物の明け渡しに関する訴訟上あるいは訴訟外の業務についてはX1が自己の名で行うことが取り決められているだけでなく、X2、X3はX1が代表してYに対して訴訟を提起することを望んでおりその意向をX1に伝えていることから、授権があったとみることができる(③充足)。X1はX2、X3と本件建物を共有しており、X1は敗訴すれば自己にとっても不利益を被ることになる以上真摯な訴訟追行が期待でき、X2、X3がX1を訴訟上の業務を行うことを合意していることからもやはり真摯な訴訟追行が期待できるといえ、弁護士代理の原則や訴訟信託の禁止の制限を回避・潜脱するおそれはない(①充足)。最後に必要性についてみると、判例の事案とは異なり共有者が3人だけであることから、訴訟担当を認める合理的必要性はないとも思われる。確かに本問ではX2、X3はそれぞれ単独で明渡請求をすることができるが、Xらが全員当事者として訴訟に関与することが紛争の抜本的解決を図り訴訟経済に資するものとなるから合理的必要性も認められる(②充足)。
(3) 以上のように、①から③までの要件を充足するため、本問においても任意的訴訟担当は認められる。
第2       設問2
1 裁判上の自白の意義及び要件
裁判上の自白(179条)とは、①口頭弁論または弁論準備手続における、②相手方の主張と一致する③自己に不利益な④事実を⑤認めるという当事者の弁論としての陳述をいう。相手方に立証責任がある事項について自白すると相手方は立証の必要がなくなり、立証責任を軽減させるという意味で自己にとって不利益ということができるから、自己に不利益というのは相手方が立証責任を負うことをいう。また、当事者の攻撃防御は主要事実に集中することから、事実とは主要事実に限られる。裁判上の自白が成立すると、179条により不要証効が発生する。弁論主義第2テーゼにより当事者に争いのない事実は裁判所はそのまま判決の基礎としなければならないから、裁判所は自白と異なる心証を持ったとしても当事者の自白に拘束される。裁判所が異なる判断をすることがない以上、当事者は自分に不利な状態になることはないと信頼するのは通常でかかる信頼は保護に値するものであるから当事者も拘束する。
2 本件陳述について
(1)本件陳述については以下の通り自白に当たるが例外的に自白の撤回が許される。
ア 本件陳述は第1回弁論準備手続においてされたもので、①、⑤の要件は満たす。
イ 本件訴訟の訴訟物は賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権としての建物明渡請求権であり、請求原因としての要件事実はⅰ賃貸借契約の締結、ⅱⅰに基づく引き渡し、ⅲ賃貸借契約の終了原因事実であり、賃料不払いによる無催告解除も用法遵守義務違反も終了原因事実を構成する事実であるから、本件陳述は主要事実にあたり、③の要件を満たす。そして、請求原因事実については原告に立証責任があるから④の要件も満たす。
ウ 本問では、Yが先に不利益陳述をしているから先行自白に当たるが、選考自白は相手方がこれを援用すれば通常の自白と同様に扱われることになる。本問ではYが本件陳述を行い、これをXが援用していることから②の要件を満たす。
エ したがって、本件陳述は裁判上の自白に当たる。
(2) 本件陳述が裁判上の自白に当たるとしても、自白の撤回が許される。
ア 判例においては自白の撤回が許されるのは、相手方の同意がある場合と、相手方の刑事上罰すべき行為により自白がされた場合と、反真実かつ錯誤の場合に限られているところ、本問ではいずれも認められない。もっとも、そもそも自白の撤回が制限される趣旨は、撤回を認めることが信義則に反するもので当事者に不利益をもたらすことからこれを認めない点にある。そうだとすれば、当事者に保護すべき信頼がなく、自白の撤回を認めても信義則に反しない特段の事情がある場合には自白の撤回を例外的に認めるべきである。
イ 本件陳述がされた場面は賃料不払いによる無催告解除の可否に関して当事者間の信頼関係の破壊を基礎づける事実関係の存否につき、当事者双方が口頭で自由に議論しその結果を踏まえて具体的な争点を決めるという場面であり、Xが請求原因で主張し、または既に争点として確定したようなものではない。もともとXは賃料不払い以外の請求原因は主張しておらずXに保護すべき信頼はない。むしろ自白の撤回を認めなければ当事者が意図せず自己の主張が不利に扱われることをおそれ、訴訟の進行が妨げられる可能性がある。本問ではあくまでも賃料不払いの支払いを示す書証が提出されていなかったころから「賃料不払いによる無催告解除の可否」に関する「信頼関係破壊を基礎づける事実」につき議論するもので信頼の対象もその範囲に限られるべきであるから、やはりXに保護すべき信頼はないといえる。
ウ したがって、自白の撤回を認めても信義則に反しない特段の事情があるといえる。
(3)以上より、本件陳述は裁判上の自白が成立するが、撤回をすることが許される。
第3 設問3
1 既判力は、前訴確定判決の後訴裁判所に対する通用力をいう。既判力により基準時である口頭弁論終結時より前の事情で、前訴訴訟物についての裁判所の判断と矛盾するものについては遮断される。既判力は訴訟物が同一、矛盾、先決関係にある場合に作用する。前訴の訴訟物は賃貸借契約の終了を原因とする目的物返還請求権としての建物明渡請求権であるところ、後訴も同様であるから訴訟物が同一であるといえる。本件セミナーの開催の事実は前訴口頭弁論終結時より前の事実であり、かかる事実が前訴の段階で判明していれば用法順守義務違反を原因とした解除が認められ、Xらの明渡請求が認容されたはずであるから、基準時前の事情で前訴裁判所の判断と矛盾する事情といえ、既判力により遮断されるのが原則である。
2 ここで、既判力により基準時前の主張が遮断される根拠は、手続保障による自己責任と紛争の一回的解決にある。そうだとすれば、手続保障がなかった場合には自己責任を問うことは妥当ではなく、信義則(2条)により既判力による遮断効を否定すべきである。もっとも、安易に信義則の適用を認めれば既判力の趣旨を没却することになりかねないため、信義則の適用の可否は厳格な基準で判断すべきである。具体的には①前訴で同一の主張をすることができたか、②後訴が前訴の実質的な蒸し返しといえるか、③相手方を不当に不利な立場に置くかなどの事情を総合的に考慮して判断すべきである。
3 遮断を肯定する立場からは、本件セミナーは、本件建物において月1,2回行われており、その頻度や人数から本件セミナーの存在を知ることができたのであり前訴での主張可能性が認められ、本件セミナー開催の事実が遮断されなければ結論が真逆になりYは不当に不利な立場に置かれるため、信義則の主張は認められず既判力による遮断が原則通り認められると主張する。しかし、本件建物は居住用建物として使用し他目的使用はしないことをその内容とする賃貸借契約の目的物であって、使用が始まればもはや個人の要塞としての性格が強く、建物の中で何が行われているかを賃貸人が知ることは著しく困難である。実際にXらが知ったのは基準事後であったから用法順守義務違反を前訴で主張することは困難であった(①)。また、前訴の争点は賃料不払いによる解除の可否であって、それ以外の賃貸借契約の終了原因はXらから主張されていなかったのであるから、前訴の実質的な蒸し返しということはできない(②)。他方本件セミナーは月1、2回の頻度で令和3年1月から令和5年1月までという2年にもわたっていて悪質であり、Xらを保護すべき必要性が高く、Yはかかる違反行為を自ら行っている以上Xらがこれを知れば用法順守義務違反を理由とする解除を主張することは当然に予測できたのであり、Yを不当に不利な立場に立たせるものとはいえない(③)。
4 以上より、本件判決の既判力によって解除権行使の主張を遮断することが相当ではない。
 
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