令和2年民事実務基礎設問3 イラスト解説
まずは出題趣旨をみてみましょう。
双方の主張の整理
双方の主張を整理してみました。
要件事実は簡略化して表記しています。
考えられる主張
小問(1)【再々抗弁として主張できる】
令和4年12月1日の一部弁済が、時効の更新にあたる。
そのため、被担保債権は消滅していない。
→再々抗弁として機能。
小問(2)【主張自体失当】
令和7年12月25日の一部弁済は、時効援用権の喪失(又は時効の利益の放棄)にあたるため、被担保債権は消滅していない。
イラストにするとこのような感じですね。
なぜ、前者が再々抗弁として機能するのか。
Xは不本意にも物上保証人の立場に立たされています。
ここから先の話を理解するためには、「Bは債務者、Yは債権者兼抵当権者、Xは物上保証人である」ということを理解しなければなりません。
そして、こちらの判例の知識も必要となります。
この判例の考え方を本問にあてはめると、どうなりますか?
物上保証人Xが、
債務者Bの承認により被担保債権について生じた消滅時効更新の効力を否定することは、
許されない。
となりますね。
つまり、Xは「被担保債権が消滅しているから抵当権設定登記を抹消しろ」とは言えなくなってしまうわけです。
ちなみに、債務者がした承認により、被担保債権の消滅時効が更新してしまった場合、保証人にも効力が生じます(457条1項)。
本問とは関係はありませんが、あわせて覚えておくと便利です。
後者はなぜ主張自体失当なのか。
そもそも、債務者Bが債権者Yに対し、令和7年に一部弁済をしたことは、どのような意味を持つのでしょうか。
債務者Bが時効援用権を喪失したということになるのでしょうか。
それとも債務者Bが時効の利益の放棄(146条)をしたということになるのでしょうか。
判例をみていきましょう。
これらの判例を読む限り、このように理解してよさそうです。
債務者Bが時効完成を知ったうえで一部弁済→時効の利益の放棄
債務者Bが時効完成を知らず一部弁済→時効援用権の喪失
問題文の記載からは、どちらのケースにあたるのかが読み取れないように思います。
完全に私見ですが、どちらで書いても間違いとはいえないように思います。
ただ、出題趣旨には「時効援用権の喪失に関する判例の理解を踏まえ」と書かれているので、時効援用権の喪失として書くほうが無難であるようにも感じます。
いずれにせよ結論は同じです。
債務者Bは債権者Yに対し「被担保債権が時効消滅した」とは言えなくなります。
では、物上保証人Xのとの関係ではどうなるのでしょうか。
時効の利益の放棄であると考える場合
下記のとおり、時効利益の放棄(146条)の場合、相対的効力を有するにすぎないと考えられています。
記
そのため、物上保証人Xは、債権者Bに対し、被担保債権の消滅時効を援用することができます。
つまり、抵当権者Bは、物上保証人Xに対して、「被担保債権は消滅していないから抵当権設定登記を抹消しないぞ!」とはいえないということです。
時効援用権の喪失と考える場合
先程ご紹介した昭和41判例は、「信義則により」債務者は消滅時効の援用をすることは許されないと判示しました。
信義則を理由にするのであれば、その効力は相対的であるはずです。
そのため、物上保証人Xは、債権者Bに対し、被担保債権の消滅時効を援用することができると考えます。
つまり、抵当権者Bは、物上保証人Xに対して、「被担保債権は時効消滅していないから、抵当権設定登記を抹消しない」とはいえないということです。
結論
いずれにせよ、令和7年に一部弁済をしたとの主張は、Xに主張できるものではありませんので、主張自体失当となります。
以上