ヘンゼルとグレーテル
ある森に、木こりとその家族が暮らしていました。木こりであるお父さんと、お兄さんのヘンゼル、 妹のグレーテル、そして再婚した継母の 4 人です。 家は貧しく、毎日の食べるものにも困っていました。そんなある夜、お父さんと継母は、こっそり 話をしています。どうやら、口減らしの為に幼い兄妹を森に捨てようという計画のようです。 その二人の会話をこっそり聞いていたヘンゼルは、あわててグレーテルに言いました。
『グレーテル、なるべくたくさんの光る石を集めてくるんだ!だれにも見つかっちゃいけないよ。』 次の日、ヘンゼルとグレーテルは本当に森へと捨てられてしまいました。 泣き出しそうなグレーテル。ヘンゼルは慰めるように言いました。
「大丈夫だよ、グレーテル。来た道に光る石を落としておいたんだ。後を辿れば家に帰れるさ。」 グレーテルはそれを聞くと安心して泣き止み、こう言いました。
「ヘンゼルと一緒ならきっと大丈夫だわ。たとえどんなに深い森の奥でも、 たとえどんなに深い海の底でも・・・。」
→『深海クジラ』
光る石を頼りに無事、家へと帰ることができたヘンゼルとグレーテル。 しかし安心できたのは束の間で、また二人は森へと捨てられてしまうことになりました。 今度は、すぐに森に捨てられてしまったので石を集める時間はありません。 ヘンゼルは石の代わりに、キッチンからこっそりもってきたパンを 道すがら少しずつ落とすしかありませんでした。
森の中腹でお父さんの姿が見えなくなってしまった時、いざ帰ろうと振り返ると、パンは一欠片も 残っていません。森に住む小鳥たちがすべて食べてしまっていたのです。 道標を失った二人は、森の中をただただ歩き続けました。 大きな森にふたりぽっち。小さな兄妹は声を掛け合いながら道を進みます。
「遠くに声は聞こえるのにな。」とヘンゼル。 「まだ誰も見つけてくれないね。」とグレーテル。
あくる日もあくる日も歩きつづけ、二人はやっとのことで一軒の家を見つけました。 不思議なことにその家は、扉がクッキー、屋根がチョコレート、窓がアメ細工で、 どこもかしこもお菓子でできていました。ヘンゼルは言います。
「さあ、こんな甘い匂いがするんだ。きっとここにはやさしい人が住んでいるに違いない。 森のかくれんぼうもこれでおしまいさ」
→『もりのかくれんぼう』
二人がお菓子の家の扉を叩くと、中から一人の優しい顔のおばあさんが現れました。 「あらまあ、こんなに疲れた顔で。さあさあお入りなさい。
あたたかい食べ物とあたたかいベッドがありますよ」 疲れ果てていた二人は、喜んで家の中へ入り、ごちそうをお腹いっぱい食べたあと、 すぐにベッドで眠ってしまいました。
「やっと眠ったかい」 おばあさんは子供たちの寝顔を見ると、悪い顔へと変わり呟きます。
「どっちの子から食べてやろうかねえ」 なんとこのおばあさん、人食い魔女だったのです。 夜が更ける頃、魔女はヘンゼルを大きな鳥かごに放り込みました。
「お前は、まるまると太らしてから食べてやるからね。」 言い放った魔女は笑みを浮かべ闇へと消えていきます。 ヘンゼルは鳥かごの中で神様に祈りました。
「神様...どうかふたりでこの家から無事に出ることができますように。 もしそれが叶わないのなら、せめて...グレーテルだけでもお救いください。」
→『想像力は僕を殺して君を救う』
翌朝、グレーテルは魔女に叩き起こされました。 「ほら、さっさと起きるんだよ。私は悪い人食い魔女さ。
あんたの兄さんから食ってやることにしたからね。お前はあの子を太らせる料理をたくさん作りな。」
これはまずいと機転を利かせたグレーテル。台所で料理を始めだすと魔女に言いました。 「おばあさん、かまどの使い方がわからないわ」
「ほんとにぐずな子だねぇ」
魔女がお手本を見せようとかまどに近づいたその時、グレーテルは魔女の背中を強く押しました。
そして、かまどの扉をバタン!魔女はそのまま、焼け死んでしまいました。 「ヘンゼル、もう魔女はやっつけたわ!」
ヘンゼルが鳥かごから出てきます。よくよく見ると、誰もいなくなったお菓子の家には宝物がたくさん! 2 人は一緒にポケットに入らないほどの宝物を持って、自分たちの家へと向かいます。 ヘンゼルとグレーテルが家へ帰ると、木こりはたいそう喜びました。 都合がいいことに子供たちのことを邪魔に思っていた継母は、家から出て行っていたのです。 ほっとしたヘンゼルは言いました。
「さあ、これで安心して眠りにつけるぞ。今夜こそが夢にまで見た幸せな夜だね、グレーテル。」
→『描きかけの世界』
私の名前はペリーヌ・マルタン。このしゃがれ声で誰だかわかるだろうね。 そうさ、『ヘンゼルとグレーテル』のお話に出てきた悪い魔女。あんたたちはどう思うか知らないが、 ありゃほんとひどい話さ。
私はね、熱い熱いかまどの中で焼かれて死んじまうんだ。いいきみだと思う人がほとんどだろうよ。 でも、今日はせっかく来たんだ。本当の話を聞いていってちょうだいな。
そもそも、私はこんなおいぼれた声じゃない。ほら、本当はこんなにも若々しいのよ。
この声に、聞き覚えは無い?無いわよね。セリフまで削られているもの...。 実はね、もっと前からお会いしてるのよ。えっとね、そう、もっともっと最初の方。 その頃は『継母』と呼ばれていたわ。ひどい筆者よね。再婚の妻だとしても、 文章のなかでくらい「お母さん」と表現して欲しかったわ...。
→『人間依存症』
まぁ、あの物語で『悪い魔女』...って言われたのは仕方ないわね。 本当の私はね、一人の人間の男性と結婚したただの魔女。人を食べたりしないわよ。 好きな男性と、可愛いその連れ子たち。4人で仲睦まじく暮らしたかったの。 でもほら、時代も時代で、木こりの彼の家にはお金がなかった。そんな時、彼が言ったの。
「子どもたちを外に出せば、せめて俺たち夫婦はご飯が食べてゆける。子どもたちは、 貴族の散歩の通り道になっている森に置いてゆけば、誰かが拾ってくれる」って。 私も初めは否定したわ。でも落ち着いて考えて、答えを出した。悲しい提案だけれど、 4人で死んでしまうよりは良いと思ったの。 けれど、ヘンゼルもグレーテルも私に恨みを持った。そりゃ「捨てる」って聞いて 実の父親が言ったとは思わないわよね。わたしが提案したと思っていたみたい。
ヘンゼルはやっとの思いで買ったパンを全て持って出ていったし、 グレーテルはしまっていた私の大切なネックレスをバラバラに千切って森に撒いたの。 あの子たちは頭がいい子だったから...私への当て付けだってすぐわかったわ。よく考えればいつも そうだった。いつでも私はのけ者にされていたし、一度も「お母さん」と呼んでくれなかった。 今回もそうよ。また私だけが悪もの。愛情の裏返しって本当にあるのね。殺さなきゃって思ったの。
→『はるのこと』
まずは、あの子たちを飢えさせて歩かせて極限状態に...そこに魔法でお菓子の家を建てるでしょ、で、 中に住んでるのは優しい顔のおばあさん。これは変装でどうにかなるわ。 焼いて食べちゃえば跡形も残らない。...で、考えてすぐ「私も食料を探しにいくわ」と言って家を出た。
あとはあなたたちの知ってる通り、利口なグレーテルにかまどで焼かれておしまい。 あの子たちの罠にまんまとハマって、愚かな悪い魔女の出来上がり。
...ねぇ、ここまで聞いてあなたたちはどう思う?これでも私は本当に悪い魔女かしら。 一般の男性と結婚して、普通の女性になりたかったただの夢みがちな魔女よ。結婚してからというもの、 どんなに生活が苦しくても魔法を使うことすら我慢してたの。殺意を持ったのは悪かったかもしれない。 でも私の日々の苦しみは...一体何だったのかしら。
筆者ったら薄情よね。 私をただの継母を装った悪い魔女として物語を書いて、最後は邪魔者がいなくなった3人で 幸せに暮らしました...って。どんな美談なんだか。嘘ばっかり...。
それと、こうも思うのよ。ヘンゼルとグレーテル、それに筆者、私...みんなそれぞれ悪い所があるけど、 その事実から逃げてる彼もそうとう悪いと。最初から最後までどっちつかずで、物語の中にセリフも ないまま、ずーっと傍観者で “めでたしめでたし” ...。ほんと、ずるい人...。
今度またおとぎ話の中にうまれるなら、もっと幸せな女性になってみたいって今も祈ってるわ。
→『No.9 ペリーヌ』
それでは皆さま、本日はご来場くださりありがとうございました。 きょうのお話は『ヘンゼルとグレーテル』という内容で進めて参りましたが、いかがでしたでしょうか。 物語の中で “悪い魔女” と呼ばれていた彼女に真実を聞かせていただきましたが...。 例えば、ヘンゼルとグレーテルが一つの不幸な事件だとすれば、犯人候補はたくさん居ると思うのです。 では、先ほど魔女が言った真実も含め、意見を聞いてみましょう。 結局は物語の中で誰が悪者なのか...。みなさん、思うところで手を挙げてくださいね。
幼い兄妹への愛を憎しみに変えてしまった魔女、ペリーヌ・マルタンが悪いと思う人。 新しい母を受け入れず一人の女性を不幸に陥れた、ヘンゼルとグレーテルが悪いと思う人。 そして、脚色して筆を執った、筆者が悪いと思う人。 ことの原因なのにずっと傍観者だった、木こりが悪いと思う人。
( いろいろな考えの方がいますね。)
しかし、私たちは考えます。このヘンゼルとグレーテル事件には真犯人がいるのでは無いかと。 それは、「物語の当事者を無視して勝手に善悪を決める、読者が悪いと思う人」。( 手を挙げる ) ...という意見があってもおかしくないわけです。物語を操る立場になると、このように言葉巧みに誰の ことだって、例えばあなた方のことだって悪者にできる。とても容易です。今の時代、誰しもが 公の場で好き勝手に言葉を操れる時代。いつ誰が犯人に仕立て上げられてもおかしくありません。
それでは本題も半ばでございますが、時間が迫っておりますので... ここらでお暇致しますが、どうか皆さま、お帰りの際も、悪者にされないように、お気をつけて。
→『ゆうわくの帰路』
10/25 Sun.
[The Two Men Show]
-きものやんとよあけのばん-
act.
きものやん
よあけのばん
投げ銭配信(アーカイブ配信)
https://youtu.be/oJFl3_tkpbM
投げ銭受付
https://donorbox.org/donate-for-indie-musicians
次回公演
11/29(日)
at道頓堀かつおの遊び場
出演
ヘテロズ
左京めぐみ
よあけのばん