おやすみなさい、眠り姫
姫がこの世に生を受けた時、12 人の魔女が集まり、贈り物を授けました。 ひとりは沢山の富を、ひとりは限りのない美を、ひとりは高く積まれた徳を...。王様もお妃様も、 またとない晴れの日に大層喜びましたが、11 人目の魔女が贈り物を手渡した時、 城の外では雷鳴が轟き、見る見るうちに暗雲が立ち込めました。分厚く重なる紫色の雲からは、 恐ろしい顔の女が舞い降りてきます。
「王よ、妃よ、何故私をこの宴に呼ばずにいたのじゃ。」
なんとこの女はこの街の 13 人目の魔女。祝福の宴に呼ばれなかった事に大層腹を立てていました。 王と妃は声を揃えて言葉を返します。
「すみません、魔女様!うちの城には金の皿が 12 枚しかありません。お恥ずかしい事に、 貴方様を呼ぶ準備が整いませんでした。」
しかし、二人が頭を下げようと、13 人目の魔女の怒りは収まりません。
「お前たちはなんと無礼な王族じゃ。私からはこの贈り物をその姫に授けてやろう!」
魔女が杖を一振りすると、黒い雲が現れ、純白のおくるみの赤ん坊を包み込みました。
そして、魔女は叫びます。
「これは、その娘の齢が 15 になった時、針に刺されて死んでしまう呪いじゃ!」
→想像力は僕を殺して君を救う
そして、13 人目の魔女は窓から飛び去り、王と妃は暗雲に包まれた幼い娘を抱きしめて 涙を流していました。
そこで部屋の端の方からやってきたのは小さな魔女。この少女は 12 人目の魔女でした。
「王様、お妃様、わたしはまだ大層な魔法を使うことは出来ませんが、 先ほどの呪いを弱めることなら出来るかもしれません。例えば、死んでしまうのでは無くて、 15 歳になった時眠りについてしまう程度なら...」 自信なさげに話すその魔女に、王様夫妻は頭を下げて頼みました。
「是非、是非ともそうしてこの子の人生を助けてやってください。」
そして 12 人目の魔女は杖を一振り。赤ん坊の周りの黒い雲は姿を消しましたが、 確かに未だなにか嫌な空気が漂っています。
こうして、わたしたちのよく知る眠り姫、いわゆる、眠れる森の美女は完成しましたが...。
なんとこの眠り姫、大層心配性でありました。
ネグリジェでベッドへ潜り込み、ため息を吐きます。
「わたしも、あと 15 分ほど経てばもう 15 歳。100 年の眠りについてしまうのね。本当に、
この上に筆者が書いた文字の通り、わたしは 100 年も眠ってしまうのかしら...。」 そして、姫は試しに瞳を閉じてみました。
→おやすみなさい。
よあけのばんがおやすみなさい。という曲を演奏し終えた頃、
まだ姫はぱっちりと目を開けていました。そして、こちらを向いてこう話します。
「ねえねえ、全然眠れないんだけれど!
おやすみなさいって歌なのよね、ここでわたしが眠る予定じゃないの?違う?」
(Nonsugar を見る ) 「まったく、答えなさいよね!
ぜーんぜん眠れてないの!眠れなきゃ困るの、だってわたし眠り姫なのよ!
他に曲は無いの?うんと眠れそうな曲よ!」
眠り姫が癇癪を起こすのにおどおどとしながら、
よあけのばんはうんと眠れそうな曲を演奏し始めました。
→各駅停車で会いましょう
「ちょっと待ってちょうだい!眠りなさいたってこんなにテンポが速くて元気のいい曲じゃ、
ぜんっぜん眠れそうに無いわ!
ほらみて、こんなにも目がぱっちり!あくびも出ないわよ。他にもっと穏やかで素敵な夢を
見られるような曲は無いわけ?」
不安症の姫は各駅停車で会いましょうでも眠れそうにありませんでした。よあけのばんは悩み、
他にどんな曲があるかと考えながら、次の曲を演奏してみることにしました。
→ファジーネーブル
「待って、待って。だめ、だめだったわ、わたし、あなた達のレパートリーでは 眠る事ができないみたい。」 ファジーネーブルでも眠ることのできなかった姫は、よあけのばんに失望したようです。 しかし、黙っちゃいないのがよあけのばん。言われっぱなしではどんどん不満が募ります。 そこで一言、髪の長い女の方が大きな声で言いました。
「じゃあ、お姫様!いっぱい演奏するからお好みのを探してくださいな!」
突然の大きな声に姫はキョトンとしていましたが、隣の男は構わずギターを鳴らし始めました。
→回帰船
→8月32日
→泣き虫ウェザー
→雨上がり
→ブルームーン
「さぁどうでしょうかお姫様!」
よあけのばんは 5 種類もの曲を演奏しましたが、姫は目をぱっちり開けたまま、 不服そうな顔でこちらを見て言いました。
「あなたたち、わたしを寝かそうとしていないわね!知ってるのよ、これ、 今日物販に持ってきている CD に入っているラインナップでしょう!」 よあけのばんはぎくりとして、口をつぐみます。
「あのね、今日はわたしが主人公の公演なのよ!あなたたちの CD の宣伝に使うなんてもっ ての外!もういいわ!」 姫はそう言って、寝室を走って出て行ってしまいました。これにはよあけのばんも反省し、 焦って姫を追いかけます。
足の速い姫はどこへ向かったのでしょう。広い広いお城の中をきょろきょろ探しますが
なかなか見当たりません。
あっちかな、それともこっちかな。よあけのばんのふたりがうろうろとしていると、
庭の隅に佇む古い塔を見つけました。麓にある入り口をくぐり、上を見上げますと、
長い長い階段がてっぺんへと続いています。そこでふたりは『眠れる森の美女』の物語を
思い返しました。もしかしたら、いいえ、たぶん、
姫はここを上って行ったのではないでしょうか。
かつんかつんを靴を鳴らし、よあけのばんが階段のてっぺんに辿り着きますと、物語の通り
そこには糸車の針に刺されて眠ってしまった美しいお姫様がひとり横たわっておりました。
おやすみなさい、眠り姫。めでたし、めでたし。
→ユメヨミ
(前奏)
さて、今日の公演「おやすみなさい、眠り姫」はここでおしまいです。 眠り姫は物語のシナリオ通り、無事、眠りにつく事ができました。 運命や必然、世の中には様々な道が広がっており、時折心配に駆られたりもしますが、でも、 大丈夫。お姫様と同じように、皆さんにも、その未来のシナリオには選び抜かれた 逸品の結末が待っているのです。ちょっとした心配で もがいたとしても、 今日のように杞憂に終わり、あなたにも、あなたの為の素晴らしい糸車が、 ちゃんとそこに用意されているはずです。あとは、針に刺されるだけです。
さて、なんと今回よあけのばんの演奏曲は 10 曲ありました。お姫様の仰せの通り、 去年に作った CD の宣伝も兼ねておりますが、久しぶりのライブでたくさんの曲を 演奏できて大変幸せです。
それでは、次はあなたも主人公として目覚める、そんなこの曲でお別れいたしましょう。 「ユメヨミ」お聴きください。本日はどうもありがとうございました。
2022.5.22(sun) @心斎橋HOME
蟻人企画「色を重ねて黒に染まる」
演目【おやすみなさい、眠り姫】
共演:Andy./紫とピンクメトセラ/蟻人