12/6 高円寺 club ROOTS! "月冴ゆる冬の夕暮れ"
act: 高木フトシ / Amy / 純、独りぼっち。。/Kawamoto Ryusuke
“高円寺ROOTS!
ブッカーより託されたイベントテーマ。
吸い込まれるような美しい月の光に魅了された冬の夕暮れをイメージしたイベントです。
秋の終わりを感じ、冬の訪れを想って少しもの悲しい、心にじんわりと染み入る楽曲を感じる日にしたいと考えており、その世界を紡ぐアーティストを集めた弾き語りイベントとしております。“ (髙木フトシ公式HP 20241129 ブログより転載)
ライブハウスのブッカーから託されたイベントテーマに沿って髙木フトシが考えうるベストなセットリストで挑んだこの日のライブ。ライブ後日の彼のブログより”ブッカーからのテーマに沿った曲を揃えての挑戦”と表し、“砂音まで前編、夜空まで後編”とセットリストについて説明していた。(髙木フトシ公式HP 20241207 ブログより引用)
優しい音色の飾らないギター、“はじまりの綺麗な夕陽は〜”の歌い出し。爆音を封印しガットギターでのSLIDE。髙木フトシの歌声は優しく緩やかに、そして伸びやかに会場に響き渡っていた。彼の歌声は脳裏に冬の夕暮れ時の光景を思い浮かばせた。季節は秋が終わり冬へ移行していく。冷たい空気が冴え渡り、黄昏時の澄んだ空に黄金色の夕陽沈みゆく。その光景は心に染み入り、どこかもの悲しさがある。沈みゆく夕陽の黄金色を目に受けている様だった。
沈みゆく夕陽の光景に人はどこか人寂しさを感じ心細さが増してゆく生き物だ。昼間は人に触れる機会や仕事に集中しその思いを忘れかけている。その心細さは自身が持つ憂いや悲しみ、孤独感を増幅させる。陽が沈み、光が地平線に沈み込むと共に人の心を孤独が侵食していく。
“悲しみをしまって全部Keep it carefully”と髙木フトシは歌う。優しく全てを包み込むような歌声で聴く人の心を慰める。その人の心に寄り添い、あかりを灯す。癒された悲しみが夕陽が沈む空に溶かされていく様、孤独を包み込み全てを受け入れてくれる。この歌はただただ優しく、聴いた人は自然と笑顔に戻ってゆく。
陽が沈み空の色はButterfly blueへと変化してゆく。歌い出しには“陽が陰りゆく一瞬を 人波の中で立ち尽くす 見上げれば涙流れるよう 寂しさに気付かされてゆく“と。ディディウスモルフォ蝶の翅色の空を思い浮かべる。夕暮れから夜にかける空色の変化を感じる。そして、この一節の歌詞から受ける印象とは真逆に明るくポップな曲調が耳に残る。蝶が花から花へと舞う画が浮かぶ。健気に舞う蝶の行く末を見守るように。
※参考までに。この曲を書いた時のエピソードを過去のインタビューで語っている。昔、中学生か高校生くらいの女の子が花の周りの飛んでた蝶を片っぱしからぶっ叩いてたのを見て嫌な思いをしたと。その時に優しさや思いやり、感情は感性って、どこからくるものなのかと言う疑問から「Butterfly blue」は生まれたと答えている。
“あなたに あなたに
もう一度会いたいから
あなたに あなたに
もう一度会いたいから“
砂音lyrics一部抜粋 lyrics 髙木フトシ
完全に陽は沈みButterfly blueの空色から月夜へ。夜は更けていく。夜空に浮かぶ月。あなたを探して彷徨う。凍てつく冬の冷たい空気と白い吐息。“あなたにもう一度会いたい”と思いの一心を叫ぶ。月夜、あなたを探して暗闇に彷徨う、星は見えない。。髙木フトシの歌声にそんな画が浮かぶ。
砂音。この曲の歌詞は日本語の美しさに感嘆する。髙木フトシが意図する詩の意味とは別に、聴く人ぞれぞれの解釈で物語が創造出来るだろう。メロディも歌詞と連動して徐々にドラマチックに盛り上がっていく。そして、この曲の魅力は髙木フトシの歌唱だ。髙木フトシと言えばしゃがれた声でエモーショナルにシャウトする印象が強い。しかし、砂音ではシャウトしつつ流れるように繊細で透明感のあるファルセットで歌唱する。この髙木フトシのファルセットがこの曲の物悲しさをより一層引き立てているのだ。初めてこの彼の歌声を聴いた時、こんなにも繊細な声を出すことが出来るボーカリストなのだと。とても意外さと驚きがあった。まだ聴いたことが無いというのであれば是非一度聴いてみてほしい一曲。必聴である。(lyricsは下記に転載)
前編三曲、後半はSilence、Moonlight fever、夜空とレアなセットリストが展開された。
月の明かりだけの暗闇の世界のSilence、沈黙。夜は深まり眠りについた世界は静まりかえる。そこに髙木フトシは優しげに優雅に歌う。歌うにつれて感情が高ぶっていく。閉した夜空に少し月のあかりが差すようだった。月あかりの夜にシフトしていくMoonlight fever。艶やかな旋律と彼の歌声。月の光に惑わされるように“月へ月へ”と。あの人は月へ。遠く見上げる月へ手を伸ばしてみる。どこか月にまつわる昔話を思い出すのだ。
冬の夜空は空気が澄み、星の瞬きが見えやすい季節。見上げると無数の星、夜空を見て自分の愛おしい誰かを想像する。しかし冬の冷気は体の熱を奪い、人の温もりが恋しくなる季節と言えよう。MCにて「こういうことを言うのは恥ずかしい」と一言前置きがあり、「人の温もり」は大事であると彼は言う。続けて、そんな思いを持ちながら冬の始まり、秋の終わりの夕暮れ中、今それぞれが持ってる温もりを感じて大事な人を思い描いてくれたらと、静かに夜空を歌い出す。髙木フトシの歌声は聴く者の感情を揺さぶる。地下のライブハウスの天井は星が瞬く冬の澄んだ空に変わり、月あかりのもと夜空を見上げて愛おしいあの人を思い出す。そして、愛おしいあの人の温もりを感じるのだ。
この日のイベントのセットリストは髙木フトシの挑戦。聴く人が美しい月の光に魅了された冬の夕暮れを感じられる様にと。彼は「俺の宿題は。。夕暮れ感じてくれた?」と客席に問う。私は夕暮れ以上のものを感じることが出来た。彼の挑戦は見事に達成出来たのではないかと思う。
本編の物語は終わり、アンコールへ。髙木フトシ渾身のラブソング、世界の終わりに。「どうもありがとね。また会える日を楽しみしております。そんな渾身のラブソングを歌って来年を迎えようと思うかな。ただただ。。本当に悔いのない、人生の終わりを。みんなにも過ごしてもらいたいと。思います」とメッセージを残し、渾身のラブソングを目の前のキミへ想いが届くように、感情的に、歌い上げた。そして髙木フトシの挑戦は終わった。
彼が選曲したリストには夕暮れから夜が更けていき月が浮かぶ夜空を連想させられた。これはひとつの短編集の様で、ひと歌ひと歌に物語があった。また、物語を一つにまとめ、通して聴くとそこには時間経過と喜怒哀楽の情動があり一つの物語を観ている様だった。綺麗な夕陽の美しさ、冬の冷たい澄んだ空気、時には、冷たい冬の風が体にあたり凍るような体感、そして、愛しい人に会いたいと懇願する切ない気持ち、人の温かいぬくもりを感じて。。髙木フトシの持っている楽曲の表現の幅広さが分かる。
いく様にも変われる髙木フトシの歌唱スキルとパフォーマンススキルは聴く者を魅了しその世界に入り込ませるのだ。今回ここに記した物語は、髙木フトシの歌を聴いた私が想像力をフル全開し描いた物語である。ゆえに歌を聴く人の数だけオリジナルの物語があるのだ。
MCにて「髙木フトシ。最新アルバムが完成しました!」とテンション高めに報告していたのが印象深い。それを聴いた客席からは拍手が起きた。制作期間は二年。とても良いアルバムだと思うので機会があれば聴いてほしいと。アルバムタイトルはSkin job isolator。アルバムのことを物凄く表しているタイトルであると語っていた。発売日は上手くいけば今年最後の12/39横浜BYSISでのワンマンと告知があった。
20241206 高円寺clubROOTS!!SET
01 SLIDE
02 Keep it carefully
03 Butterfly blue
04 砂音
-mc
05 Silence
06 Moonlight fever
07 夜空
En
01 世界の終わりに
砂の音
lyrics 髙木フトシ
添えゆく声と 深く閉じる験に
思いを重ねた 風の音に新れて
名前すらまだ無い 誰も見えない風景
そこにある記憶が幼い僕を
聞こえるか この声が
見えてるか この僕が
闇を照らす光はまだ見えているか
聞こえているんだろ そう
この声が無くても
引き裂かれるように胸を射す痛みは
まだ
あなたにあなたに
もう一度会いたいから
あなたにあなたに
もう一度会いたいから
月明かりのせいさ 白くぼやける夜に
心に寄り添った 一枚の写真
添らしい風に 揺れる髪を押さえて
小さく微笑んだ その手に僕は呼ばれて
願っても この声が
見えないよ この僕が
月の影に隠れている時間のように
さえぎった光のままに
涙を滲ませるように
触れる草木に命を吹き込むように
いま
眼を閉じ 待ちわび
祈るように そのときまで
眼を閉じ 待ちわび
祈るように そのときまで
夜が空け 月は白く 空を仰ぐ
身は詳れ やがて陽は
僕を覆う 僕を覆う
あなたに あなたに
もう一度 会いたいから
あなたに あなたに
もう一度 会いたいから