秋風に毛先を攫われ風になびくたびに、身体を焦がす夏が過ぎ去ったのだと体感する。 けたたましく刹那の叫びをあげる虫の声も遠い昔のように感じる。群青の空は季節の移ろいと共に色を薄くしてゆく。巡る季節の切なさと期待が入り混じる中間色のような今日この頃の一瞬の色の輝きを見つめている。
朝風呂を終えて窓を開けると、秋の清々しい空気で部屋が満たされて、心地よい温度で体の熱を冷ましてくれた。
赤蜻蛉の群れを見たとき 黄金の稲穂を収穫しているのを見たとき 爽やかな風に髪が はためいたとき 夕暮れ時に鈴虫の音を聞いたとき ああ、秋が来るなあ…と思う
あたたかく 包んでくれる沢山の水 肩まで浸かると 胸が圧迫されてちょっと苦しい じわじわと 指先足先から熱が広がる 体を巡る血が ちょっとだけ駆け足になる 良い匂いのお湯に浸かれば 心も体もほぐれてゆく
処暑過ぎて 蟲の音変わり 鈴の音へ 夏の熱冷やす 桔梗納戸
車を操り帰路へつく。夕闇の中に無数に煌く車のヘッドライトの群れは天の川のようだ。 信号待ちの為にしばし停車する。 そういえば今日は一年の中で一番、月が大きい日だ。そう思い出して空を見やる。雲。 分厚い雲に阻まれて空など見えない。 私は心の中で、想像の満月を見た。 目に映る事実より、美しい月だった。
切り分ければ 現れる 赤い宝石 一口齧れば 溢れんばかりの赤いお水 口の中に控えめな甘さが広がる 太陽の果実
室内で扇風機の風に揺れる洗濯物たち はためいて 陽の光を受ける 穏やかな午後 規則的な機械音が子守唄
しとしと 地表を優しく濡らす 透明な雲から溢れる水 嘘の優しさのように
見上げれば 茜 飛行機雲が駆けてゆく どこまでも伸びる影 夜に追いつく
木漏れ日の中を進む まばらに差す陽は柔らかなレースのカーテン 爽やかな風と共に駆け出す にわかに立ち上る朝霧
午後も進んだ頃、空がぼんやりと暗くなる ぽつり、ぽつりと雨粒が落ちる 次第に雨粒の数は増えて、ざぁざぁと雨になる 雨粒の群れに押し出された 湿気を含んだ空気が、私を置いて駆け抜ける 雨宿りをしている間は、永遠のように感じた 見上げれば、陽が差す 驟雨
外から聴こえるのは 忙しなく行き交う車の音 命の限りを叫ぶ虫達の旋律 対照に室内から聞こえる音は 私を穏やかに快適に眠らせてくれる機械達の音 ガラス一枚隔てた先で、別世界が広がっている 平等に降り注ぐのは陽の光
さくらのビー玉 光をおびて反射する とじこめられた さくらの花びら 光と反対側にさくらの形の影が落ちる 光にかざして 覗いてみると 瞳の中に落ちる 蒼いさくらの はなびら