見出し画像

冷たく静謐な朝は祈り

 あまり眠れなくてアラームよりも早く目が覚めました。顔を洗う水が冷たくてヒリヒリする肌。温水に切り替えて寝癖のついた頭をジャブジャブ流します。ドライヤーの風が温かくて気持ちいい。4:45。

 カメラを首から下げて5分早く家を出ます。冷たくて澄んだ朝の空気。東の空にまだ太陽はなく、ぼんやりと明るくなった空はシロップが沈んだクラフトコーラみたい。かき混ぜたらどんな色になるでしょうか。

 ホットコーヒーとピザまんを頬張る朝のベンチ。鳥たちは甲高く叫び、頬を撫ぜる風は冷たく、木々の合間から差す日は鋭い。それらが形作る朝の気配は少しかたい。

 ラッパを吹き鳴らす金色の像。その下には祈りの場があります。日常に聖域が混じると、日常は清く尊いものに昇華されるのでしょうか。私は逆に聖域を俗物で散らかしてしまいそう。

 夏から冬にかけて空気はかたくなる。そんな気がします。気体が液体になって固体になるように、夏にはもわもわと霧散していた朝の空気も、秋を通過して透明な氷のように薄く、脆く、かたくなってゆくのがわかります。

 その凝固して形を成した朝の気配に名前を付けるなら『祈り』でしょうか。何に対してか、何処から来たものか、そんなものではなくて、ただ概念としてある祈り。私はその誠実さに当てられて暗く沈んでしまうことが多いから、季節が巡るのは陽光のイタズラだということを、覚えておきましょう。

すでに変わらぬ
灰に火をあてつづけ
まだ燃えると思ってる
黒はもう黒になりきって
動かずに
灰らしく居る
人の言葉で気づくとき
それは多分すでに遅い
簡単なことは
いつも手元に落ちていて
誰か拾ってみせてくれる
言葉が出てこないのは
会う前にわかること
踏み台にのって
きしむ音をきく
取り戻せないことの上にも
僕ら立っている
この街は動く
参加と不在が交わされ
列から消えても
倒れなかった
この街

灰のうた  作詞:松井一平 作曲:寺尾紗穂

 まだ生命の季節の証が木に残っています。

『すでに変わらぬ 灰に火をあてつづけ まだ燃えると思っている』

 なんて冷たくて優しいんでしょう。鋭利で透明で、切実で静謐でひたむきで、脆いけれどカタチある言葉。

 この歌が似合う朝が少しずつ増えて来ました。夜が長くなり、夜明けはより刹那的で美しくなります。

 「スンッ」と鼻から息を吸うと、木々の爽やかな香りの向こう、静寂の季節へ向けて、世界は少しずつ祈りはじめている気がしました。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集