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まどろみの箱庭 ーMAMコレクション017 さわひらきー
小雨降る仕事終わりの17時。
だらだらと歩いてたどり着いたのは森美術館。
訪れるのはずいぶんと久しぶりです。
去年は2回くらいしか行っていません。
森美術館にはメンバーシップといういわゆる年パスのようなシステムがあって、私も加入しているのですが、ついこの間更新の案内メールが届いて貧乏性な私は急いで予定を入れたのでした。汗
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今回の展示は「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」というタイトルです。
環境問題がテーマなのでどうしてもバックグラウンドの説明が多いことに加え、参加アーティストが多く(=アーティスト説明文が多い)、さらにさらに映像作品が多いことがトドメになって最後にはもうクタクタ。
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ショップを物色して今回の図録でも買って明日にでもゆっくり読み直そう。
そう思っていたところに何やら不思議な音が聞こえてきました。
逆再生したピアノでしょうか。
音の方に目をやると小さな展示室があり、入り口には黒いカーテンが下ろされていました。
おそるおそるカーテンをくぐると、そこには小さな箱庭が広がっていたのでした。
MAMコレクション017 さわひらき
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さわひらき(1977年石川県生まれ、ロンドン在住)は、キャリア初期から深層心理や夢、また記憶の領域に強い関心を抱いており、これまで現実と虚構が織りなす幻想的な映像作品を国内外の展覧会で発表しています。複数の映像を使ったマルチスクリーンによって巧みに構成された展示空間は、視覚的に鑑賞者を魅了しながら自身の身体性を意識させるものであり、人々の記憶と感情と感覚が絡みあう豊かな内的世界を表現します。
薄暗い室内に反響するあたたかい質感のピアノの音。53階から見下ろす東京の夜景。
私は実はあの明かりの世界で眠っていて、この夢のような箱庭ごと宙に浮遊しているような、そんな感覚を覚えます。
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本作のタイトルである「はこ」は、心理療法の技法である箱庭療法に由来します。箱庭療法では、患者が自由にミニチュアや玩具を砂箱に配置することで、言葉では説明できない心の状態を立体的なイメージとしてつくり、無意識内に存在する自己治癒力を高めることを目的としています。本作では、人の気配がする住家、砂浜の観覧車、港の夜空に煌めく花火、深い森林に佇む神社などの映像が直立するスクリーンに投影されます。どこか親しみを感じさせるサウンドとともに、人々が記憶の深部に閉ざしてしまったようなイメージがシンクロ再生され、ひとつの情景へと統合されます。
ヒトという生き物としての懐かしさとでもいうのでしょうか。
一個人としての歴史のフラッシュバックではなくて、ヒトゲノムに染み付いているノスタルジー。
私たちにもし帰巣本能があったとしたら、ここがまさにその「巣」と言えそうな空間。
水族館で生まれたピラルクは、はるか南のジャングルの生ぬるい雨降る濁った川を夢に見るでしょうか。
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箱庭の中でもぼーっとしていると、さっきまでせかせかしていた頭の中が静かになってゆきます。
今回の企画展はこの展示の癒しの効果を最大化するために用意されたのではと思ってしまうほど。
キュレーターは矢作学さん。
最後にこんなとっておきを用意してくれて本当に感謝です。
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記憶にないのに懐かしい。
もしかしたら私たちは、まどろみの世界で共通の「巣」に帰っているのかもしれません。
形而上にない私たちの「巣」を、形而下にあるもので組み立てた「箱庭」。
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夢とうつつの狭間に確かに存在する癒しの世界を大都会のはるかに上空で、ぜひみなさんも味わってみてください。
会期は3月31日までです。