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人助けの日、悶々

 昨日の朝、駅でのこと。ホームへ降りるエスカレーターの上でおばあさんとサラリーマンが何やら話をしていました。どうやら、おばあさんは道を尋ねているようです。

 私は少し早く駅に着いたのでホームのベンチでのんびり座っていました。すると、さっきのおばあさんがエスカレーターを降りてやってきて私にこう聞くのです。

 「成田山へお参りへ行きたいんだけど、どう行ったらいいのかしら」

 私はスマホで電車を調べておばあさんにこう説明しました。

 「次に来る電車に乗って2つ目の駅で降りて、隣のホームの成田空港行きに乗ってください」

 おばあさんは理解したようでした。そしておばあさんはこう言いました。

 「じゃあこの電車に乗ってけばいいのね」

 ええと……、この電車は羽田空港に行っちゃうので、途中で降りなきゃ行けないんです。はい。あ、とりあえずここ、座ったらどうですか?ええ、どうぞどうぞ。じゃあもう一度説明しますね……。

 おばあさんは説明した直後は理解したような素振りをされるのですが、聞いてみると「この電車に乗っていけばいいんでしょう?」とわかっていないようです。

 私はメモ帳を取り出すと成田駅への行き方をメモしておばあさんに手渡しました。おばあさんは「まあ、ありがとう!」と受け取るのですが、「じゃあこの電車に乗っていけばいいのね!」

 さすがに私も違和感を覚え始めましたが、電車がちょうど来てしまったのでとりあえずおばあさんと一緒に乗り込みます。

 空いている席に並んで腰掛けると、失礼にならないよう会話の回り道をして色々と質問をしてみることにしました。お名前お聞きしてもいいですか?朝ごはんは何食べたんですか?今日はどちらから来られたんですか?

 会話にそこまで違和感はなかったのですが、そういえば服装が少し気になります。今朝の気温は摂氏2℃。それにしては薄手な気がします。

 すぐに乗り換え駅に到着し、散々良心と私心の葛藤を繰り広げた挙句、ギリギリ良心が勝利し、私は転職して3日目の仕事を遅刻する覚悟でおばあさんと電車を降りました。

 すると運良くちょうど目の前に駅員さんがいたので、事情を説明しおばあさんに手を振ると私は今降りた車両に再び飛び乗ったのです。

 その後、仕事には間に合ったものの、『あのおばあさんは大丈夫だっただろうか?』とか、『実はちょっと忘れっぽいだけで、私の早とちりで失礼な事をしまったんじゃないか?』とか、色々考えてしまい、悶々。

 さて、仕事を終えて妻が入院している病院へ向かう電車の中。今度は大きなスーツケースを持ったインド系のお兄さんに話しかけられました。

 “Excuse me.”

 そのお兄さんは持っていたスマホを私に見せてきます。

 画面に映っていたのは電車の乗り換え案内でした。行き先は舞浜。……舞浜?この電車は逆方向です。どうやらお兄さんは電車を間違えてしまったようです。

 私は「逆方向ですよ!」と言おうとして、"逆"って英語でなんて言うんだ?とフリーズ。「とりあえず次で降りましょう」と言おうとして「降りるってなんて言うんだっけ?」

 電車を間違えたお兄さんよりもパニックになりつつ、「ネクストステーション!ゴー!」とか酷い英語を話してとりあえず一緒の駅で降ります。2番線の電車に乗ればいいのですが、ホームへ向かう階段が見当たらない……。

 そうこうしているうちに私が乗らなければならない電車が来て(これに乗らないと病院の面会時間に間に合わない)、焦った私はエレベーターを指差しながら「トリアエズ、セカンドライン!」と恥ずかしい英語力を披露してお兄さんに手を振り逃げるように電車へ駆け込みました。

 英語、ちゃんと勉強しておけばよかったなあ。子供の頃は、大人になってから「勉強しておけばよかった」なんて本当に言うことになるとは思いませんでした。お兄さん、ごめんね。

 せっかく私を頼ってくれたおばあさんとお兄さん。それなのに期待に応えられなくて申し訳ない……。人助けをした(つもり)なのに、悶々とする一日でした。

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