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ペダルを踏んで

 お茶屋さんに行った帰り。突然サイクリングがしたくなって、家へ帰ると久しぶりに自転車に跨ります。空気が抜けていたのを2年近くほったらかして乗っていなかった自転車。引っ越し前にメンテナンスしてもらおうと、先日自転車屋さんに持って行って空気を入れてもらったのです。

 ペダルの上に立ってググーっと体重をかけるとサビだらけのチェーンがグルグル動いてどんどん進みます。夕暮れの街の奥へ奥へ。

 カメラが趣味になってから自転車にはほとんど乗らなくなりました。風を切り流れる景色の中にある大事なもの。些細だけれどその時しかないあれこれを見落としてしまうような気がして。

 自転車に乗っても、すぐ立ち止まってカメラを構えてしまい、結局徒歩と変わらなくなってしまうのがオチです。

 小学校の裏手でバトミントンをしている子供が2人。空を仰ぐラケットは、落ちてくる日を跳ね返さんとするように、無邪気な弧を描いてビュンと鳴ります。羽根はコンクリートに転がってコツンと音を立てます。2人に会話はないけれど、それでも転がった羽根をすぐ拾おうとかけ足になる、その距離感が淡くて尊い。

 雑木林の中で自転車を降りて街灯を頼りに歩きます。舗装された道を一歩一歩進む度、大きなカエルがぴょんぴょんと両脇の林の中へと消えて行きます。カラカラとなる車輪の音。頭上でカラスの声。

 帰りに海辺の公園へ寄ると、クリスマスのイルミネーションが施されていました。ハロウィンもまだなのにだいぶ気が早い。

 青のイルミネーションの洞窟をくぐると目がチカチカしてたまりません。顔をしかめながらもわずかに浮き足立つのはなぜでしょう。

 洞窟の真ん中でスマホを構えてグルーっと一周。撮った動画を妻に送って、「時間あったら後で見に行こ」とLINEします。

 駐輪場に停めた自転車の前で二匹のトイプードルが戯れあっていて、邪魔しないようにコソッと自転車を動かそうとすると、逆に飼い主さんに気を遣わせてしまいました。

 カメラをしまってペダルを踏み込むと、海風と子どものはしゃぐ声が後ろへ後ろへ。

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