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老母と私の農作ノート115
現代社会には、科学的根拠のない商品が「効果がある」と思わせる巧妙な宣伝にあふれている。人々は、健康、美容、成功といった願望を刺激され、真偽を確かめることなく購入へと導かれる。この現象はなぜ起こるのか、そして私たちはどのように対処すればよいのか。
老母は比較的健康であり、認知症も同年代の人々に比べたらないと言える。ただ、いろいろな健康商品に飛びつく癖はどうもいただけない。
「飲むだけで痩せるサプリ」「電磁波を遮断するアクセサリー」「運気が上がるパワーストーン」。これらの商品の広告には、権威ある言葉や感動的な体験談が並ぶ。「〇〇大学の研究によると…」「医学的に証明された…」「使用者の90%が実感」——だが、その裏付けを精査すると、あいまいな表現や恣意的なデータの使い方が目立つ。
こうした商品が市場に溢れる背景には、心理的要因がある。人間は不安や悩みを解決したいと願う生き物だ。「簡単」「手軽」「短期間で効果」という言葉は、私たちの注意を引き、期待を抱かせる。特に、医学や科学の専門知識がない人にとって、難しい理論よりも「実際に効果があった」という口コミのほうが説得力を持つ。
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なぜ信じてしまうのか
私たちがこうした商品に騙される理由の一つに、「プラシーボ効果」がある。たとえば、砂糖を固めただけの錠剤でも、「これは特別な薬だ」と信じると、実際に症状が改善することがある。この現象は科学的にも認められており、人間の思い込みが生理的変化を引き起こす力を持つことを示している。つまり、効果がないはずの商品でも、使った人が「効いた」と感じれば、その体験談が次の消費者を引き寄せるのだ。
もう一つの要因は、「確証バイアス」だ。人は自分が信じたい情報だけを集め、都合の悪い事実を無視する傾向がある。「このサプリで5kg痩せた!」という口コミを見れば、「科学的に効果が証明されていない」という事実よりも、その体験のほうを信じてしまう。
こうした商品に騙されないためには、私たち自身が賢い消費者になる必要がある。まず、「科学的根拠」とは何かを理解することが重要だ。信頼できる研究とは、再現性があり、統計的に有意なデータが示され、第三者による検証が行われているものだ。企業の広告や個人の体験談ではなく、公的な研究機関や専門家の意見を参考にするべきである。
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また、広告の言葉を鵜呑みにせず、冷静に考える習慣を持つことも大切だ。「たった〇〇するだけで」という表現は、本当に理にかなっているのか。「〇〇の研究で証明された」という文言の出典は明確か。少し調べるだけで、多くの情報が得られる時代だからこそ、自ら知識を得る努力が求められる。
世の中には、科学的根拠のない商品が数多く存在し、巧みな宣伝によって人々を惹きつける。しかし、私たちが冷静な視点を持ち、正しい知識を身につけることで、不要な出費や誤った期待から自分を守ることができる。賢い消費者でいることが、無駄な消費を減らし、本当に価値のあるものを見極める力へとつながるのだ。