コミュニティ・サービスでつながる地域と大学
10月30日は役場での発表会であった。歩いて5分のところにバヤン村役場Kantor Desa Bayanはある。そこの2階に30人近くが集まっただろうか、アトマジャヤ大学の学生たちの成果発表会が行われた。
彼らは授業の一環でバヤン村に2ヶ月半滞在していた。8月下旬に我々が行った時には彼らはすでにいたし、9月のマウリッドの時も調査に励んでいた。10月も引き続き滞在しながら、伝統的な住居の調査を行っていたという。3年生5人である。もうすでに卒業に必要な単位数はおおかた取っていて、今回の授業で10〜13単位もらえるという。コミュニティ・サービスという授業で、実際の地域に関わりながら調査を行い、その報告や場合によっては提案を行う授業である。
学生がひとしきり発表したのちに、教員が補足説明などを行い、役場の代表者がコメントをする流れである。アトマジャヤの教員はアグンさんとレニ先生である。アグンさんが全体を回しながら、レニ先生が締める役割を担う。
30年前から私がこの村に関わっていて、そのつながりをきっかけに、2018年の地震後アグンさんが関わるようになり、ポスト復興のまちづくり提案のためにレニ先生が関わるようになった。今回学生5名が2ヶ月半お世話になったが、彼らにとってもこれで終わりではなく、始まりなので、引き続きコミュニケーションをとりながら、バヤン村に関わっていきたいとアグンさんが中間総括を行った。
役場の代表は、それを受けて、「村の伝統的な住宅や穀倉について詳しく調べてくれて新しい気づきがあった。村としても学生や大学とのつながりを大切にしたいと思っているので、引き続き関わってもらいたい」とコメントしたという。夜、家のテラスで皆で喋っている時にアグンさんから聞いた話である。
夜のテラスで食事の後、地酒ブルムを飲んでいると、レニ先生とアグンさんと院生のMさんがやってきた。朝会った時にレニ先生からも聞いていたが、Mさんの提案にアドバイスが欲しいという。学部の卒業設計としてまとめた、バヤン村のビジターセンターの提案である。
木造モスクの隣の空き地に村の情報を提供するブースをいくつか設置しつつ、少し離れたところに棚田を眺望できる休憩スペースを作るという案である。
彼女のアイデアの一つは、簡易な接合金具を用いつつ、ヤシの木材を用いた基本モジュールの提案である。これまで使われていた高価な入手しにくい材料ではなく、低価格でかつ入手しやすいヤシ材を使い、伝統的な仕口を使わずに建設を可能にすることで、大工の手間を省き、誰もが建設に携わることができることを目指すものである。
屋根付き露台ブルガの形態をモチーフにした建物数棟を地形にあわせて点在させて、集落全体の情報や各コミュニティごとの特徴をそれぞれの建物で紹介する。眺望の良い高台には、小さなランドマークになるような急傾斜の屋根をもつ露台を点在させて、これまであまり観光の対象として知られることのなかった棚田の風景を楽しめるような仕掛けになっている。
時間をかけて作り込まれたプレゼンテーションで、力作であった。
その後、先生方と彼女も含め、楽しく議論したが、伝統的な技術を使わずにできる構法を提案する意味や、高床の建築物に土足で上がれるようにする是非や、ブルガそのものの持つスケールと提案する建築のスケールの違いや、視点場となる建築の特徴的な屋根形状の必然性、コミュニティの意見を聞くことの意味などについて意見交換を行った。
提案することありきで、提案が考えられてしまうことが多いが、提案の必要性については行きつ戻りつ繰り返し検討が必要だと思う。今回の大学連携のプロジェクトは、観光という視点で必要な施設を提案するという文脈で検討されているので、ビジターセンターという用途になってしまっているが、簡易な構法提案が住宅にされると良いと思った。
工業材料で建てられてしまっている一般住居に、自然材料の活用や住民の建設への関わりを取り戻すためにも、簡易な構法が提案されると良いと思う。
学生たちの発表や、彼女の提案が、地元に様々な議論を呼び起こし、より良い将来につながると良いと思う。241030