イワン・ファルスの怒りといま
今朝、6時に市場に行って買い物をしていると、ラジオからイワン・ファルスのボンカールが流れてきた。
イワン・ファルス
ボンカールは私が初めてインドネシアに訪れた頃に流行っていた曲である。イワン・ファルスの歌であるが、正確にはイワン・ファルスらが参加して1989年に結成されたバンドSWAMIの曲である。
イワン・ファルスは1961年生まれ。「流し」として生活していたが1980年前後から知られるようになり、1989年のボンカールで爆発的にヒットする。社会の抑圧を歌うミュージシャンである。
インドネシアの大衆音楽の全体像を掴めているわけではないが、ラブソングばかりが歌われる現代にあっては、反体制ソングは居場所がないのかと思っていたので、市場で聞けたのは意外であった。
ボンカールの歌詞の意味
語感をうまく掴めるまでの能力はないが、意味を汲み取りながら、意訳すると次のような感じだろうか(一番後ろに逐語訳を掲載)。
国や自治体などの行政機関で職を得て、安定した地位を得た人たち(地位に隷属する者)にとっては、まちの人たちの小さな悲しみなど、対岸の火事のような見世物にしか過ぎない。まちの人たちの小さな生活に正義が訪れることを期待してはいけない。
政府に期待しても、強いられるのは忍耐、忍耐、そして待つこと。しかし、待っていても何も変わらない。
壊すしかない。表舞台に出て、立ちはだかる敵を引きずり下さなければならない。
強権的で恣意的な役人のふるまいにがまんがならない。不満は挙げればきりがない。いい加減さと彼らの物欲にうんざりしている。
今の社会では、人間として見られることはない。自分の夢を頼りに新しい世界を切り拓こう。愛のある世界を求めている。
イワン・ファルスの怒りといま
おりしも、日本では地方自治体の首長選挙で盛り上がっていた。遠く離れたところで、その前後の状況をうんざりしながら眺めている。
イワン・ファルスが歌う80年代のインドネシアには、直接的な実感的なルサンチマン(不満)が渦巻いていたんだろう。生活に苦しむ「私」が明確にイメージされる。
ただ、政府とか役人とか体制とかに対する直接的な不満がどの程度のものであったのかはわからない。生活の不満をぶつける対象として、体制が設定されていただけなのかもしれない。
日本の今回の選挙も、不満のはけぐちとしての投票だっただろうし、物語として消費された劇場選挙だったように感じる。選挙を楽しんだんだろうし、そもそも、その程度の不満しか持ちあわせてない豊かな社会である。
ただ、どうであれ、選挙による正当な手続きによって選ばれるという事実は重い。その決定は確かである。
ただただ、知事のしぶとさというか信念というかが、ラッキーなことに結果を生んだんだと思う。橋下さんがどこかで書いていたと思うが、彼は権力の濫用という点で重大な間違いを犯したと思うが、そこが争点化せず、彼の意図とは別に、わかりやすい物語の波が根こそぎ持っていってしまった。
パワハラやおねだりは問題の範疇外だと思うが、権力の濫用については、間違いに気づき、善処されると(楽観的に)期待したい。
おわりに
ここ数日、この選挙の後味の悪さに鬱屈として気分であったが、19日のインドネシアーサウジアラビア戦のサッカーは、日本戦のどっちつかずな感じの応援を払拭する良い機会で、楽しくインドネシアを応援し、また2−0で安心して勝つことができた。ワールドカップの出場の可能性も出てきたという。1938年のオランダ領東インドとして出場して以来のことで、今後の活躍を期待したい。241122
逐語訳的メモ
ボンカール:スワミ(イワン・ファルス)
愛が捨てられたなら
正義が訪れることを期待するな
地位に隷属する者にとっては
悲しみは見世物にすぎない
そうだ、そうだ、壊せ
そうだ、そうだ、壊せ
忍耐、忍耐、忍耐、そして待つ
それが我々が受け入れなければならない答えだ
結局のところ、我々は通りに行かなければならない
立ちはだかる悪魔を引きずり降ろせ
強権的で恣意的
他にも挙げればきりがない
ホーイ 止めてくれ 止めてくれ 続けないでくれ
我々は不確かさと欲望にうんざりしている
路上で自分の夢を頼りにしよう
家では、人間として見られず、誰も信用できない
愛を持って答えてほしい
Kalau cinta sudah di buang
Jangan harap keadilan akan datang
Kesedihan hanya tontonan
Bagi mereka yang di perbudak jabatan
O, o, ya o ... ya o ... ya bongkar
O, o, ya o ... ya o ... ya bongkar
Sabar, sabar, sabar dan tunggu
Itu jawaban yang harus kami terima
Ternyata kita harus ke jalan
Robohkan setan yang berdiri mengangkang
Penindasan serta kesewenang-wenangan
Banyak lagi teramat banyak untuk disebutkan
Hoi hentikan, hentikan jangan diteruskan
Kami muak dengan ketidakpastian dan keserakahan
Di jalanan kami sandarkan cita-cita
Sebab dirumah tiada lagi yang bisa dipercaya
Orang tua pandanglah kami sebagai manusia
Kami bertanya tolong kau jawab dengan cinta