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インドネシアで新たに2つの無形文化遺産が登録

2024年12月のユネスコの会議で、インドネシアに関連する無形文化遺産として、新たに2つの遺産が登録されている。一つはクバヤKebayaで、一つはレオグ・ポノロゴReog Ponorogoである。

12月5日のジャカルタ・ポストの記事で知った。


クバヤ

クバヤと聞けば、バリで見られるレース状の女性の上着が想起されるが、ユネスコの記述によると、クバヤは、前開きの上着で、複雑な刺繍が施されていることが多く、ボタンなどの留め具が用いられ着用されるもので、長さは様々で、お揃いのサロンと合わせて着用するという。フォーマル、カジュアル問わず、会合で着用されたり、儀礼時に着用される。

バリのクバヤ(Wikipediaより)

インドネシアでは、ジャワ、スンダ、バリで着用される。

ただ、今回の登録で特徴的なのは、インドネシアのみで申請されたのではなく、ブルネイ、タイ、マレーシア、シンガポールと共同で申請されたことである。

広く東南アジアに広がる服飾文化としてクバヤが、各国の合意のもとに申請され、採択された点に特徴がある。「この共同申請の取り組みは、東南アジア諸国が共有する文化遺産の保存における協力と団結の精神を反映している」という。

レオグ・ポノロゴ

ともに登録されたのはレオグ・ポノロゴである。緊急保護が必要な無形文化遺産として申請された。これはまったく知らなかったのであるが、中部ジャワと東ジャワとの境界に接する東ジャワ州のポノロゴ地方に残る舞踏芸術である。舞踏・音楽・神話の調和に特徴がある。災厄除けの儀式、結婚式、割礼の儀式、祝祭日、客人を迎える際など、伝統的に様々な機会に演じられてきた。

ダダック・メラク(Wikipediaより)

ダンサーは王、騎士に扮し、バンタランギン王国とその王の物語を語る。レオグは、虎の頭に孔雀がとまった大きな仮面であるダダック・メラクを特徴とする。ポノロゴのコミュニティにとって、それは誇りの源であり、文化的価値を体現するものである。

インドネシアの無形文化遺産

改めてユネスコのHPで確認すると、今年はもう一つ北スラウェシのコリンタンという木琴が、西アフリカの国々とともに登録されていた。

加えて過去の登録実績をみてみると、全体的にいくつかの傾向をみて取れる。

(1)ジャワ・バリの遺産

一つは、世界的にもよく知られているジャワ・バリの伝統に関わるものである。最初の2008年2009年の登録が、人形劇ワヤン、剣クリス、染布バティックであり、その後、バリ舞踊(2015)、ガムラン(2021)、ジャムウ(2023)、クバヤ(2024)と一つ一つジャワ・バリの文化遺産をバランスよく積み重ねている。

(2)失われる遺産に対する緊急保護

次に、緊急保護のもの。スマトラ・アチェのサマンダンス、パプア・ニューギニアの工芸ノケン(バッグ)、そして今回のポノロゴの舞踏芸術である。

無形文化遺産はいずれも、手軽でとっつきやすい現代的なものにとってかわられる傾向にある。新しい世代に魅力が伝わらず、担い手が減少し、技術・技能の伝承が難しくなりつつある。

緊急保護は、問題に直面する多くの遺産の中でも、緊急性が高いものに対して保護が要請されるものである。

(3)存続する各地の遺産

上記以外の登録された無形文化遺産は、西ジャワの竹の打楽器アンクルン、南スラウェシの造船術ピニシ、武道プンチャック・シラット、詩パントゥン、加えて今回の木琴コリンタンである。

ざっと調べた感じでは、ピニシは近代化した造船技術とともに存続しており、武道プンチャック・シラットも、インドネシア、マレーシア、ブルネイ、シンガポール、ベトナムで現在も何百という流派を持ちながら存続している。詩パントゥンも日本の俳句や短歌という感じだろうか。メジャーではないとしても根強い愛好家がいるようである。

必ずしも広く世界に知られているわけではないが、貴重な地域の遺産を拾い上げている点に価値がある。

(4)国境を超えて守られる遺産

以上で登録されたものはすべてであるが、他国と連携しながら遺産登録を行うケースが、今回の木琴コリンタンや衣装クバヤ、2020年登録の詩パントゥン(マレーシア)にみられる。

東南アジアで現在みられるような国境は、植民地支配や近代国家の成立によって生まれたものなので、それ以前にはそうした境界は存在せず、各地域は、イスラームやヒンドゥー・仏教の伝播等と関連づけられ、相互に類似性を持っていた。

初期にインドネシア単独で登録されたワヤンやバティックも、インドネシアのみの伝統とは言い難い。ワヤンでいえば、マレーシアにもワヤンがあるし、カンボジアにはスバエクと呼ばれる影絵がある。バティックもインドネシアだけでなくマレーシアにもその伝統はある。

ロンボクにもまだまだある

ロンボクでいえば、イスラームやヒンドゥーとアニミズムとの混淆であるウェトゥテル信仰が無形文化遺産として挙げられる。ジャワの同様の混淆文化であるクジャウェンとあわせて、一つの大きな文化的伝統として位置づけ直してもいいかもしれない(ただ国の無形文化遺産には取り上げられていない)。

祭礼の際に村の中で行われるスティックファイティングのプレシアンも文化遺産であろう。上半身裸の男たちが棒と盾とを持って戦うものであるが、神に捧げる神事としての位置づけがクリアになると、その文化的な価値が明確になると思う。

9月に報告したマウリド・アダット・バヤンも文化的な価値は高い。イスラームがジャワを経由してロンボクに伝承した際に、その拠点として木造モスクが建てられるとともに、マウリドの生誕を祝う祭礼が持ち込まれた。それが土着化する中で現在、ジャワで行われる生誕祭とは日をずらして行われているのが、マルリド・アダット・バヤンである。ジャワで行われているマウリドも含めて、イスラーム祭礼の土着化の総体を評価できるといいと思う。

おわりに

ジャワ島の人口がインドネシアの総人口の6割程度を占める現在、文化遺産の選定においてもジャワ並びにバリが偏重される状況がみて取れる。

ジャワ・バリ以外にも数多く存在する文化遺産をどのように世界の舞台に送り出していくかは課題だと思う。

今回のインドネシアの登録は、ジャワ・バリに偏重した選定とみられてしまう状況を、他国と協調することで、東南アジア諸国の連携をアピールできた点に価値がある。

また(ジャワではあるが)地方の遺産であるレオグ・ポノロゴが、毎年数例しかない緊急保護の対象として承認されたことは、継承に向けた何らかの動きに結びつくのではないかと思う。

ただ国の無形文化遺産は1000件以上が指定されており、それだけ多くの遺産がある中で、なぜインドネシア側でそれが選ばれたのかは、よくわからない。1000件以上の遺産を総覧した上で、戦略的に今後の登録申請が考えられないといけないと感じる。241214


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