フローレス島リオ族の住まい
フローレス島のリオ族の住まいは、山口昌男『文化人類学への招待』(岩波新書1982)で初めて知った。
私の大学院生の頃はニューアカデミズムの終わりかけのような時期であったが、関連する本は一通り読んだし、季刊へるめす(岩波書店)なども目を通していたので、山口昌男は身近な存在であった。
当時は彼はまだ(?)文化人類学者として活動しており、彼の著作に刺激を受けながら文化人類学関連の本を読み漁っていた。
今回改めて『文化人類学への招待』を読み直してみたので、リオ族に関する部分を紹介しながら、リオ族の住まいに対する知識を共有したいと思う。
1.住居・集落の空間構成
まずはおさらい。
円環状の石積み広場を中心に、その周囲を住居が囲む形式か、川上/川下の方位を軸線にして平行に住居が並ぶ形式の集落が形成される。
巨大な氏族の中心住居Sao Riaが特徴的であるが、男性たちの溜まり場にもなる吹き放ちの納骨堂Bhakuや穀倉Keboもみられる。
住居は石あるいは木の太い床束の上に建てられる。居住空間を形成する箱が高さ1m程度の束の上に置かれるイメージである。棟木を支える棟持ち柱は、その箱の上端から立ち上がる。断面は、床下、床上、屋根裏の三層で構成される。
平面構成は、手前にテラスが置かれ、室内は前・中・後ろで構成される。真ん中の空間は吹き抜けで屋根裏につながる。
真ん中の空間で特徴的なのは、左右手前に配置される炉である。右の炉、左の炉と呼ばれ、それぞれ日常利用と儀礼時の利用とに対応する。ちなみに右・左は奥からみて右・左である。
また、mosalakiと呼ばれる土地の主を象徴する板benga tokoが、この真ん中の部屋の真ん中奥側に設置される。
2.集落の象徴性
(1)集落構成
リオ族には、ウルulu(頭)とエコeko(シッポ)という両極性を表す言葉があり、人間の世界は、頭とヘソとシッポになぞらえて理解するという。
集落の構成も、中心に立っている巨石柱がヘソとされ、集落の山側を頭、反対側をシッポとして認識する。
集落の広場には、巨石柱と環状石が設けられており、舞踏などが行われる。この柱と円のかたちは、天地・男女の結合の表現とみられることがある。
(2)集落の立地
リオ族の神話によると、最初の祖先は洪水の後に、船に乗ってこの地の聖なる山(レペンブス山)に流れ着いたとされ、かつて天と地は樹木でつながれていたが、天から赤豚がおりてきて村の作物を盗むので、その木を切ったという。その樹木は今もあるという。
また、できるだけもと住んでいた天とつながりがある近いところに住もうとしたので、丘の比較的高いところに集落を構えるようになったとされる。
(3)田畑にみる象徴性
焼畑によって畑を開墾する際、首長は朝まだ暗いうちに畑に赴いて、卵を畑の真ん中に一個埋め、その卵を竹をとがらせたもので、一回グサっとつき立てるという。
竹と卵は、ファロス(男根)と女陰を示し、この行為は天地の結婚の仕掛けとして説明される。こうして畑の中心が設定され、水と土、天と地が象徴的・儀礼的に一つになり穀物を実らせると考えられている。
また水田において、15mから20mの長さの竹が、ヘビの道として、水面に浮かべられる。実際にヘビが通るわけではなく、宇宙的な力を象徴するヘビのための道を作ることで、水田に大きな力を導き入れることにつながると考えられている。
3.住居の象徴性
住居は船のアナロジー、あるいは母親の身体のアナロジーとして語られる。
(1)船のアナロジーとしての住居
棟持柱を表すmanguという言葉は船のマストを意味する。また、入り口の正面には船のかたちをした装飾が施されている。儀礼の際に、屋根を船の帆と歌われることがあるという。さらに、正面の梯子を上ってベランダから中に入る入り口にも、正面と同様の船のかたちをした装飾が施されている。
住居の中に入ることは、船に乗り込むような感じである。
中央の部屋の奥に土地の主を象徴する板があるが、そこには船のかたちをしたしつらえがあり、お供物が載せられるようになっている。
住居の主柱は、かつて最初の祖先がこの島に来る時に乗っていた船の帆桁であったという言い伝えがある。
女性がお産の際に、竹で作った低い椅子上の台に座って子どもを産むが、その名称が、船の中で座る時に使う小さな台と同じ言葉で呼ばれている。
広場にある小屋の中には船のかたちをした棺が置かれている。
船のアナロジーが繰り返されるのは、船が人間を他の世界からここに導き、また他の世界へと導くからだという。
(2)母親の身体としての住居
真っ暗な住居内部は、母親の身体の内部だと説明される。
天井から一本の太い綱が吊るされており、先端に動物の角あるいは円形の板がぶら下げられているが、この綱は「へその緒」と呼ばれている。ぶら下げられている円板や角はへそと呼ばれる。
住居奥の部屋は頭、土地の主を象徴する板が胸、中央の部屋の入り口両脇にある炉が足、両側の小さな部屋が手と認識され、天井から下げられる綱にぶら下げられるへそとあわせて、住居全体が母親の身体を表すことになる。
妊婦は住居の中で子どもを産むが、生まれたばかりの子どもは、天井からぶら下がる「へその緒」の真下に置かれる。そのことで正しい位置で宇宙の中で生まれてきたことを示す。
死に際しても、息をひきとる段になると「へその緒」の下に寝かせられる。そのことで最終的に母体に戻っていくことが示される。(250113)
付記:
どうやら2012年にあった火災で多くの建物が消失したとのことで、現在あるのはその後の再建が多く、住民もおらず、イベントの際に使われるのみのよう。観光客の受け入れはしており、入場料(350円?)を払ってサロンを着用して見学はできるとのこと。