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アフリカ系エンタメ会社とディズニー共同作品『イワジュ』を鑑賞して学んだ、ナイジェリアのリアル
※本記事はアニメーション作品『イワジュ』本編と、
『イワジュ ストーリー誕生の裏側』というドキュメンタリー(ディズニー+独占配信)を踏まえた記事になります。
今回はディズニー+独占配信作品のアニメ作品『イワジュ』をご紹介いたします!
『イワジュ』はディズニープラス独占配信作品で、エピソード1話につき30分行かない程度、全6話です。
アフリカ系エンターテイメント企業"クガリ"とディズニースタジオの共同作品で、ナイジェリアのラゴスという都市を舞台に描いた物語です。
企画制作はクガリのオルフィカヨ・ジキ・アデオラ、ハミド・イブラヒム、トルワラキン・オロフォイエクが務めています。
一言で言うならば、テクノロジーSF作品。
高度な発明品に囲まれて便利な暮らしを送る富裕層と、空気の悪い街で貧しい暮らしを送る貧困層の対比を描いています。
どんな人におすすめ?
まずは日常を豊かにするロボットなどといった、テクノロジーの進歩に夢を膨らませることができる描写が多く登場します。
そういったワクワクさせられるような発明品に惹かれる方におすすめな作品です。
他のアニメーション作品で言うと、
『ベイマックス』
『ロン 僕のポンコツ・ボット』
といった作品が好きな人におすすめです。
また、物語の雰囲気としてMCUの『ブラックパンサー』がかなり近い感じがしたので、
アフリカの暮らしと、高度なテクノロジーの融合といった世界観に惹かれる方に大変おすすめです。
他の要素としては、
詳しくは後述しますが、アフリカ出身の当事者だからこそ描ける貧富差が丁寧に描写されています。
ディズニー社だけではどうしても第三者的立ち位置で止まってしまうところですが、クガリが加わることで、そこからもう一歩踏み込めている感じがしました。
そういった異国の生活環境や文化、
今までディズニー社が作ってきた作品とは少し味の違う作品を楽しんでみたいコアなディズニーファンにもおすすめです。
また、海外旅行に行きたいけれど、治安や金銭面などに不安があるという人にも、
映画を通して現地の暮らしに触れられる体験ができるため、
おすすめだと思いました。
作品概要
主人公のトーラは、エンジニアの父ツンデの一人娘で、大都市の大きな屋敷で暮らしています。
そんな主人公の友人は、子供でありながら学校に通えず、トーラの屋敷に仕えることでお金を稼いでいる貧しい少年、コレ。
トーラは貧富の差に関係なく、人々の良い面を見出して平等に接することのできる子で、少しおませな一面もあります。
そんな中で街を騒がせているのが、子供を誘拐して身代金を要求するという事件。
そんな事件が多発する中、悪者の魔の手がトーラにも襲います。
父のツンデと少年コレが手を組み、ツンデの発明品であるトカゲ型の護衛ロボットを使いながら、
誘拐されてしまったトーラを助けに向かうという物語です。
少年コレは、貧しいながらも非常に頭が良い子で、物語のキーとなるキャラクターです。
また、主人公の女の子トーラは、生まれながらに裕福で、一度も貧困層の暮らしを見たことがないというキャラクターですが、
作品の中で庶民の暮らしに触れるという体験をします。
そこでトーラは自分との生活差にショックを受けるのではなく、
市場の人々の活気を感じたり、庶民が口にする食べ物を躊躇なく試してみたりと、
前向きに、ただただ純粋に、相手の生活を知ろうとする気持ちが強い子だなぁと思ったのが印象に残っています。
トーラもかなり賢い子なのですが、単に賢いだけでなく、
分け隔てなく、偏見も抱かずに、好奇心を持って他者と接することのできる、
強くて優しい子でもあり、個人的にとても魅力的なキャラクターだと思っています。
当事者が手掛けるからこそリアルに描ける貧富の差
ナイジェリアで実際に問題になっている事柄を、当事者視点で詰め込んだ作品というだけあり、物語の中にはリアリティが詰まっていました。
「アフリカ人の物語はアフリカ人の手で描きたい」と打倒ディズニーを掲げたアフリカ系クリエイターのもとに、
「ストーリーテリングはよりリアルで、独創的であるべき」と考えていたディズニー社がコンタクトを取ったところから、本作品のプロジェクトが始まりました。
当時ディズニーから電話が来た時は、いたずらなんじゃないかと思ったそうです。
物語のメインとなる設定は、
持たざる者(発展途上のメインランド)と、持つ者(豊かなアイランド)の対比と、
ナイジェリアで社会問題となっている、子どもの誘拐に関する事件です。
上記2点について、1つずつ触れていきます。
持たざる者と持つ者
主人公のトーラは生まれたときから豊かな生活をしていました。
クガリのアニメーターのうちのひとりに、実業家の父親の家系で育った方がいらっしゃったとのことで、
そんな父親からインスピレーションを得て、トーラの父ツンデが誕生しました。
ツンデは、かつて発展途上のメインランドで暮らしており、
貧しい暮らしを知っていました。
自分の発明品を売り込み、自分の力で生きていくために努力して、今の生活や地位を築いた人です。
一方本作のヴィランは、貧しい家柄出身であり、貧困であることを盾にしながら、裕福な家庭から子供を誘拐しては、身代金を要求するという活動をしています。
貧しい少年コレは、母親の病気なども相まってその貧しい暮らしを抜け出すことができません。
それこそ誰もが病気になってしまうような不便な暮らしと、空気の悪い環境で暮らしています。
そこに悪者が目を付けて、コレを利用するのです。
こういった、
・成功を掴んだ一握りの人間
・負の連鎖から抜け出せない人間
・貧困を火種に悪事へ走る人間
彼らがナイジェリアの暮らしを知る当事者の手によって描かれています。
また、制作陣のインタビューでは、
「ナイジェリアの人々は、自分の子に医者やエンジニアになってほしいと思っている」
と発言していました。
作品の中で、少年コレも将来は医者になりたいんだという言及がありましたが、
コレは、本当はものを修理することが得意で、ツンデのようなエンジニアに向いていました。
本人もそれを自覚しており、モノ作りに楽しさを感じています。
母親の病気があり、コレも周囲の大人の期待に応えるような発言をしていたのだと思います。
社会問題とされている子どもの誘拐事件
ナイジェリアでは、治安の悪さなど様々な要因から、誘拐事件が多いという社会問題を抱えています。
作品中、ツンデのシミュレーションで、子供が誘拐されそうな中でトカゲのロボットが助けることができるか、といったシチュエーションのテストをおこなっていますが、
こちらのシーンは実際の体験に基づいたシーンだそうです。
また、2014年にナイジェリアのチボクという場所で、
少女200人以上が誘拐される事件が実際に起きました。
「政府の不正と戦う」という名目で子どもを拉致した過激派による事件で、
『イワジュ』のヴィランが、子供の誘拐を正当化している考え方に類似するものがあります。
このように、誘拐事件がより身近にある環境を知っているからこそ描けるような、
登場人物どうしの立場と関係性・思想が、『イワジュ』では描かれていると感じました。
第三者のディズニー社ではなく、
クガリの彼らを交えて作品を創り、世の中へ発表することで、
日本に住む我々も、生身のナイジェリアの生活や思想・文化に触れることができる作品に仕上がっています。
最後までいっきに見てしまうくらい引き込まれたのと同時に、
いまの自分の暮らしと、彼らの暮らしについて考えさせられました。
ちなみに私が心に残ったシーンは、少年コレが、画面がバキバキに割れたスマホを直しながら大事に使っているシーンと、
メインランドの貧しい暮らしに触れたトーラが、周囲の人間を憐れんだり、悲観したり、自信の立場に驕ったりせず、親切心から飲み物を分け与えたシーンです。
メインランドに行ったトーラが「最高の日」と感想を述べていたのも印象的でした。
高度なテクノロジーと融合したアフリカの街並み
続いては、本作の魅力の一つである、高度なテクノロジーと融合したアフリカの街並みについて考えていきましょう。
トーラのお庭にある植物や、建物の素材・デザイン、人々の服装、食べ物、肌の色に至るまで、ナイジェリアの文化をこれでもかと織り交ぜて制作されています。
ロボットの物売りとナイジェリアの実態
中でも印象に残ったのは、空を飛ぶ車に乗ったトーラの周りに、
押し売りするロボットたちが寄ってたかって集まるシーンです。
これは、ナイジェリアの日常としてよくあることだそう。
車が道で渋滞を起こしていると、その合間を縫うように徒歩などでもの売りが集まってきて、車に乗っている人々にものをセールスする光景が頻繁にみられると、製作者は語っています。
そういった光景をそのまま描くのではなく、
物売りをロボットに変えたり、富裕層の人々が乗る車に空を飛ぶことのできる設定を付加したりと、ファンタジー的に描くことで、
観客にワクワク感を与えつつも、リアリティも忘れないという名シーンになっています。
特にこの辺りで、『ブラックパンサー』っぽいな~と個人的に感じた部分でした。
まとめ
今回は、アフリカ系エンターテイメント企業"クガリ"とディズニースタジオの共同作品『イワジュ』を取り上げてみました。
貧富の差と社会問題を色濃く描いた『イワジュ』。
興味を少しでも持ってくださった方は、是非ディズニープラスでご覧ください。
一見シリアスそうに感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、
主人公の性格の明るさや、トカゲ型ロボットが良いアクセントになっていて、作品全体が重くなりすぎず、テンポよく進むところもポイントです。
ただ、扱っているテーマがしっかりしているだけあり、
比較的ギャグ要素は少ない作品ではあると思いました。
アメリカ人には描くことのできない、
ナイジェリア人による、ナイジェリア人の物語です。
かなり長くなってしまったので、
一旦まとめとして終えたいと思います。
本記事をきっかけに、
是非『イワジュ』を鑑賞していただけたら嬉しいです!
●本作品に関連する付録記事はこちら!
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