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かわいい放送局でメーカーを追い抜く社長さんの話
よい製品が売れる時代は終わったのか。コロナ禍で新たな船出を決断される社長さんの話を書く。
商品がよくてもプロモーションできないと広がらない。これはマーケティングの原則だ。マーケティングが上手すぎると新しいビジネスモデルを産み出すきっかけになるようだ。
手渡しで販売する代理店事業
とあるメーカーの代理店さん。競合メーカーの製品は取り扱いを禁じられている。しかも口コミが主たる販売方法でネット通販などは禁止されている。
私は昔からコンピューター業界。ネット通販できない事業など大きくはならない。お付き合いは10年以上で長くなるが販売代理店の社長さんはかたくなにその方法を貫いていらっしゃった。
その販売方法は人につくからマニュアル化もできないのだそうだ。育てるための研修はたくさんあれど多くの方が社員ではなく副業で参加するこの事業は各人の営業成績は浮き沈みが大きい。
私はかねてから人海戦術のこのルールでは大儲けできないことをシミュレーションするまでもなく感じていた。もろもろの人材を育てるビジネスモデルもやはり人海戦術なのだから売上額は限界が来る。
代理店ビジネスはコンピューター業界、IT業界では主流のビジネスの一つ。でもネット通販できないなんてありえない。ソフトウェア販売はリアルな在庫を抱える商売と比べても限界近くまで効率化できるもの。その流通量は相当大きくできる。でもやっぱりそこにはプロモーション力や売れた後のサポートなどで限界が出てくる。
こういう事業では代理店の契約モデルも重要。一番強いのは独占販売権。例えば日本国内で自社だけが販売できるという契約がそれ。この交渉権を得るのが事業を起こすうえで重要な位置づけともなる。でも後発でそのメーカーに販売代理権をもらうときはたいていは競合となる販売会社がたくさんいるもの。そこに他社を取り扱えないなどの条件が加わるとできることがかなり狭まってくる。契約内容は大きく販売代理店の行動範囲を狭める。
ネットで流通させることを禁じる商品は一定数存在する。口コミで販売することや人と人の信頼で売る製品を販売代理業をする女性に託す会社はたくさんある。代表的な例は生保レディーだ。
コロナ禍で浮かび上がる問題
ただ、コロナ禍ではとある問題が起こる。接客と口コミが原則だったこのメーカーの生態系全体が傾く。コロナ禍だから接客ができない。売り上げが下がり廃業する代理店も多くなる。
この販売代理店ではタブーとされた領域のネット通販など他の売り方も珍しく考える。そんな中、新たな接客方法としてオンライン会議ツールを考えた。
見よう見まねでZOOMを使って便利だねと感じるがぶつぶつ切れるのだそうだ。もう少しまともにITの投資をしなさいと数千円もかからない有線LANをその販売代理店に敷設する。「会議とかばっちり!」と喜んだ。
CMも打たず、口コミで広がっていた生態系だったが、この販売代理会社はITにどんどん投資をされていった。
もともとかわいい子がお客様に多いこの販売代理会社はよきクオリティの動画を作るようになった。編集などはそんなにまだバリバリやっているわけではない。今時のスマホのアプリでちょっと盛る程度だ。
でもかわいい子というコンテンツを持っているこの企業はどんどん発信力が増えていった。
一方で、販売店の口コミ向けにチラシを配っていたメーカーは、ようやくデジタル会議から動画プロモーションにも力を入れ始めたようだ。この動画使ってください!ととある動画が配られた。
その動画を見たときに戦慄が走った。
かわいくないのだ。
センスの違い
当たり前と言えば当たり前なのだが。売る力が強い方は何の商材を持たせても強い。商売になる。
しかしかたくなに商売を規制された中で売り上げを上げていたこの社長さんは会社が立ち行かなくなる時にようやく決断をした。
売るセンスがない企業に力を割くのは辞めよう。
要はこうだ。
売り上げが上がっているときはよい。でも下がっているときに売り方まで規制されていることで問題が発生する。しかしその生態系のメーカーさんは例えばCMをテレビで流すとか、タレントさんを起用してプロモーションをするということをしてこなかった。
販売代理店さんの販売力、人間力に頼っていたわけだ。
しかし販売代理店さんにはかわいい販売員さんがたくさんいる。この子たちを撮影するだけでコンテンツになるのだ。そして今時スマホで動画を作る女の子もたくさんいる。テレビ局もびっくりするような編集をするYouTuberが台頭している時代だ。
この社長さん、短時間の映像ではあるが、映画館を借りて放映する作品を作ることまで実践した。
かわいい子がいるのだから、かっこいいダンスを披露するチームもいる。
事務所の一角を動画撮影室に改造した。
ちょっとしたローカルテレビ局になりそうな勢いだ。
そうしてプロモーションをとことん突き詰めた社長さんが、メーカーから渡された動画を見たときこう思った。「センスがない」
頼らない
社長さんは、この製品を主とした事業は粛々と実施するとして、別の事業をすると決断した。なぜなら一緒に沈没するから。
コロナ禍であらわになった生存本能。
かわいいを発信できるくらいのコンテンツ力、メディア力があるときはどんな事業でもできるのではないだろうか。
よい製品でもプロモーションができなければ売れない。
今回は逆になる。よいプロモーションができるなら製品は選び放題。
これ当たり前なんだが実践できる方は少数。コンピュータで動画を作る作り方なんかは教えてあげらるが、実際のコンテンツを作りこめる方はレア。本当に作りこめるならこの方は広告業にさえなりえる。
能ある鷹は爪を隠す
眠っていた虎が起きた