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天命の夜 #1

ー伽藍堂 その2ー








人間には"本質"というものがある

人を人たらしめる、宿命そのもの

しかし人間というのはその肝心な"本質"に触れることはできない

触れてはいけない

なぜかって?

ほら、知らぬが仏って言うでしょ?



…………人が"本質"に触れると

それは欲望となり

欲望は抑えることの出来ない衝動へと変わる

だから触れられないように出来てる


でもね?

この世には良品だけが存在するわけじゃない

良品が存在すれば、必然と欠陥品も生まれるものでしょう?









"俺には聞こえる。死を望む、心の叫びが"




夜の帷が落ち、街が静寂に包まれる頃……




女:はぁ…はぁ…はぁ…!



走る、ひたすらに走る……命を繋げるために



女:はぁ…はぁ…こ、ここまでくれば!



安堵と同時にやってきた鋭い痛み



女:……え?



腑が抉れるような痛み、腹部から綺麗な赤で染まっていく

振り返ると、そこには不敵な笑み



女:あぁ……あ"ぁ"ぁぁぁぁあ!!!



嫌だ、嫌だ、嫌だ、死にたくない、死にたくない

しかし"殺人鬼カレ"が止まることはなく

その得物ナイフは無情にも彼女に振り下ろされる

何度も、何度も、何度も、何度も……



殺人鬼:あはっ!……あははははははは!!!


女:…………ぁ…ぁ……………………



視界が薄れていく……何も…感じない

あぁ…これが死か

命が……………途絶える



殺人鬼:…あ?もう動かないの?


女:………………


殺人鬼:どいつもこいつもさぁ!



動かなくなった体躯に再度、振り下ろす



殺人鬼:もっと…!耐えてくれよっ!



静かな世界に"殺人鬼"カレの嘆きが轟く



やっと深い眠りにつける……その矢先

鬱陶しいほど聞き馴染んだ音が耳元で鳴り響く


○○:……朝か…


ここ最近、あまりよく寝れてない……

重たい体を起こし、カーテンを開く

今日は天気がいいらしい

暗闇に慣れたこの眼では、眩しすぎるほど


○○:準備しないと


身支度をすませ学校へ向かう

学校は嫌いじゃないが、憂鬱な気分だ

いつもの通学路

……そろそろ来るか


??:おっはよー!!!

○○:……うるさい

??:第一声が「うるさい」だとっ!?


こいつは大原圭吾。

僕の幼馴染で腐れ縁

まぁ、いい奴ではある


圭吾:そういや、朝のニュース見た?

○○:…いや、見てない

圭吾:また殺人だってよ、こえー…最近物騒すぎない?

○○:……

圭吾:ん?聞いてんのかー?

ひかる:あっ、おはよ

圭吾:んあ?おー森田か、おはー

○○:っす……


森田ひかる。

同じクラスでよくつるんでる

…相変わらずちっちゃいな


ひかる:○○くん、今ちっちゃいって思ったね?

○○:こわ、なんでわかんの

ひかる:なんででしょうねぇ〜

圭吾:なぁ、森田は朝のニュース見た?

ひかる:うん…連続殺人でしょ?

圭吾:そう!おっかねーよな…

ひかる:しかも被害者が女性しかいないってのもね…

圭吾:森田も気をつけろよ?

ひかる:私は夜出かけないし…

○○:………


動揺しているのかって?

まさか、だって僕じゃない

やったのは……

"殺人鬼"オレなんだから


ひかる:○○くん?

○○:…ん?

ひかる:また寝不足?

○○:そうかもね

ひかる:ちゃんと寝ないと…

圭吾:ひとりじゃ寝れなくなったか?
一緒に寝てやってもいいぞ?

○○:だまれ…

圭吾:ひどくない!?



学校も終わり、皆てんでに解散していく

はやく帰ってもいいが特にすることもない

惰性で毎日を生きてる

こんな人生意味なんてあるんだろうか


ひかる:○○くん…今日一緒に帰らない?

○○:あれ?友達と帰らないの?

ひかる:うん、用事があるらしくて


まぁいいか

こんな日があっても


○○:いいよ

ひかる:ホント?やった…

○○:ん?なんか言った?

ひかる:いや!なんでもないよ…



別にこれといった会話もなく

ただ時だけが進んでいく


○○:……

ひかる:……


でも気まずい感じはしないな

そう不思議な空気感に漂っていると


ひかる:ねぇ、○○くんってさ好きな人とかいるの?

○○:いない

ひかる:そ、即答……

○○:好きって感情がよくわからん

ひかる:……そっか…


ちょっと気まずくなったかな

ふと、彼女の匂いが香る



ドクンっ……



一瞬、心臓が跳ねる

いい香りだな

殺してやりたいくらいに


ひかる:○○くん?私の顔に何かついてる?

○○:え?

ひかる:…あんまジッと見ないでよ…照れる

○○:ごめん…


なんてしていると森田の家の前

こんな近かったっけ?

誰かと一緒に帰るってこういうことなんだな


ひかる:じゃあね、今日はありがとう

○○:うん、また


彼は背を向けて歩いていく

私はそれをただ見つめることしか出来なかった


ひかる:…なにしてんだろ、私……



夜は深く、日付が変わる頃

ベッドで彼は眠りにつく

今日はゆっくり寝れるな……


……そんなわけないだろ



ドクンっ…!



あぁ…まただ

心臓が跳ねると同時、溢れ出る衝動

気づけば体は、深い夜の中へと溶け込んでゆく


"殺したい、殺したい、殺したい!"


違う、これは僕じゃない

こんな事したくないんだ


"受け入れろ、これがお前だ"


そんなのは信じない

僕は"殺人鬼オマエ"じゃない



只々、徘徊する

死の匂いを辿って

暗闇には人々の絶望が漂う

俺はそれを無我夢中に殺す

だが今日は妙な雰囲気を感じる

ふと、一人が目に留まる

本日の主菜メインディッシュは生きる意味を失ったあの女

足早に近づく、気配なんて消すつもりも無い


??:……えっ?…っ!?


女がこちらを振り向いた瞬間、思い切り突き飛ばしその華奢な体に馬乗りをする


??:…いったぁ……あっ


得物ナイフを振り下ろし、女の喉に突き刺すその瞬間


??:えへへっ、やっと見つけた

殺人鬼:は?


刃先が喉元で停止する

なんで……笑ってる?この女は

死の淵に立たされてそんな表情をする奴なんて一人もいない

どれだけ死を望んでいようが、いざそれを目の前にすると人は恐怖を感じる

表情なんてぐしゃぐしゃに崩れるはずだ

なのにこの女は


??:どうしたの?殺してよ……でも痛くはしないでね?

殺人鬼:…あ……ぁ……

??:…ほら、はやくぅ


そういうと女は得物ナイフを持っている手を両手で掴み、喉へと進めていく

その時、殺人鬼カレの中でなにかが


殺人鬼?:あぁ……あ"ぁ"ぁ"ぁぁあ!!!


両手を振りほどき、馬乗りを解除する

そのまま後ろへと逃げるように地を這う

女はゆっくりと立上り、歩みを進める


??:大丈夫?凄い冷や汗かいてる……

殺人鬼?:く、くるなっ!バケモノ!!!

??:バケモノ?私が?…誰が言ってんのさ
私はただ君のこと心配してるだけなのに……


なんで?なんでなんでなんでなんでなんでなんで

殺そうとしてきた相手の心配だと?

ありえない…そんな事ありえてはいけない!

女は歩みを止め、僕に手を差し伸べる

その手には悪意などなく、ただ優しさがあった

俺はそれにとてつもなく……嫌悪感を抱いた


殺人鬼?:うわぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"!!!

??:っい…!


がむしゃらに振り回した得物ナイフが差し伸べてくれた手を切りつける

傷は深くないが、女の手からは血が流れる


??:…ねぇ

○○:っ!?

??:痛いんだけど……君って痛めつけながら殺すタイプなの?

○○:……

??:でもこの痛みも…実は嬉しかったりするんだよね

○○:な、なんで?

??:私がこの世に存在してるって証拠だから


軽く止血をしながら彼女はそう言った

訳が分からない

死にたいのか生きていたいのか

理解しようとすると頭が張り裂けそうになる


??:それに……君が私を見つけてくれた

○○:それはどういう?

??:えへへっ


彼女はその問いにただ笑うだけだった

だけど、その笑顔はどこか……


??:私は大園玲、君は?

○○:久我○○……

玲:久我○○くんかぁ……高校生でしょ?

○○:なんでわかんの……

玲:見た目かな?若いもん

○○:大園さんは?

玲:……まぁ、そんなこといいじゃん!

○○:なんでだよ……

玲:あと大園さんじゃなくて、玲って呼んでよ

○○:玲……

玲:えへっ、○○〜


距離感がバグってる

初対面でしかも殺そうとしてきた人間だぞ?

ホントに訳の分からない人だ


玲:○○が私のこと殺してね

○○:……

玲:いつまでも待ってるから

○○:…勘弁してくれ


いつもと違う暗闇の中

そんな言葉を吐き出した



鬱陶しいほど聞き馴染んだ音が耳元で鳴り響く

重い瞼を開けながら体を起こそうとすると

右手に柔らかい感触

まるで女性の体に触れたような

……そうか、そうだった


玲:ん〜…ぅあ?……あ、おはよぉ…えへへ

○○:…はぁ、最悪だ……


この妙な関係の二人

あの夜はただの始まりに過ぎなかった…



久我○○、本質・・・"■■"



to be continued…

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