天命の夜 #1
ー伽藍堂 その2ー
人間には"本質"というものがある
人を人たらしめる、宿命そのもの
しかし人間というのはその肝心な"本質"に触れることはできない
触れてはいけない
なぜかって?
ほら、知らぬが仏って言うでしょ?
…………人が"本質"に触れると
それは欲望となり
欲望は抑えることの出来ない衝動へと変わる
だから触れられないように出来てる
でもね?
この世には良品だけが存在するわけじゃない
良品が存在すれば、必然と欠陥品も生まれるものでしょう?
"俺には聞こえる。死を望む、心の叫びが"
夜の帷が落ち、街が静寂に包まれる頃……
女:はぁ…はぁ…はぁ…!
走る、ひたすらに走る……命を繋げるために
女:はぁ…はぁ…こ、ここまでくれば!
安堵と同時にやってきた鋭い痛み
女:……え?
腑が抉れるような痛み、腹部から綺麗な赤で染まっていく
振り返ると、そこには不敵な笑み
女:あぁ……あ"ぁ"ぁぁぁぁあ!!!
嫌だ、嫌だ、嫌だ、死にたくない、死にたくない
しかし"殺人鬼"が止まることはなく
その得物は無情にも彼女に振り下ろされる
何度も、何度も、何度も、何度も……
殺人鬼:あはっ!……あははははははは!!!
女:…………ぁ…ぁ……………………
視界が薄れていく……何も…感じない
あぁ…これが死か
命が……………途絶える
殺人鬼:…あ?もう動かないの?
女:………………
殺人鬼:どいつもこいつもさぁ!
動かなくなった体躯に再度、振り下ろす
殺人鬼:もっと…!耐えてくれよっ!
静かな世界に"殺人鬼"の嘆きが轟く
◇
やっと深い眠りにつける……その矢先
鬱陶しいほど聞き馴染んだ音が耳元で鳴り響く
○○:……朝か…
ここ最近、あまりよく寝れてない……
重たい体を起こし、カーテンを開く
今日は天気がいいらしい
暗闇に慣れたこの眼では、眩しすぎるほど
○○:準備しないと
身支度をすませ学校へ向かう
学校は嫌いじゃないが、憂鬱な気分だ
いつもの通学路
……そろそろ来るか
??:おっはよー!!!
○○:……うるさい
??:第一声が「うるさい」だとっ!?
こいつは大原圭吾。
僕の幼馴染で腐れ縁
まぁ、いい奴ではある
圭吾:そういや、朝のニュース見た?
○○:…いや、見てない
圭吾:また殺人だってよ、こえー…最近物騒すぎない?
○○:……
圭吾:ん?聞いてんのかー?
ひかる:あっ、おはよ
圭吾:んあ?おー森田か、おはー
○○:っす……
森田ひかる。
同じクラスでよくつるんでる
…相変わらずちっちゃいな
ひかる:○○くん、今ちっちゃいって思ったね?
○○:こわ、なんでわかんの
ひかる:なんででしょうねぇ〜
圭吾:なぁ、森田は朝のニュース見た?
ひかる:うん…連続殺人でしょ?
圭吾:そう!おっかねーよな…
ひかる:しかも被害者が女性しかいないってのもね…
圭吾:森田も気をつけろよ?
ひかる:私は夜出かけないし…
○○:………
動揺しているのかって?
まさか、だって僕じゃない
やったのは……
"殺人鬼"なんだから
ひかる:○○くん?
○○:…ん?
ひかる:また寝不足?
○○:そうかもね
ひかる:ちゃんと寝ないと…
圭吾:ひとりじゃ寝れなくなったか?
一緒に寝てやってもいいぞ?
○○:だまれ…
圭吾:ひどくない!?
◇
学校も終わり、皆てんでに解散していく
はやく帰ってもいいが特にすることもない
惰性で毎日を生きてる
こんな人生意味なんてあるんだろうか
ひかる:○○くん…今日一緒に帰らない?
○○:あれ?友達と帰らないの?
ひかる:うん、用事があるらしくて
まぁいいか
こんな日があっても
○○:いいよ
ひかる:ホント?やった…
○○:ん?なんか言った?
ひかる:いや!なんでもないよ…
◇
別にこれといった会話もなく
ただ時だけが進んでいく
○○:……
ひかる:……
でも気まずい感じはしないな
そう不思議な空気感に漂っていると
ひかる:ねぇ、○○くんってさ好きな人とかいるの?
○○:いない
ひかる:そ、即答……
○○:好きって感情がよくわからん
ひかる:……そっか…
ちょっと気まずくなったかな
ふと、彼女の匂いが香る
ドクンっ……
一瞬、心臓が跳ねる
いい香りだな
殺してやりたいくらいに
ひかる:○○くん?私の顔に何かついてる?
○○:え?
ひかる:…あんまジッと見ないでよ…照れる
○○:ごめん…
なんてしていると森田の家の前
こんな近かったっけ?
誰かと一緒に帰るってこういうことなんだな
ひかる:じゃあね、今日はありがとう
○○:うん、また
彼は背を向けて歩いていく
私はそれをただ見つめることしか出来なかった
ひかる:…なにしてんだろ、私……
◇
夜は深く、日付が変わる頃
ベッドで彼は眠りにつく
今日はゆっくり寝れるな……
……そんなわけないだろ
ドクンっ…!
あぁ…まただ
心臓が跳ねると同時、溢れ出る衝動
気づけば体は、深い夜の中へと溶け込んでゆく
"殺したい、殺したい、殺したい!"
違う、これは僕じゃない
こんな事したくないんだ
"受け入れろ、これがお前だ"
そんなのは信じない
僕は"殺人鬼"じゃない
◇
只々、徘徊する
死の匂いを辿って
暗闇には人々の絶望が漂う
俺はそれを無我夢中に殺す
だが今日は妙な雰囲気を感じる
ふと、一人が目に留まる
本日の主菜は生きる意味を失ったあの女
足早に近づく、気配なんて消すつもりも無い
??:……えっ?…っ!?
女がこちらを振り向いた瞬間、思い切り突き飛ばしその華奢な体に馬乗りをする
??:…いったぁ……あっ
得物を振り下ろし、女の喉に突き刺すその瞬間
??:えへへっ、やっと見つけた
殺人鬼:は?
刃先が喉元で停止する
なんで……笑ってる?この女は
死の淵に立たされてそんな表情をする奴なんて一人もいない
どれだけ死を望んでいようが、いざそれを目の前にすると人は恐怖を感じる
表情なんてぐしゃぐしゃに崩れるはずだ
なのにこの女は
??:どうしたの?殺してよ……でも痛くはしないでね?
殺人鬼:…あ……ぁ……
??:…ほら、はやくぅ
そういうと女は得物を持っている手を両手で掴み、喉へと進めていく
その時、殺人鬼の中でなにかが
殺人鬼?:あぁ……あ"ぁ"ぁ"ぁぁあ!!!
両手を振りほどき、馬乗りを解除する
そのまま後ろへと逃げるように地を這う
女はゆっくりと立上り、歩みを進める
??:大丈夫?凄い冷や汗かいてる……
殺人鬼?:く、くるなっ!バケモノ!!!
??:バケモノ?私が?…誰が言ってんのさ
私はただ君のこと心配してるだけなのに……
なんで?なんでなんでなんでなんでなんでなんで
殺そうとしてきた相手の心配だと?
ありえない…そんな事ありえてはいけない!
女は歩みを止め、僕に手を差し伸べる
その手には悪意などなく、ただ優しさがあった
俺はそれにとてつもなく……嫌悪感を抱いた
殺人鬼?:うわぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"!!!
??:っい…!
がむしゃらに振り回した得物が差し伸べてくれた手を切りつける
傷は深くないが、女の手からは血が流れる
??:…ねぇ
○○:っ!?
??:痛いんだけど……君って痛めつけながら殺すタイプなの?
○○:……
??:でもこの痛みも…実は嬉しかったりするんだよね
○○:な、なんで?
??:私がこの世に存在してるって証拠だから
軽く止血をしながら彼女はそう言った
訳が分からない
死にたいのか生きていたいのか
理解しようとすると頭が張り裂けそうになる
??:それに……君が私を見つけてくれた
○○:それはどういう?
??:えへへっ
彼女はその問いにただ笑うだけだった
だけど、その笑顔はどこか……
??:私は大園玲、君は?
○○:久我○○……
玲:久我○○くんかぁ……高校生でしょ?
○○:なんでわかんの……
玲:見た目かな?若いもん
○○:大園さんは?
玲:……まぁ、そんなこといいじゃん!
○○:なんでだよ……
玲:あと大園さんじゃなくて、玲って呼んでよ
○○:玲……
玲:えへっ、○○〜
距離感がバグってる
初対面でしかも殺そうとしてきた人間だぞ?
ホントに訳の分からない人だ
玲:○○が私のこと殺してね
○○:……
玲:いつまでも待ってるから
○○:…勘弁してくれ
いつもと違う暗闇の中
そんな言葉を吐き出した
◇
鬱陶しいほど聞き馴染んだ音が耳元で鳴り響く
重い瞼を開けながら体を起こそうとすると
右手に柔らかい感触
まるで女性の体に触れたような
……そうか、そうだった
玲:ん〜…ぅあ?……あ、おはよぉ…えへへ
○○:…はぁ、最悪だ……
この妙な関係の二人
あの夜はただの始まりに過ぎなかった…
久我○○、本質・・・"■■"
to be continued…
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