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櫻蕊降りて恋を成す〜森田ひかる〜

“おい!ひーちゃんをいじめるな!”



あぁ…またこの夢か
古い記憶?思い出?

いや、そんなもので括りたくはない

鮮明に覚えている。これは━━━━━━━━━━━


チュンチュン…


ひかる:…………朝か…


重たい体を起こし、カーテンをひらく

今日は晴れ。幸先がいい


ひかる:……○○…


口から自然とこぼれた……この街にまだいるかな?



会いたいよ……


ひかる母:ひかるー!早く起きなさーい!転校初日から遅刻するわよー!

ひかる:…はーい!起きてるよー!


手早く身支度をすませ、階段を下る

リビングには朝食を準備し終えた母と新聞紙を広げている父がいた


ひかる母:ちゃちゃっと食べちゃって…ってひかるなんで泣いてるの?

ひかる:……えっ?


頬に触れると一筋の涙が流れていた


ひかる:あれ?おかしいな……なんで?

ひかる父:大丈夫か?やっぱり学校は……

ひかる:だ、大丈夫だよ!心配しないでお父さん…

ひかる母:無理しちゃダメよ?

ひかる:…うん


朝食をすませ、家を出る

学校までの道のりは学生で溢れていた

…無数の視線が突き刺さる


女子A:あんな子うちにいたっけ?

女子B:今日、転校生が来るってきいたけどあの子なんじゃない?

男子A:めちゃくちゃ可愛くね?

男子B:たしか2年のA組だったよな?羨ましっ!


いやだ、みないで、こわいよ……こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい



私は……その視線が嫌い


〜〜


佐藤:今日は転校生が来るぞ!!!

○○:うるせぇ!耳元で騒ぐな


2年A組のHR。いつもより少し賑やかだ


佐藤:転校生が○○のクラスじゃないからって拗ねんなよ〜笑

○○:拗ねてねぇからな

佐藤:噂によると……めっちゃかわいいらしい!

○○:はいはい、よかったねー


転校生か……興味が無いと言えば嘘になるが…

かと言って関わりを持とうとも思わない


○○:ん、じゃそろそろ教室に戻るわ

佐藤:おっ、もうそんな時間か…じゃあな!

○○:ほーい


2年A組の教室を出る

すると、どこからか懐かしい雰囲気を感じとった


○○:ん?なんだこの感覚……



〜〜


2年A組……ここが私の新しい居場所になるのかな?

それともまた…………いや、今はそんなこと考えるな


担任:おーい!入ってきてー!


ガラガラガラ…


佐藤:お、おぉ…美しぃ(ボソッ

担任:じゃ、自己紹介よろしく!

ひかる:は、はい……も、森田ひかるです…今日からよろしくお願いします


ガヤガヤガヤ…


担任:はいはい静かにしてー、とりあえず森田はあの席に座ってもらって

ひかる:はい、わかりました

担任:よし!お前ら仲良くしてやれよー



〜〜



女子C:ねぇ森田さん!ちっちゃくて可愛いね!身長いくつ?

女子D:なにか分からないことあったらいつでも声かけてね!

ひかる:え、えーと……


ガヤガヤガヤ


佐藤:…………

○○:おい、佐藤

佐藤:………………

○○:佐藤ぉ!

佐藤:はっ!すまない、森田さんを見ようと必死で…

○○:森田?あぁ転校生か、下の名前は?

佐藤:ひかる

○○:ひかる……?

佐藤:今、女子で囲われててあんま見えねぇけどすげぇ綺麗で可愛いんだよ!……ってどうした?

○○:ひかる…(ボソッ

佐藤:え?なになに?

○○:いや、なんでもない


森田ひかる……どこかで………………


佐藤:森田さんって彼氏いんのかな?

○○:もう狙ってんのかよ

佐藤:いやいや、気になっただけだよ





あぁ…くるしい、こわい

たくさんのひとがわたしをみてる



私はいわゆる対人恐怖症というやつらしい

過去にトラウマがあるから、なるべく人とは関わらないし関わって欲しくない

どうせ私と一緒にいてもいいことなんて何も無いから


ひかる:そ、その…えっと……


上手く言葉が出てこない

だけどそんな事お構い無しにみんな喋りかけてくる

晴れていたはずの空が曇り始める


もうやめてやめてやめてやめてやめて…やめてよ!


目を見たくない、見られたくない

視界が開けている場所へ目をそらす



ひかる:…………えっ?……………………○○?


その存在を消し去るように、予鈴が鳴り響く


○○:っ!?やっべ、教室戻らねぇと

佐藤:ほーれ、急げ急げ笑


ひかる:あっ…………

先生:お前ら席に着け、授業始めるぞ


気のせいじゃない、あれはたしかに○○だった

忘れるはずない、あの人は私をあの日々から…………


救ってくれたから



〜〜


放課後。

学生はぞろぞろと解散していく


女子C:森田さん、またあしたね!

ひかる:うん、またあした…


そして教室には私だけ


やっとおわった、いちにちがとてもながくかんじた

はやくなれなきゃ


ひかる:○○……


私の事なんて覚えてないよね…

あの日々の出来事、あなたにとっては些細なことなんだろうけど私にとってはかけがえのないものなんだよ……


ひかる:ホントは会いたいよ……


でもこわい、わすれられているんじゃないか

そうおもうだけでこわれてしまいそうな……


ひかる:…………かえろ




晴れていた空は、今や大量の雫を降らしている


ひかる:傘もってきてないよ……


止むまで待つか……


○○:ねぇ

ひかる:ビクッ!?

○○:あっごめんごめんビックリさせちゃって


あぁ…くるしい、くるしい、くるしい


○○:森田さん…だよね?もしかしてさ、傘もってきてない?


いやだ、いやだ、いやだ

わすれないで、わすれないで


ひかる:は、はい……てっきり降らないものだと…

○○:よかったらさ、僕の使う?家近いから


しってるよ、いえがちかくにあることも

わたしはわすれてないよ、だからおねがい



私の事を……あの日々を……忘れないで



ひかる:で、でも……

○○:……大丈夫だよ、“ひーちゃん”


ひかる:…………えっ?

○○:ひーちゃんでしょ、幼稚園がいっしょだった


ひかる:あ、あぁ……

○○:久しぶり


瞬間、押さえ込んでいた涙が溢れ出た

もう我慢する必要も無いから

私は今までの想いと共に○○へ抱きついた


ひかる:○○…………○○!……うわぁぁぁん!!

○○:ふふ笑、相変わらず大胆な泣き方だな笑

ひかる:私、私ぃ…忘れられてるかもって……

○○:…忘れないよ、あの頃もいつも泣いていたね


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

○○:おい!ひーちゃんをいじめるな!

ひかる:○○……

男子C:なんだおまえ!

男子D:おまえもいじめちゃうぞ!

○○:かかってこい!ぼくはひーちゃんのヒーローだ!

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○○:今思えば、恥ずかしいね笑

ひかる:恥ずかしくないよ、私にとって○○は本物のヒーローだから

○○:んー、なんか照れちゃうな///

ひかる:えへへ///

○○:でもビックリしたよ、急に引っ越しちゃうんだもん…しかも何も言わずに


少し怒っているようにも見えたその表情も愛おしい


ひかる:ごめんね、言い出す勇気がでなくて……

○○:寂しかったなぁ……


時が緩やかに流れる

雨は変わらず降り続いている


○○:帰ろっか?

ひかる:うん、そうだね

○○:傘ひとつしかないから相合傘で

ひかる:うん///


雨音が2人を優しく包む



〜〜



ひかる:私の今の家ここだから

○○:ここかぁ…結構歩いたね笑

ひかる:ふふ笑

○○:……じゃ、明日また学校で

ひかる:…うん


そう言って彼は背を向け、歩きだす


ひかる:……あ、あのさ!

○○:ん?なに?

ひかる:わ、私○○のことが好き…この先もずっと

○○:…うん

ひかる:○○は私の事どう思ってるのか分からないけど、この気持ち今伝えなきゃって……

○○:……僕もひーちゃんのこと好きだよ

ひかる:っ!じゃあさ…

○○:でも!……改めてひーちゃんの事を知りたいからゆっくりじゃだめかな?

ひかる:……また離ればなれになるかもしれないし…

○○:大丈夫、僕はどこにもいかない

ひかる:○○……

○○:だからさ“ひかる”もどこにもいかないでね


雨音は消え、静けさを取り戻す


ひかる:……うん!約束!


忘れることのない尊きあの日々

その日々が戻ってくることはないけれど…


またここから、ゆっくり歩き出せばいい


そうだ、焦らなくていいんだよね

だって………






私の恋は“今”始まったばかりなんだ

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