櫻蕊降りて恋を成す〜大園玲〜
お昼、私の楽しみはーーーーーーーーーーーーーー
その華奢な体にはかなり重たいであろう扉を開く
玲:うんしょ……おや?
○○:Zzz……
どうやら今日は先客がいるらしい
玲:うわぁ…爆睡してる……いひひひ笑
私のお昼の楽しみは、屋上での1人昼食
決して友達がいない訳ではない…が、お昼は1人のほうが居心地がいい
玲:この人も同じなのかな……
○○:Zzz……
自然と指が彼の頬に触れる
玲:ツンツン…
○○:う〜ん……
玲:……可愛い笑
なんでかな、愛おしさが胸に広がってゆく
玲:……ねぇ、君も1人が好きなの?
期待を抱いて問いかけるが、返答は返ってこない
そりゃそうだよ、寝てるもんね
玲:ごめんね、邪魔しちゃったよね?
ゆっくりと立ち上がり、きた道を戻る…
玲:またね
最近、1人の時間が心地よいと思うようになった
少しだけ重たい軋む扉を開く
○○:……あー、気持ちいい
柔らかな風が頬を吹き抜けていく
いつも通り大の字になり、空を見上げる
○○:綺麗だなぁ……
快晴とまでは言えないが……それでも十分すぎるほどに青々としている
自分だけの世界だと錯覚してしまうほどに静かな空間だ
○○:………
瞼を閉じ、深い底へ落ちていく…
『……でね…その子実はさ……なんだって…えへへへ笑』
なんだろう、この声は……いつも聞こえてくる
途切れ途切れでよく聞き取れないが、とても心が癒される…
『じゃあ、またね』
待って……君のその姿を今度こそ…
深い底から這い上がる
○○:っ!待っt…
見渡してもその姿は見当たらない
○○:…夢……なのか?
いや、確かに君はそこに存在していたはずだ
いつか必ず
今日はどんな話をしようかな?
なんて……聞こえてもないはずなのに…何してんだろ
相変わらず重たい扉だ
玲:……あれ?
目の前には伽藍堂な屋上
……胸の奥の何かが壊れる音が聞こえた
玲:………どこにもいかないでよ…
なぜこんな言葉が出てしまったのか、私にもわからない
1人の時間が好きでこの屋上に来ていたはずだ
それがいつの間にか……
玲:いやだよ……
頬を流れるものを理解することはできなかった
否定したかったんだこの気持ちを
玲:私は……君が…
その後に続く言葉を必死に押さえ込む
まだ名前も知らない
好きなものも
苦手なものも
どんな些細なことも
何も知らない
でもね……好きになるのに理由なんていらないから
泣きじゃくるその音を掻き消すように、扉が開く
玲:え…?
○○:あっ
玲:………どうも…
聞き馴染んだ声だ、やっぱり夢なんかじゃなかった
○○:その……大丈夫?
玲:な、何がですか?
○○:いや…泣いてたけど……
玲:泣いてないけど
○○:無理があるでしょ笑
笑顔……初めて見たな………もっと知りたい
玲:…私、大園玲………君は?
○○:俺は○○、初めまして……じゃないよね大園さん
玲:え?それはどういう……
○○:ずっと聞こえてたよ、楽しそうに話しかけてくれてたよね
玲:っ!?ひ、人違いじゃない!?
○○:いぃや、大園さんだね…間違える訳ないよ!
その声に、僕は恋をしてしまったんだから
玲:な、何を根拠に!?
○○:そ、そんなこと言えるわけないだろ!
1人の時間が好きだ、それは今も変わらない……だけど
玲:…………いひひひ笑
○○:……………あははは笑
もういいか、この気持ちを全て……
玲:…………好き
○○:……………うん、僕も
まだ全然、君のことを知らない
だからなんなんだ
これから知っていけばいい
でもひとつだけ知ってることがあるよ
“君はこの夏、恋におちた”